設置の趣旨及び特に設置を必要とする理由
氈D設置の趣旨
1.大学の沿革
学校法人多摩美術大学は、昭和10年に多摩帝国美術学校として東京都世田谷区に開設され、昭和28年に設立当初からの美術教育の伝統を継承して、造形芸術全般について、広く高度な学理技能の教育、研究を目的として、多摩美術大学美術学部を開設した。また、昭和39年には芸術系私立大学ではわが国はじめての大学院美術研究科を開設し、より高度な専門的知識や技術をそなえた人材の育成をはかることとした。
美術学部は、科学技術を基盤とする新たなる文化芸術の時代において、国際社会に対応する幅広い教養を身につけた人格の形成を図るとともに、現代社会に貢献する優れた芸術家、デザイナー及び教育研究者等の育成を目的として、多くの人材を輩出しこれまで広く社会に貢献してきた。
近年の社会情勢の変化は急速かつ多岐にわたっており、大学教育のあり方も大きく変化してきていることから、さらに平成10年にはデザイン科の改組転換によるデザイン教育の抜本的な改革を行うとともに、芸術学分野における教育研究の高度化を目指して、大学院に芸術学専攻を設置した。
引き続き、平成11年には伝統的な夜間教育の美術学部二部を発展的に改組転換し造形表現学部(夜間学部)として設置した。
これらの改革は、大学を取り巻く社会情勢の変化に積極的に対応したものであり今後とも美術分野の教育研究のさらなる発展にむけて、不断の改革を重ねることを目指したものである。
資料1.平成8年度以降における大学院美術研究科入学志願者数、合格者及び入学者数等状況
資料2.大学院学位授与状況推移
資料3.平成8年度以降における美術学部入学志願者数、合格者数及び入学者数等の状況
資料4.美術学部外国人留学生志願者数、合格者数及び入学者数等の状況
資料5.平成8年度以降における美術学部二部・造形表現学部入学志願者数、合格者数及び入学者数等の状況
2.大学院の整備
教育研究の高度化に対応するため、昭和39年に芸術系私立大学では我が国初めての大学院美術研究科の認可を受けて、絵画、彫刻、デザインの専攻を設置し、その後、平成10年には芸術学専攻を開設して、現在では1研究科4専攻の編成となっている。
また、修士課程の教育に対する社会的な要請が多様になるにしたがい、専門性の高い職業人の養成や社会人の再教育等の役割を果たす目的から、平成6年に昼夜開講制を導入した。
修士課程においては、特定の専攻分野における研究能力の涵養を目指すとともに高度の専門職業教育、社会人に対する高度の教育に重点を置きつつ、芸術研究及び芸術創作に関する高度な教育研究を行っている。
3.美術専攻(博士後期課程)の設置
本学の修士課程においては、これまで、研究者養成及び高度専門職業人の養成を目指して、絵画専攻、彫刻専攻、デザイン専攻、芸術学専攻の各専攻分野の知識と制作技術とをより専門的に探求することを目的としてきた。しかしながら、現代社会においては、社会の急速な変化や学術研究の著しい進展に伴い、幅の広い視野と総合的な判断力を備えた人材の養成が求められている。このことから既設の絵画専攻、彫刻専攻、デザイン専攻、芸術学専攻の修士課程における各教育研究内容の一層の深化を図ることを目的として、美術専攻(博士後期課程)を設置することとした。
ただし、美術専攻(博士後期課程)においては、修士課程との継続性と専門性を考慮しつつも幅の広い視野と総合的な判断力を備えた人材養成と進学者への柔軟な対応、進学需要者の動向などを勘案して、各専攻ごとに博士後期課程を設けるのではなく、既設の4専攻の教育研究領域を包括的に編成することが、適切であると判断したことから、美術専攻(博士後期課程)として設置することとした。
.特に設置を必要とする理由
1.専攻設置の目的
近年、社会の高度化、複雑化、多様化が進展する中で、高度の専門知識や能力を有する人材の養成が求められているとともに、学術研究の著しい進展や社会の変化に対応できる幅の広い視野と総合的な判断力を備えた人材の養成が求められている。このような時代や社会の要請に対応するために、本学が創設当初から培ってきた伝統的な美術教育を基盤として、今日的課題に柔軟に対応できる高度な専門性を有した人材の養成を目指して、既設の修士課程における絵画、彫刻、デザイン、芸術の各領域を包括的に編成した美術専攻(博士後期課程)を設置する。
美術専攻(博士後期課程)は、美術理論研究と美術創作研究の総合化を目標とする。美術理論研究は、美術の理論や歴史に関する研究であり、美術創作研究は美術およびデザイン作品の制作・実技に関する研究である。
既設の修士課程においては4専攻に細分化されているのに対して、特に実技系の分野が美術創作研究という一つの領域に統合されている点に、本専攻の最大の特色がある。
これは近年の美術やデザインの状況が、従来の専門分野における区分の枠を越えつつあることに対応するためのものである。
