<ドンブリ(丼)>
 ワンシーン・ワンカットのこと。普通一つのシーンはいくつかのカットによって成り、例えばシーン15のカット8といった具合に、順番に番号がつけられているのだが、短いシーン、あるいは長回しなどで、一つのシーンが、一つのカットだけで終わってしまうことがある。この場合これを例えばシーン15のドンブリと呼び、カチンコやスクリプト・シートには「丼」と書く。このシーンには他のカットはないよと云う、編集者への配慮である。

<押し>
 カメラの向いている方向のこと。映画の撮影では、照明その他の都合で、一方向だけのカットをまとめて撮ることが多い。これはその撮影のカメラが向いている方向のことで、例えばセットであれば、「床の間押し」「廊下押し」などといった具合に使われる。ちなみに、押しが180度変わることを「どんてん」または「ドッテン」と云い、これがかかると、照明部さんは大車輪、俳優さんは大あくびということになる。

<ピーカン>
 快晴のこと。カツドウヤは常に晴れが好きである。ロケーションに出た場合、白黒の時代はもとよりだがカラー全盛の現代でも、お天気の方がベストの撮影効果が期待できるからである。(曇りや雨をねらっているのにピーカンという皮肉もあるが)スタッフの中には、そいつが来ると必ず雨になる「雨男」、妙に天気を持ってくる「お天気坊主」がいる。ロケ宿で雨に降りこめられると、スターやロケマネ(ロケーション・マネージャー)が出資して「お天気祭り」の大宴会をやったりする。

<なめる>
 人間関係のあれではない。撮影の画面構成でよく、手前に人の肩や家具などを一寸入れて撮ることがある。これを例えば「肩なめで撮る」などという。京都の撮影所では、「入れ込み」などとも云っている。よく似ているのに「パン・フォーカス」があるが、これは、手前にクローズアップの人物を置き、ロングに別の人物を置いて、両者の間で芝居をさせるという画面方式で、「なめる」よりさらに進んでいる。

<けつパッチン>
 忙しい俳優を使っていて、例えば今夕の6時までにどうしてもテレビ局に渡さなければならないなどと云う場合、その俳優のスケジュールは終(けつ)をバッチリ押さえられているわけで、これを「けつパッチン」という。相手がどんな花恥ずかしい女優さんだろうと「××さんけつパッチンですので抜き撮りお願いしまーす」などと使う。

<カラオケ>
 これはもうあまりにも人口にカイシャした言葉だが、少なくとも昭和30年代くらいまでは、映画界やレコード界だけで使われていた「専門語」であったはず。云うまでもなく「空オーケストラ」の略だが、大人数のオーケストラを呼んで音楽どりをする場合、歌手のスケジュールがどうしても合わない時など、伴奏のオーケストラの部分だけをとっておいて、あとでミックスして使うというやり方をした。「ひばりちゃん来れないの? じゃカラオケで行こう」と云った具合。

<ありもの>
 映画の中で使う衣装には3種類ある。「新調」「ありもの」「自前」である。「新調」は文字通り予算をかけて新調するもの。「ありもの」とは、過去に作って衣装部などに保存されているもの。「自前」は、若干の損料を払って俳優さん自身の衣装を借りることである。
 かつて大船の衣装部には、ありものの和服の膨大なコレクションがあったものだが、今は別会社となった貸衣装会社の倉庫に眠っているらしい。

<笑う>
奇妙に思えるだろうが、これはカメラのフレームの中にある小道具などを「どける」ことをいう。「その茶碗ちょっとじゃまだな、笑っちゃってよ」と云った具合。これはおそらく、その逆の「泣く」から来ているものと思われる。現場では、小道具や機材などが間に合わなくて、なしで撮ってしまうことがある。これを「泣いて」撮るという。あるべきものなしで撮るのが「泣く」なら、逆に、あるものをなしにするのは「笑う」だろう、という理屈である。

<ヌキ6>
 メジャーの撮影所は組合がしっかりしていて、労働時間は意外に正確であった。セット撮影の場合、朝9時開始、夕方5時に終わる。これが定時である。それを過ぎた残業は夕食1時間をいれて午後6時からとなる。ところが、撮影が5時では終わりそうもないが、6時までぶっ続けにやれば終わるだろうという時がある。こんな時、夕食ヌキで6時まで仕事をすることを「ヌキ6」と言った。一方、夕食1時間を入れて8時まで残業することを「シャリ8」という。言うまでもなくシャリとは米の飯のことである。撮影が夕方5時に近づいてまだ終わりそうもない時、製作主任やチーフ助監督は「ヌキ6」にすべきか「シャリ8」にすべきかおおいに迷ったものだ。さらに6時半ぐらいで終わりそうなので、パンなどを差し入れて飯ヌキで強行しようという時もあり、これを「パンつなぎ」と呼んだ。「ヌキ6がパアでさ、結局パンつなぎよ」といった具合。

