運動の知覚

多くの動物は、身体をいろいろに動かして形を変えたり、身体全体を移動させたりする
また、自分の仲間や敵や獲物などの動きに対して素早く反応したりする。
このため、運動の知覚は、動物の生活にとってきわめて重要である。
また、運動の知覚は実際の運動だけで生じるだけでなく、
映画やアニメーションのように、静止画像の連続提示をすることでも生じる
これは、仮現運動と言われる知覚現象によって起こる。




仮現運動
 

仮現運動とは、静止した画像を適当な間隔で次々に提示すると、映像が動いて見えることを言う。


(視覚心理学への招待  第8章 運動の知覚  図8.9を参照)


例えば、図のAのような2線分をきわめて短時間ずつ継時的に提示すると、AとBが同時に見える(同時時相)。
また、時間間隔が長いとaが消えてからbが出現するように見える(継時時相)。
その中間の時間間隔でaがbのところまでスムーズに動くように見える(最適時相)。

このような見え方が生じる時間感覚は固定的なものではなく刺激図形、間隔距離、間隔時間、被験者によって異なる。
また、時間条件によってはab両方かいずれか一方が少し動いて感じる2極部分運動、1極部分運動も生じるし、
動く対象が見えず運動のみが感じられる純枠ファイと呼ばれる場合もある。
この最適時相で感じられる見えの運動が典型的な仮現運動である。
また、仮現運動には、アルファ運動・ガンマ運動・デルタ運動・などの、さまざまな仮現運動も見られる。
α(アルファ)運動
図形の大きさが変化して見える運動。
ミュラー・リヤー錯視。図形の両端の矢羽根を交互に呈示すると
主線が伸縮して見えるような運動をいう。


γ(ガンマ)運動
単一の図形が出現・消失の際に拡大・縮小して見える運動。
暗室で光点を呈示する場合、出現時には中心から周辺部への膨張が、
消失時には周辺部から中心への収縮が観察される。


Δ(デルタ)運動
第1対象より第2対象のほうが強度がが強いと、提示順序と逆に、第2対象から第1対象への運動が見える。



仮現運動によって最適運動が出現するための空間・時間・刺激輝度条件については、その後組織的に研究されたコルテの法則としてまとめられている。

コルテの法則


最適運動を出現させるには・・・。

①時間間隔が一定ならば、刺激輝度の上昇とともに最適空間距離が増加する。

②空間間隔が一定ならば、刺激輝度の上昇とともに最適時間間隔が短縮する。

③刺激輝度が一定ならば、空間距離の増加とともに最適時間間隔は増加する。


ただしこれらの関係は定性的な関係である。また最適運動が生じる時間間隔に適運動が生じる刺激間時間間隔( inter-stimulus-interval, ISI )が短くなる傾向が認められ、
時間条件を表す指標としては、第1刺激の提示時間と ISIを加えた SOA( stimulus-onset-asynchrony ) がもっとも適当であるとされている。
このSOAとは、第1刺激の開始から第2刺激の開始までの時間間隔である。
なお、コルテの法則における空間間隔距離については、視角ではなく見えの距離が重要であることが主張されている。

運動残効
運動残効とは、滝の水の流れをしばらく見つめていたあとで、周囲の岩を見たときに、今度は岩が上に昇っていくように見える現象のことを言う。
また、航行中の船端から水面を見つめたあとや、電車の窓から外の景色を見つめていたあとにも、同じような現象が見られる。
このことから、滝の錯視(watarfall illusion)とも呼ばれている。
残効運動は上下運動だけでなく、回転運動や拡大・縮小運動にも生じる。
このため、今日では運動知覚の神経機構が運動方向別に存在し、それらが運動の持続的観察によって選択的に順応するために生じるとされている。




    滝の錯視  



下に動く縞模様パターンを見続けて急に止めると、縞模様が上に動いて見える。


*運動残効は、滝の錯視のような上下運動だけでなく、回転運動にも見られる。




誘導運動

雲の合間に月が出ているときに、それを見ていたら月が動いているように見える。
もちろん月は、地球の自転に伴って動いているが、その動きはとても遅く、人の目では確認できない。
この時、雲が風に流されて動いていることはまわりの建物や木などでわかるが、月は雲の流れとは逆の方向に動いて見える。
このように、動いている物と静止しているものがあるときに、静止しているものの方が動いているように感じることを、誘導運動という。





また、橋の上から川の流れを見ていると、自分自身が川の流れとは逆に動いていると感じたり、駅で停車している電車の中に乗っていた時、隣の路線に停車していた電車が動き出したら、自分のほうが動き出したと感じる、錯覚の現象も誘導運動である。
しかし、月と雲のような純粋な視覚の誘導運動と区別して、自分の体が関与しているものを自己誘導運動とも言う。
また、ビックリハウスも自己誘導運動の一つである。



ビックリハウス


遊園地にあるビックリハウスは、家具などが置かれた部屋の真ん中にブランコが吊り下げてある。
人がブランコに座るとブランコが揺れる。そして、少しずつ部屋全体が動き出す。そして、1回転をしはじめる。この時、ブランコは自体の揺れは止まっている。
しかし、ブランコに乗っている人は、部屋が回転しているのではなくブランコに乗っている自分が1回転しているように感じる。
なぜならば、部屋が回転するよりも自分が回転する方が自然に感じるからです。
目から感じる情報は、部屋と自分のどちらが回ってもほぼ同じなので、自然に感じる自分の方が回転しているように感じるのです。
もちろん、自分が回転していると重力などを感じるのだがもちろんそんなものは感じない。
なので、重力のような体に感じるよりも、視覚から入る情報の方が状況を知る上で大きな影響を与えている事がわかる。


ビックリハウスは自己誘導運動を利用したアトラクションです。
実際は真ん中の図のように部屋が回転しているが、感覚的には右の図のように、自分が回転しているように錯覚する


生物学的運動知覚

生物学的運動知覚とは、ヨハンソン(Johansson, 1973)が身体の肩、腰、膝、足首などの関節部分に光点をつけた人が、暗闇で運動する画像を撮影し、人々に見せた。
静止画像の場合は、光が何なのか分からないが、画像が動き出したら、人の姿と気づくことができる。また、歩いているか、走っているか、男か、女かにも気づくことができることを言う。

このように、運動知覚は一般に静止した図形の知覚と違って、生き生きとした生物的な印象を与えている。





まとめ


運動と知覚を調べて結果、私たちが生活をしていく上での一番多く得ているのは目からなどの情報だということが言えるだろう。
視覚情報は、静止画を知覚するだけでなく、錯視によって動きを認識することができる。
もちろん、その動きによって、実際には起こることのない現象(運動残効や誘導運動で説明している)を見たり感じたりして困ることもあるかもしれないが、逆にその視覚情報をうまく利用したのがアニメーションである。一枚ではなんの動きも感じられない静止画でも多くの数を連続提示することで(見えのスピードには最適時間が必要だが)画像の動きを知覚することができ、臨場感やスピードまでも知覚することができる。(一番手軽にためすことができるのはパラパラ漫画である)