今日ではインスタレーションと呼ばれる領域やメディアアートなどの新たな表現などが台頭してきており、こうした多様な方向性をもった傾向は、将来さらに拡大していくものと思われる。修士課程までの専攻を通じて各分野の素養を培った上で、より柔軟な視野に立った総合的な創作研究を進めるための人材の養成は、博士課後期程のレベルにおいて、今後、もっとも必要とされる課題である。
また美術理論研究においても、各自の専門とする分野の研究を深めると同時に、多様化しつつある美術、デザインの動向を総合的に捉え、体系化しうる人材の育成の重要性が増しつつある。
このような基本的な考え方に基づき、博士後期課程においては、包括的な編成としての美術専攻(博士後期課程)を設置する。
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資料8.教育領域の相関図
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2.美術専攻(博士後期課程)で1専攻とする理由
現代社会においては、学術研究の著しい進展や社会の変化に対応できる幅の広い視野と総合的な判断力を備えた人材の養成が求められている。一方、大学院の教育においては、それぞれの課程や専攻の目的や役割の明確化とそれに沿った教育研究組織体制の整備を図ることが課題となっている。>
特に、社会が必要としているのは、細分化された個々の領域における研究とそれらを包括的に編成した総合的な学問とバランスのとれた発展である。
また、科学技術の発展や学術研究の進展に伴い、美術分野における創作と理論の双方の基礎的な素養を兼ね備えた人材の養成も求められている。
本学の修士課程においては、各分野の知識と制作技術とをより専門的に探求することを目的とした教育研究を展開してきたが、今後における美術分野の教育研究水準の質的向上と幅広い視野を有した研究者あるいは高度職業人養成の役割を重視した総合的かつ多様なシステムの構築が求められているいることから、個々の領域を包括的に編成し、新たな時代の要請への対応にむけて、美術専攻(博士後期課程)を設置する。
本専攻は美術創作研究と美術理論研究の総合化を目標とするが、美術創作研究を主とする学生には一定の美術理論研究の単位の取得を課し、美術理論研究を主とする学生にも美術創作研究の単位の取得を課することにより総合化を目指すものである。コンピュータの高度な発展や新たなメディアの進展に対応する人材を養成するためには、創作と理論の総合化による局面が増大しているという状況に対応するための基本的な対応である。以上のような教育目標を実現するためにも、本課程を1専攻とする必要がある。
3.修士課程との関係
修士課程は絵画専攻、彫刻専攻、デザイン専攻、芸術学専攻の4専攻からなり、学部教育の延長上に、各自の専攻分野の知識と制作技術とをより専門的に探求することを主たる目的としている。美術専攻(博士後期課程)では、そのような専門的な素養を身につけていることを前提として、個別的な指導によって研究者あるいは高度職業人としてのさらに高度の専門性の確立を目差すと同時に、創作と理論の双方にわたる総合的な視野を涵養することを主要な目的とする。
各院生に主副2名の指導教員を当て、また全教員による総合研究指導の科目を設けているのはそのためであり、修士課程との継続性に配慮しつつも、新たな視点を導入した美術専攻(博士後期課程)ならではの特色となっている。
4.教育課程の特徴
本学の修士課程が4つの専攻に分化しているのに比べて、美術専攻(博士後期課程)は美術専攻の1つに総合化し、4つの専攻から構成される修士課程との質的な区分化をしており、今日の複雑多様な芸術状況に対応できる、高度な知力と創造力を統合する。
資料9.教育課程概念図
5.教育課程の編成と履修方法 美術専攻(博士後期課程)においては、修士課程との継続性と専門性を配慮しつつ、研究領域ごとに理論と実技の研究指導の比重を考慮することができるように、研究領域ごとに実技制作を行うことで、理論と実技を同時に研究指導するとともに研究主体の区分化を図ることが可能となるような編成とした。 具体的には、美術専攻(博士後期課程)においては、これまでに主に実技系を研究し、今後も美術創作を究めることを目的とする者と、これまでに主に理論系を研究し今後もさらに美術理論を究めることを目的とする者に大別される。このことから、教育課程の編成においては、自身の専門のさらなる追及を第一の目標に置きながら、同時に実技系を研究する者は自己の専門以外の美術創作研究と美術理論研究を、理論系を研究する者は美術理論研究と美術創作研究の授業科目を履修することによって自己の研究領域の狭小化を避け、幅広い視野と見識を備えた芸術家や芸術理論家を目指すことができるように配慮した。