<セッシュ>
 例えば、背の高い男優と背の低い女優を並べて撮影したりする時、画面の中で両者のバランスをとるために、女優の足の下に何かのカイモノをしたりすることがあった。これは人物と小道具の間でもよく行われた。一方の足元に台のようなものを足して、背を高くすること、これをセッシュと呼んだ。「接身」という字をあて、またアメリカ映画初期の日本人スター早川雪舟にちなむものともいう。セッシュには本や座布団などもよく使われた。交互にセッシュし続けて、とうとう引っくり返ってしまったなどという珍談もある。

<マチポジ>
 「待ちポジション」の略。カメラの画面構成の上で、ある部分が空いていて、明らかに暫くするとそこに或る人物が現れるだろうと予想させるものがある。これを「待ちポジ」と言い、カメラマンの間では下の下とされた。

<小道具>
 背景となる建物関係は大道具で、家具や俳優に付属した道具、飲食物、帽子、靴、小物類などは小道具である。意外にはっきりしていないのが衣装と小道具の境目で、タオルは小道具だが、手拭いは衣装。「君の名は」で有名な真知子巻きは、本来は小道具なのだが、衣装部が管理していた。欧米の撮影所では、かぶりものや履き物は、「ウオードローブ」として、衣装部の管轄のもとにあるようだ。


<ラッシュ>
 撮影を終わったがまだ完全な編集を加えず、未整理のままつないであるフィルムのこと。またそのフィルムを見ること。ロケやセットが終わって数日すると、スタッフ全員が試写室に集まって現像されてきたラッシュを見る。これをラッシュをするとも言う。撮影が完了すると、フィルムを全部シナリオの順番につないで試写するが、これを「オール・ラッシュ」または「総ラッシュ」と言う。この試写には、会社の首脳部も立会い、内容や長さについていろいろな意見を出す。 

<インサート>
 挿入画面と訳される。動きのあるシーンの冒頭または中間などに挿入される、動きの少ない短い画面のこと。例えば屋内の場面がある時、その冒頭その建物を示す説明のショットを入れる。あるいは人物が読んでいる雑誌や新聞のクローズ・アップ画面が挿入される。これらがインサートである。実際にもまったく別の場所や時で撮影されて、あとから「挿入」されることが多かった。

<勧進帳>(かんじんちょう)
 フィルムの編集が最終段階に入り、ダビング(音楽などの吹き込み)が近づくと、編集室の壁に張り出される横長の表。シーン・ナンバーとシーン名を台本の順序通りに書き並べ、効果音、音楽などの欄を設ける。巻物のように非常に横に長くなるのでこの名がある。音楽や音響を入れる位置や範囲が一目で分かるようになっていて、映画の最終仕上げにはなくてはならないものである。

<キッカケ>
 フィルムの中で何かを始めるタイミングのこと。例えば「音楽のキッカケ」といえば、シーンの中で音楽を始める位置のこと、また、「××ちゃんにきっかけ出して」と言えば、ある俳優が画面に登場する合図をしてやってくれということになる。この場合、キューを出すというのはTV界で、映画ではあまり言わない。

<拾い>
 小物とも言う。インサートや実写、撮り残した小さなカットなどごく小規模な細かい撮影のことで、多くは助監督の仕事。これが出て来るようになると撮影も最終段階だ。「今日のセットでクランク・アップです。拾いは若干残ってますけどね」という具合。

<ミドポジ>
  碧川(みどりかわ)ポジションの略。
 人物の手前に、物や人物の一部を入れて撮影すること。「入れ込み」と云い、また「ナメる」とも云う。日本映画初期のカメラマン碧川(みどりかわ)道夫氏が初めてアメリカから伝えたという。

<押す>
 映画の撮影はシナリオで短く書かれているからと云って、早く済むとは限らず、長いからといって長くなるとも限らない。アクション・シーンなどはそのいい例である。あるシーンをシナリオに書かれている以上に密度濃く撮影することを、「押す」という。カメラの向いている方向を「押し」というが、これはそれとは別の用法である。「今日のシーンはちょっと押すからね、定時じゃ終わらないよ」といった具合。

<おにぎり>
 映画のスチール写真(宣伝用の普通写真)撮影のこと。古い暗箱カメラはゴム玉を握ってシャッターを切ったことから来ている。スチール写真は、映画のフィルムの一部を引き伸ばしたものと思っている人がいるが、そうではない。宣伝部派遣のれっきとしたスチールマンが、現場でその都度撮影している。スチールの撮影は、撮影進行に割り込み、一時邪魔する形にするため、結構遠慮がちに行われる。現場がいい場面になって、スチールマンがお願いしますと言い出すと、照明班長が「はい、おにぎり一丁!」などと叫ぶ。


<お二階さん>
 セットの照明は、セットの天井にあたる高さに特別の足場を組み、そこにメインライトを置いて行われる。この足場で作業する照明部員を「お二階さん」と呼んだ。スタッフは上に目がないため、陰口や内緒話がよく耳に入ったという。女優さんの着替えのあられもない場面を目撃する「役得」もあったとか。

<おべんちゃら>
 撮影部が使っていた長方形で小型の一種の便利箱。カメラの小物類を入れたり、縦横いづれにも使ってカメラマンの椅子にしたりした。撮影部某氏の発明だが、自分でテレてこんな名前にしたという。

