5)現実的な光源による質感の表現

 

モザイク絵画の制作工程においては、モザイク片の色と形と位置を明確に決定しなければならない。

イスタンブールのイスラム寺院の壁面から発掘されたビザンチン時代のモザイク画「天使像」は「入射角と反射面法線と反射角は同一面に存在する」という反射の法則に則り、顔肌の数箇所の白色ハイライトが、太陽の位置関係を正確に表現している。

また、太陽の光が直接に当たらない顎の下の陰の部分は、周辺からの反射光を反映して紫色に表現されている。

反対に画面の背景は、宗教的な効果をあげるために、現実のものではない無の空間を群青色で表現し、太陽光に照らされて黄金色に輝く天使像を浮かび上がらせている。

このように現実的な光の効果は西欧中世の絵画にはみられない。

工業デザインで描かれる「レンダリング技法」の場合は、リフレクションの効果を多用して、現実感を演出する。
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このような現実的な光源を復興したのは、北方ルネッサンスである。

ファンアイク「ファンデルパーレの聖母」1436年に描かれた宝石や金属部分の鏡面反射および布部分の拡散反射は、画面には描かれていない左側の窓の光源を正確に反映し、空間幾何学的な整合性をもっている。

同じくファアイク「アルノルフィニ夫婦の肖像」1434年のシャンデリアの金属部分は、室内の壁面と窓の虚像を描くことによって表現されている。アングル

コーネル大学の研究発表「反射係数の効果」「反射光の分布」は、物体表面の円滑度と反射係数の変化による、質感の表現をシュミレーションしている。分子模型CG 質感
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ルーベンス「最後の審判」1616年の 人体群像において、肉体を照らす光は肌色のフィルター効果によって赤味を増し、近接する肉体の直接光のあたらない部分の肌を赤く染める。

しかしながら同じルーベンス「勝者の戴冠」1612年の場合は、人肌と鏡面の甲冑が隣接していながら相互に反射光の影響がないのは奇妙である。

また同じくルーベンスの「花環の聖母」1620年の肌色の諧調を観察すると、陰の部分と景の部分の中間帯の、直接光も反射光もあたらない部分に、わずかに青味を帯びた第三の陰影が出現する。

この第三の陰影は、モチーフの人物が褐色の暗い空間にありながら、太陽と青空の下にあることを暗示している。

電灯の発明によって、絵画表現に新しい光源が加わった。

パーティー会場から抜け出し、真っ暗な夜の闇で涼む人物を描いている現代的なイラストレーションは、寒色と暖色の対立する色調よって劇的な効果をねらっている。

右からはエジソンが発明したタングステン電球の燃える光が、左からは月光の冷たい光が照らしている。
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北斎 ポンペイ壁画  若冲 絨毯