授業科目の編成 授業科目 担当教員 単位 摘要 1年 2年 3年 美術創作研究 若林奮、横尾忠則、馬越陽子、佐藤晃一 4 各研究により12単位履修 美術創作研究 若林奮、横尾忠則、馬越陽子、佐藤晃一 4 美術理論研究 4 美術理論研究 4 総合研究指導 辻惟雄、李禹煥、本江邦夫、建畠晢、若林奮、横尾忠則、馬越陽子、
佐藤晃一
2
2
2 6 修了の要件 修了のためには、総合研究指導6単位及び美術創作研究・美術理論研究12単位以上、合わせて18単位以上修得し、かつ研究指導を受け博士論文を作成し審査に合格しなければならない。 ○履修方法の考え方(例) 美術創作研究と美術理論研究の履修 創作研究系 理論研究系 美術創作研究 美術創作研究 美術理論研究 美術理論研究 6.研究指導の方法と学位の授与
美術専攻(博士後期課程)においては、徹底的な個別による教育及び研究指導を行うこととし、研究指導については、複数の指導教員が研究指導を行う体制を整えることとした。指導教員については、院生の研究テーマに則して中心となる内容を担当する主指導教員1名と副指導教員1名により研究指導にあたることとする。副指導教員については、創作研究系を主専攻とする院生に対しては、理論研究系の領域を担当とする副指導教員が、理論研究系を主専攻とする院生に対しては、創作研究系の領域を担当とする副指導教員が、研究指導にあたることとし、両分野の研究の連携を図り、個別の院生に密度の高い論文指導(研究指導)が行えるよう計画している。
学位の授与は、所定の研究指導を受け、必要な単位を修得し、博士論文を提出の後、試験に合格することによって「博士(芸術)」が授与される。その際、必要に応じて、成果発表を実施し、研究の進捗状況を報告することにより、学位の水準を維持しつつ、円滑な学位の授与ができるように配慮する。
7.入学試験の方法
入学試験は専門的能力と総合的能力の両面にわたって審査する。専門研究の能力については、修士課程での学力と実技の実績をもとに美術専攻(博士後期課程)入試委員会が論文および作品並びに面接試験により総合的に能力評価を行い決定する。
8.施設設備の利用計画
本学では、開学以来、教育研究環境の整備充実に積極的に取り組み、特に、施設整備については、十分な整備に努めてきたことから、新たな専攻の設置においても現状で十分対応することが可能である。 図書館には、美術関係を中心とする蔵書があり、一般の学生閲覧室以外に、大学院生のためのコーナーが確保されている。図書館では蔵書データベース化の作業を実施しており、2001年度からは、その一部がネットワークに公開される。 美術館は、八王子校舎から6kmはなれた、多摩センター駅附近にあり、本学の所蔵品の展示以外にも、企画展などの研究活動が盛んに行われている。
9.研究室および自習室の考え方
美術専攻(博士後期課程)の専用施設として、院生研究室1室と院生自習室2室を準備する。院生研究室には、キャレルデスク、書架、OA機器、専門図書等を備えることとし、特に、図書については、図書館に収蔵する専門図書のほか、日常的に使用できる専門図書、参考書、辞書等を配することにより、研究室における研究環境の整備を図ることとしている(資料 研究室及び自習室)。 本学では、開学以来、教育研究環境の整備充実に積極的に取り組み、特に、施設設備においては、十分な整備に努めてきたことから、美術専攻(博士後期課程)を設置しても現状で十分に対応することが可能である。
資料7.大学院美術研究科博士課程研究室及び自習室
10.学生確保の見通し 現在、修士課程に在籍している者の中には、強い進学意向を示している者がいることから、修士課程に在籍している者に対してアンケート調査を実施した。その結果、修士課程終了後、引き続き博士後期課程に進学したいと回答した者が5名、進学を考えると回答した者が23名となっている。
このように、本学の修士課程における限られた者に対するアンケート調査の結果においても、美術専攻(博士後期課程)への進学意向がうかがえることから、現在の我が国における美術系の博士後期課程の設置状況を勘案すると学生の確保については十分に見込めるものと思われる。
調査対象:本学大学院美術研究科修士課程2年在籍者93名
14名 5名 23名 進学したい 進学を考える 進学しない
0 5 10 15 20 25 11.修了後の進路及びその見通し
本専攻では、研究者として活躍できる人材の養成に加えて、高度の専門的職業人として活躍できる知識や技能を備えた人材の養成を目的としている。近年の美術の状況は、メディアアートなど研究と創作、理論と実践が相互に連携した領域が拡大しつつあり、そのような傾向に主導的な役割を果たす人材を送り出すことが期待される。
美術専攻(博士後期課程)の設置は、このような時代的変化や社会的要請を十分に踏まえたうえで計画していることから、美術分野において高度な知識と技能を身に付けた研究者及び高度専門職業人としての活躍が期待される。>
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