<引き>
 被写体とカメラとの距離のこと。屋内撮影がセットを組んで行われるのは、ロケーションでは(つまり実際の室内を使った場合には)、壁をはずしたり、天井を取り除いたりして、カメラと人物との距離、つまり「引き」がとれないからでる。オール・ロケ映画では、屋内シーンでカメラをあまり引けないので、アップとロングのサイズ変換が少ない。

<コンスト>
 コンストラクション(construction)、つまりシナリオの構成のこと。
 シナリオの執筆以前、ドラマの骨格をどのように組み立てるかは、きわめて重要な問題である。映画製作の最も初期の段階で、シナリオライターはプロデューサーや会社側に、自分のコンストを示して、作品の方向やストーリーの内容を説明する。「コンスト練り直しますので、もう三日ほど頂けませんか?」といった具合。クミ、箱書きなどと呼ばれることもある。

<香盤(表)>
 コウバンまたはコウバン表という。製作する映画のシナリオのシーンを順番に書き出し、一覧表にしたもの。シーン・ナンバー、シーン名、内容要約、主要登場人物、その他の
メモで成る。別に、ロケ・セットで仕分けした表も作るが、これは香盤とは呼んでいないようだ。香盤を作ってスタッフに配るのは、製作前の助監督の仕事の一つである。元来歌舞伎の世界から来た言葉という。

<フレーム>
 映画の画面の枠のこと。TVなどでは画面の外側の枠は必ずしもはっきりしていないが、映画ではカメラの機構上、画面の枠はきわめて厳密である。この明確な枠に合わせて綿密な画面作りが行われる。スクリーンで構成される画面の「絵としての」クオリティが、ブラウン管より高いのはこのためである。フレームの内部は映画独特の別世界なのだ。

<町場(まちば)>
 これは一種の差別用語かも知れない。メジャーの撮影所の内部で働くスタッフに対して、「外」でフリーで働く独立プロ系のスタッフをこう呼んだ。「町場の助監督」「町場のカメラマン」と云った具合。現今では、ほとんどすべてが町場の仕事になったようだが。

<完徹(かんてつ)>
 完全徹夜のこと。仕事の分量が多い時だけではなく、夜間ロケなどでしばしばカンテツがあった。正確には午後11時を超えて作業することで、撮影所では組合との協定で完徹すると翌日が公休出勤扱いになり、一倍半の残業料がついた。翌日が休日だとダブル公出というのまであって、強行スケジュールもウハウハという面があった。

<からみ>
 殺陣(たて)の用語。チャンバラや格闘場面で主役にからんで戦う大勢の敵役のこと。また、これらの連中が主役にからんで行くやり方のこと。「もうちょっといいカラミ、考えられないのかね」など。

<OK1、OK2>
 撮影して一度OKを出しても、監督やカメラマンが必ずしも確信がもてず、もう一度撮ってみようというのがよくあった。これがOK2で、もちろん3、4もあり得るわけだが、日本ではフィルムや時間の都合で、そうそうゼイタクはできなかった。アメリカなどで
は普通、テイク(take)1,テイク2……という。「テイク5」というジャズの名曲もある

<ぽん引き>
 「悪質な客引き」をいう一般俗語ではない。被写体からカメラを離すことを「引く」というが、例えば、ある俳優のクローズ・アップを撮り終わって、次ぎにより遠くからのサイズを撮るために、そのままの方向でカメラを引くことをいう。つまり「ポンと引く」ことだ。照明条件などはほぼそのままなので、スタッフには歓迎される。

<ぽん寄り>
 「ぽん引き」の反対で、カメラが、照明条件などはほぼそのままで、ぽんと被写体に接近した撮影位置をとること。

<寄り 寄る>
 カメラが被写体との距離をつめること。また寄って撮ったカットのことも云う。「次ぎ、ヨリいこう」「もうひとつヨリがほしかったな」など。これとは別に、松竹大船では、「一方に寄る」という意味で、「鎌倉寄り」「戸塚寄り」「山寄り」「駅寄り」などがよく使われた。右、左という指示では、カメラの側からか俳優の側からかよく分からず、混乱が生ずるからである。「そのヤカンずらしてくれ、うん、鎌倉寄り」など。

<アップ>
 カットのサイズで、クローズ・アップ(接写)の略。この反対はロング(遠写)だが、その中間には、バスト(半身)、メディウム・バスト(七分身)などもある。超アップは「どアップ」その逆は「大ロング」で、超然と日和見を決め込むことを、「ロングに引く」などと笑った。

<××づく>
 「活気づく」「色気づく」「怖じ気づく」などが普通の用法だが、カツドオヤやこれを自由にいろいろな名詞に広げて使っていたようだ。「あの役者、ちかごろスタニスラフスキーづいちゃって」「このごろすっかり海外ロケづいちゃって」など。

<アクション・カット>
 フィルム編集用語。被写体の動きを基準にしてフィルムをカットして、つなぐこと。つまり映像を中心にして編集すること。これの対照が「ダイアローグ・カット」

<ダイアローグ・カット>
 フィルム編集用語。台詞の切れ目を基準にしてフィルムをカットし、つなぐこと。つまり音ネガを本位にして編集するわけだ。「アクション・カット」の対。売り
 シナリオ用語で、伏線のこと。ある人物やある行動をシナリオの途中で出す時、いきなり出したのではちょっと唐突ということがある。この場合、あらかじめそれを前に「売って」おくのである。
「タイタニック」の例でいえば、その沈没の状況が、初めの方のシーンでグラフィックで説明されている。この「売り」があるため、観客はクライマックスのスペクタクルをよりよく理解できるというわけだ。

<ぬい、ぬう(縫い、縫う)>
 名詞または動詞形で使われる。出演の俳優は他の仕事をかけもちしている場合が多い。何日の何時からはテレビ、×日の○時からは舞台、といった具合である。あまりひどいものは下りてもらう他はないが、出て欲しい人気役者ほどスケジュールがきびしいもの。多くの出演者のスケジュールを、「縫い」合わせて、撮影日程を無事進行させるのが、製作主任やチーフ助監督の腕の見せどころというわけだ。2人の人気俳優が顔を合わせるシーンがあって、この2人のスケジュールが合うチャンスが、全日程中数時間しかないなどという危ない綱渡りもあって、胃潰瘍は「縫い」を担当する製作係の職業病の一つである。

<レフ>
 照明係が扱う用具の一つで、リフレクターの略。晴天の野外撮影で太陽光を俳優に集めるために使うので、ロケーションにはつきものといえる。通常は銀紙を張った半畳程度の大きさの板だが、鏡のこともある。

<吹き替え>
 危険がある場合、スケジュールが合わない場合など、ロングや後姿のカットでは、別の俳優が本役の俳優の代わりをつとめることがある。これを吹き替えという。危険なアクションの身代わりをつとめるスタント・マンもその一種である。一方、「スタンド・イン」というのがある。これは、撮影中カメラや照明の具合を決めるため、
助監督やその他のスタッフが一時的に代わりに入ることで、この場合、画になって出ることはない。

<仕出し>
 映画に主役や脇役以外のその他大勢、つまりエキストラはつきものである。しかしエキストラの中でもカメラに近く、若干は台詞を喋り、あるいは多少の演技をするキャラクターも必要である。これを仕出しと言って区別し、所謂大部屋の俳優さんたちに頼むのが普通であった。古い映画を見て、今は世にときめく大女優がパーティ・シーンの仕出しで出演しているのを発見したりするのは楽しい。

<打込み>
 これは劇場用語である。朝上映開始時に入った観客数のことで、その数を5〜7倍するとその日一日の入場人員数になるなどといわれ、映画の入りの指標となった。自分の作った映画の封切初日に、劇場に行って反響を探るスタッフもあり、初日の「打込み」は、撮影所でも大いに気になったものだ。

<マチフン>
 これは「町の雰囲気」の略である。映画には市街地の場面は多い。こんな時、その背景には、自動車や人のざわめきやその他いろいろな音の入り混じった雰囲気音が流れている。一般にはほとんど気づかれないが、その場所に合った町の雰囲気、いわゆるマチフンを録って来てミックスするのは、録音部の大切な仕事である。

<ノンモン>
 non‐modulationの略。映画の35ミリフィルムには、右側に細い音のためのスペースがあり、音は細長いギザギザの紋様となって現像された。これをモジュレーションという。まったく音が入らない場合、モジュレーションはただの一本の直線となって現れる。これをノンモンと呼んだ。助監督「この実写まるで音いらないんだ」編集者「じゃノンモン入れとこ」といった具合。

<赤ズレ、青ズレ>
 カラー映画の初期、撮影した画面全体が、何となく赤っぽくなったり、青っぽくなったりすることがよくあった。こんな場合は、現像の際、フィルターを使ってズレを補正するわけである。フィルムが古くなって、褪色する場合にもこんなことがよくあった。現在のカラーフィルムではほとんどなくなったが、逆に、演出効果をねらって意図的に青にずらしたり、赤にずらしたりすることはよくある。

<長回し>
 一つのシーンやその一部を、余りカットを割らずカメラを長く回したままで撮ること。一本のフィルムは普通1000フィートだから、その限度は11分以下。監督によって、長回しを多用する人もあるが、これはたしかに撮影能率を大幅に高める。しかし、10分に近い長回しとなると、俳優にもスタッフにも緊張がにわかに高まる.

<イントレ>
 イントレランスの略。組立式の大型の台で、照明器具やカメラなどを載せるのに使われる。アメリカ映画の草創期に「イントレランス」という大作があり、その撮影に初めて使われたというのでこの名がある。

<置足(おきあし)>
 45×30×15センチほどの木製の箱。セッシュやいろいろなものの置台として便利に使われる。撮影所のステージの中には、この箱がふんだんに転がっている。


<二重(にじゅう)>
 平台(ひらだい)ともいい、「荷重」の字をあてる人もある。セットの土台となる木造の台のことで、270×180×15センチを基準とし、いろいろなサイズのものがある。ステージでは普通置足を台にして二重を置き並べ、これをセットの床としていた。ステージの土間を地舞台(じぶたい)と呼ぶが、セットの床の高さは普通地舞台から45〜60センチでデザインされた。

<三角台>
 撮影用のカメラは普通トライボートと呼ばれる三脚にのせて使われるが、大船ではその代わりに三角台と呼ばれる特殊な木製の台を使用した。写真は各種の三角台を示している。左は、パナビジョン・カメラが登場する以前一般的だったミッチェル・カメラで、カメラが直接に乗っている金属製の脚は「鉄3(てっさん)」、その下の木製の三角台は「ベタ」と呼ばれる。右に積まれた三角台は、上から「チョコサン」「チュウサン(中3)」「タカサン(高3)」である。これらが使われた理由は、画面の安定ということもあろうが、小津安二郎監督の影響を受けた大船独特のロー・ポジションにあると思われる。

<カニ>
 小津安二郎監督のロー・ポジション(カメラを低い位置にセットする)のために特別に開発された三角台で、ベビー・トライポートなどでも応じきれない地面を這うような位置がとれた。中央部分はミッチェル・カメラを安定させる台で、「お釜」と呼ばれた。

<カチンコ>
 本番撮影の前に、シーンやカットのナンバーを入れる写真のような道具。パチンコとかボールド(boardの意か)などとも呼ばれる。一般には映画の象徴というようなイメージで受け取られているが、その本当の機能を知る人は意外にすくない。
 映画のすべての音響は、フィルムの右脇に写真的に現像されたサウンド・トラックと呼ばれる細い筋の中に録音されている。
 映画の映像と音響を同時撮影する際、このカチンコを打つ「パチン」という音は、サウンド・トラックの上では明瞭な一本の横の線となって現れる。そこで映像フィルムの上でカチンコが閉じているところにこの線を合わせれば、以後のすべての台詞や音はまったく映像とシンクロナイズ(同時化)したものとなるわけである。
 この小さな道具は実は映画のシンクロ撮影(映像と音の同時撮影)
の重要な要なのである。
 カチンコを打つのは、日本では通常一番下位の助監督の仕事である。したがって彼は、カチンコと同時に白墨とそれを消すためのガーゼを常に離すことができない。
 カチンコは普通両手を使い、きちんと打って開き、打ち手は音を立てないように画面外に逃げるのであるが、打った後逃げる場所がない、大変カチンコの打ちにくい場所がある。
 こんな時「片手打ち」という技術が生まれる。ぎりぎりの場所に隠れ、片手だけを伸ばして打ち、引っ込めるのである。打った後、スティック(棒)の間に指を入れて二度音が出ないようにするのがコツなのだが、この「名人芸」を誇る助監督もいたものだ。
 片手打ちなどを使ってもどうしても困難な場合もある。
 この場合、演技が終わった後打つこともあった。
 撮影の尻に打つわけで、これを「ケツ・ボールド」と呼んだ。
 極端なクローズ・アップなどの場合、普通のカチンコでは大きすぎて、字が入り切らない場合がある。この場合は黒板の一部に小さな字で書き、スティック部分が外れないよう注意して打つ。人気俳優の鼻をはさみそうな至近距離で打つ場合、結構緊張するものだ。 字は白墨で書くのだが、特にクローズアップなどの場合、打った拍子に白墨の粉が白く舞い落ちて画面をNGにしてしまうという悲喜劇が生まれる。このため本番直前にナンバーを記入した後、何度か試し打ちして白墨の粉をよく落としておくなどという細かいノウハウが必要であった。
 撮影現場では、シンクロでない時、あるいはテストの時など、別に必要ではないのに、音だけのカチンコを打つことがある。これは演技者のキッカケあるいはリズムをとるためである。
 編集室で自分の打ったカチンコの映像を見るのは面白い。
 カチンコの閉じているのは一コマであるのが理想である。
 ところが打ったあとの開きが悪いとこれが2コマ・3コマとなり、
編集者に文句をいわれる羽目になる。逆にあまりの早業で、まるで閉じている部分がないというようなこともあった。
 カチンコにどんな数字を書くかは各社のシステムによってまちまちである。松竹大船の場合上中央にシンクロ・ナンバー(同時録音番号)、下半分にシーン・ナンバー、ハイフン、カット・ナンバーとなるのが通例であった。
 ロケーションなど、同時録音でない場合、音の出るカチンコは不要である。ただし、シーンやカットのナンバーは入れなければならないので、スティックのない只の小型の黒板を用い、これをロケ・ボールドと呼んだ。
 ロケ先で突然シンクロ撮影になり、カチンコが間に合わず、手のひらを打ち合わせて代用にしたというケースもある。
 某新米助監督氏、ロケ・ボールドを尻のポケットに入れて忘れてしまい、本番直前に大あわてで探し回った。
 それを発見した照明スタッフから声あり。
 「ケツにあるじゃん。これがほんとのケツ・ボールド」
 007などの海外プロダクションでは、ナンバーを入れるのは撮影助手とスクリプターの仕事で、はなはだ事務的なもの。
 こんな珍談は聞かない。

<シギ>
 芯木(しんぎ)の訛りという。1メートル半ほどの木の棒の両端に鉤フックをとりつけて木材に打ち込めるようにした、いわば大型のカスガイである。大道具の壁などを立てて「二重」の床の上に固定するのに用いられる。

<ハメモノ>
 障子、ふすま、ガラス戸などセットの敷居に嵌め込む建具類をいう。これは大船撮影所独特の用語で、建築業界などではまったく使われていないという。

<八百屋(やおや)>
 八百屋が品物を斜めの戸板に並べることから来たものか、大道具用語で、斜めにセットすることをいう。「二重を八百屋にして坂道をつくる」「八百屋かざ
り」などと使う。斜めに飾った(セットした)坂道を開帳場(かいちょうば)などとも呼んだが、語源は定かではない。

<空(そら)バック>
 白またはうすい色に塗った背景壁、いわゆるホリゾントを撮影所では通常こう
呼んだ。照明の具合によって、青空になったり夕焼け空になったりする。

<飾り替え>
 セットの壁や床はそのままで、小道具や建具、敷物などを入れ替え、別のセットとして使うことがよくあった。予算節約のため、飾り替えによるセット流用はよく行われた。

<ロケ・マッチ>
 たとえば、店の内部をセットで撮り、その表をロケーションで撮るなどという場合、セットの店とロケーションの店とは同じ体裁に統一しておかなければならない。このように、セットをロケに合わせ、ロケをセットに合わせることをロケ・マッチという。カツドオ用語には、古い歌舞伎の世界から来た用語とともに、結構横文字も多い。映画の初期にアメリカからそのまま輸入されたものであろうか。
<オンリー>
 同時録音の撮影で、録音技師が台詞の一部をNGと判断することがある。こんな時、絵ごと一緒に撮り直すわけにはいかないので、その台詞だけもう一度録音し直す。その部分だけ後で切り替えるのである。音だけとるのでオンリーという。「すいません、オンリーお願いします」という具合。

<アフレコ>
 アフター・レコーディングの略。最近は同時録音が一般化したが騒音の多いロケーションなどでは、台詞は録らず絵だけ撮影することが多かった。この場合、撮影所のスタジオで絵を映写し、それに合わせて台詞を吹き込むという作業を行う。これが通称アフレコである。何故か映写して見ると口の動きは非常に早く感じるもので、絵を見てから喋っていたのではまるで間に合わない。アフレコには独特のコツやカンが必要だった。急ぎの仕事では、アフレコは深夜作業になることが多く、どうしても合わずに泣きの涙という新人俳優もいた。

<プレレコ>
 これはアフレコの反対で、プレ・レコーディングの略。プレ・スコアリングとかプレスコということもあった。前もって音を録音しておき、撮影の際それに合わせて口を動かすというものだ。音楽映画の音楽や歌などの場合は必ずといってよいほどこの方式で撮影された。このやり方は舞台などでも使われているので、歌手のステージなどをよく注意していると、口と歌が時々合っていないのを発見したりする。撮影に入る前、この音だけをとるのを「音取り」といった。

<メイン・ポジション>
 撮影にあたって、そのセットの全体や、ロケーションの場所の全貌を、最も印象的に一目で見せることができるカメラ・ポジションがあるものだ。多くはロングだが、これをメイン・ポジションと言い、そこから撮ったカットをマスター・ショットと言う。
 セット・デザインやロケーション・ハンティングをする際など、まずこれをどこに置くかが重要な問題になる。

<パン>
 パノラミック撮影(panoramic shooting)の略。カメラを横に回しながら広い範囲を撮影することをいう。これに対して、縦に振りながら撮影することをティルティング(tilting)というが、この言葉は日本の現場ではあまり使われない。カメラの右下には、パンをするための取っ手となる棒をつけることが出来、これをパン棒と呼ぶが、もちろんパン生地を伸ばしたりする棒のことではない。

<ワッパになる>
 混乱したり、酔っ払ったりして、同じことを何度も何度も繰り返して言うスタッフのことを嘲っていう。アフレコやダビングの時、映写室では、同じフィルムを何度も繰り返してかけるため、その頭と終わりをつないで(つまり輪っぱにして)エンドレスにかかるようにする。このことから出た言葉である。

<目線>
 画面の中で、俳優の目が見ている方向のこと。例えばAとBが向かい合って話すシーンを交互のアップで撮影するとき、Aのアップはカメラの右側を見るようにし、Bのアップはカメラの左側を見るようにしないと、編集した時視線がまったく合っていないという印象を与えることになる。目線の目標はカメラ脇に拳を突き出したりして決めるが、豆ランプを使った目線器などを開発したカメラ助手もいた。小津安二郎監督の厚田雄春カメラマンは、この目線を極端に狭めることが好きで、俳優に向かって「そう、レンズの真ん中よりホンの一寸右を見て」などとしょっちゅうやっていた。このため小津映画では時々目線が合っていないのではないかという感じのものがよくある。

<アイリス・イン アイリス・アウト>
 アイリスとは瞳孔のこと。画面が絞るように現れ、また消えて変換すること。無声映画時代に多く、ワイプの一種ともいえる。

<移動>
 カメラを移動させながら行う撮影のこと。カメラやカメラマンを乗せた特別の移動車が、木製や金属製のレールや移動板の上を走る。
多くは直線であるが、直線からカーブに連続できるシャンピ移動などというのもある。フランスのイブ・シャンピ監督が合作映画で持ち込んだものである。移動には、微妙な呼吸や速度が必要とされるため、移動車を押すのはカメラ助手のチーフの役目である。ロングからアップに接近するのをトラック・アップ、その逆をトラック・バックという。

<インチ板>
 30×8×3センチほどの小さな木の板。移動板やレールを安定させるのにクサビでは不十分な場合などに使う、便利な小物。

<映写パンチ>
 映画館の映写室には、普通2台の映写機が備えられている。1本の映画は、何本かの「巻」に分けられていて、これを交互に切り替えながら映写するからである。一般の観客には余り気づかれていないことだが、巻の終わりになると画面の右上隅には小さな丸いパンチが現れて、映写技師に切り替えのきっかけを教える。最近では、切り替えなしの技術も現れているようだが。

<SP>
 シスター・ピクチャーの略。フィーチャーと呼ばれる普通の劇映画は、大体1時間半〜2時間の長さだが、このお添え物として製作された、1時間程度の短い劇映画のこと。新人監督登用のテスト作品という意味合いもあった。

<オーバーラップ>
 画面がゆっくり消え、それにダブって次の画面がゆっくりと現れる技法。時間経過のある場面の変換、回想などの際に使われる。ディゾルブ(Dissolve)ともいう。

<オプチカル処理>
 オーバーラップやワイプ、デュープ、その他フィルムのネガに特殊な処理を施すことが必要な場合、手ではなく器械による光学的な処理を加えることをいう。「ここフェイドアウトですか?オプチカルに出すとどうしても色が落ちるんでね、レンズで絞っときましょうか?」などというカメラマンもいた。

<カースケ>
 カンスケなどともいう。すっかりあたまに来て、カンカンになっている状態をいう。時間に追われ、我と我のぶつかり合う撮影現場では、しょっちゅう起こったことである。意識してカースケになって見せるのもスタッフ操縦術のひとつなどとうそぶく監督もいた。

<ガバチョ>
 荷造り用のガムテープのこと。撮影現場では照明器具や小道具など、しょっちゅう何かを固定する必要が生じる。そこで、とにかく何でも一気にガバチョと固定を可能にしてくれるこの小さな道具は、現場の小道具さんや助監督の必携品となっている。

<ガンガン>
 石油缶に穴をあけ、木炭をいれて燃やせるようにしたもの。冬季の夜間ロケの時など、スタッフや俳優の唯一の暖房装置で、その周辺で噂話の花が咲いたりする。時によって、寒いセットの片隅に置かれて撮影待ちの俳優のたまり場になったりもする。

<感じ>
 ある感じが出ていることをいう言葉。衣装・小道具合わせの時などよく使う。
「彼女、女教師なんで、こんなスーツどうですか?」
「うん、感じだね」
「元マドロスなんでこのパイプ使いたいっていうんですがね」
「まあ、感じか」という具合。

<消えもの>
 煙草、飲食物など使うとなくなってしまう小道具のことで、いつも代わりを用意して置かなければならない。

<切り返し>
 例えばAとBとが対話しているシーンを撮影する場合、まずAの方だけを抜き撮りして、次にBの方に向かう時、これを切り返して撮るという。編集の上でもBのカットをAの切り返しという。この場合、両者の目線を越えて反対側から撮ることを、切り返しということがあるが、これは普通にはドンテン(同項参照)と呼ばれる。

<減力>
 フェイドイン・アウトやオーバーラップでは、フィルムの現像処理の際、画面を次第にうすくして行くわけである。この操作は、現代ではコンピュータなどを用いた完全自動で行われるが、白黒が主流だった昭和30年ごろまでは、手によって行われた。深夜の編集室で、カメラ助手が必要部分のネガを現像液の容器に浸し、揺らしながら「減力」をしている風景がよく見られたものだが、ネガに掛け替えはなく、考えてみればずい分危険なことだった。

<号外>
 撮影はもちろん印刷した脚本に基づいて行われるが、撮影の土壇場で脚本直しが行われることはしばしばである。こんな時、手書きの改訂稿を急いでコピーして、俳優、スタッフに配るのは助監督の仕事である。このコピーをスタッフは号外と呼んだ。「折角セリフ覚えて来たのにさ、朝来たら号外で、全部パアよ」とは俳優の嘆き。

<合成>
 画面の一部に他の動きのない画をはめこむこと。例えば登城する侍たちの遠景に、城の天守閣を見せたいというような時、空の部分をカットして絵にかいた天守閣を入れるのである。特撮の一種だが、かなり頻繁に使われる技術である。

<小裂(こぎれ)>
 これは時代劇用語で、煙管、印籠、扇子、編笠、刀など身につける小道具をいう。現代劇では持ち道具などともいう。

<ゴロンボ>
 これは時代劇用語で、町を徘徊しているならずもの、ゴロツキのこと。武士でも町人でもよい。通りがかりの美女に酌をしろとからむゴロンボなどはよくある図である。

<三角台>
 フィルム編集用具の一つ。現像されたフィルム(ラッシュ)は、沢山の小分けした巻(ロール)に分けられて編集される。これらを整理して置いておく台のこと。横から見た断面が三角形になる。

<順撮り>
 映画の撮影は、脚本の順序通りに行われるものではない。例えばA家の居間というセットが建てられたとすると、その居間で行われる場面は、すべてそこでまとめて撮影しなければならない。ロケ地についても同じである。さらに、一つのシーンの中でも、照明の都合から一定の方向(押し)のカットだけの撮影が優先され、それを終わったのち、切り返し(同項参照)の撮影に入り、さらにドンテンの撮影に移ることになる。しかし、場合によって、あるシーンを脚本に書かれてある順序通りにとってゆくことがある。照明の制約の少ない昼間のロケの場合、短いシーンや長回しの撮影がある場合など、順取りになることかあり、スタッフをほっとさせる。

<ダブル・ロール>
 一人二役などの場合よく使われる。画面の半分にマスクをかけて撮影し、それを巻き戻して、再び残りの半分を撮影するというやり方で、カメラの位置が少しでもずれると継ぎ目の線が出てしまうので、カメラマンは大いに神経を使う。例えば、初めの半分の撮影が終わり、次の半分の撮影のため、一人二役の俳優の扮装替えを待っている間など、現場には独特の緊張感がただよう。

<デカパッチン、またはデカパチ>
 照明部が、光線を和らげるためのパラフィン紙などをとりつけるために使う、大型のピンチ(紙挟み)のこと。転じて、小道具その他の大きいものを示すために使ったたりした。「パカパチのヤカンもってこい」「デカパチのレンズ使おう」など。

<テカリ>
 俳優のメークアップの一部が光を反射して、カメラマンからダメが出ることがある。この光の部分をいう。すぐにメーキャップ係がかけつけてパフで消す。「××ちゃん、おでこ広いからなあ、テカリきらう(消す)の大変だよ」といった具合。

<テスト・ピース>
 TPともいう。白黒の時代、カメラマンがフィルム現像時間その他の条件を定めるため、本番前、あるいは本番後に撮る、5フィートほどの試験フィルムのこと。本番との境目にパンチを入れて、暗室で切り取れるようにしている。

<デュープ>
 デュープリケーション(duplication)の略。ネガを複製すること、あるいは複製したネガをいう。ネガに対しワイプ、オーバーラップなどの処理を加える際、失敗のリスクを避けるため、ネガのその部分だけを複製したものである。カラーでもモノクロでも、デュープした映像はどうしても劣化するため、映画館で見てもすぐそれと分かったものである。

<ナグリ>
 ガチともいう。大道具さんが常に腰につけている金槌のこと。もちろんシギ(同項参照)などを打つためだが、昔はこれで殴られた助監督さんもいたというから恐ろしい。

<抜き撮り>
 照明や俳優の都合で、シーンの中のあるカットだけを優先し、他の部分は飛ばして撮って行く場合がある。この抜き撮りは、映画にはつきものの技術である。

<ぬすむ>
 劇の上で爆発までの時間が10秒と設定されていても、実際の映画の時間は30秒などということはよくある。また、一つの場面の中で、小道具(花や置物)などをインサートして時間の経過を示すこともよくあり、これを時間を「ぬすむ」という。カメラの都合で、実際にいる位置や姿勢から少しズラして撮影することもあり、これらは、位置や姿勢をぬすむといわれる。「××ちゃん(俳優)もうちょっと右見てよ。そう、ぬすんで」など。

<パンチ>
 音楽や効果音のきっかけを示すため、ラッシュ・フィルムにはよくパンチが打たれた。特殊な改札鋏のようなもので、画面にいくつかの丸い穴を開けるのである。1フィートごとに3箇所打つのが普通で、これを「3パンチ」と呼んだ。

<フェイドイン、フェイドアウト(FI. FO.)>
 溶暗、溶明ともいう。暗黒から画面がゆっくりと浮かび上がり、また画面がゆっくりと消えて暗黒になること。最近では白くなることもあるようだ。シークエンスの変換など、やや大きめの区切りに用いられる。小津安二郎監督は、フェイドイン、フェイドアウトやオーバラップなどの技法を一切用いなかったので有名。

<ワイプ(WIPE)>
 画面が一本の線で拭い去られるように別の画面に変わること。テンポの早い場面転換によく使われる。拭い去る方向も、横・縦・斜めなどいろいろあり、線の形もさまざまで、線自体をぼかした、ボケワイプというのもある。画面がページをめくるようにめくれたり、反転したりするのもワイプの一種である。