three styles of arch
観念的幾何 Rome |
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isfahan |
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科学的合理 gaudi |
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超越的数理 ベチェ曲線 |
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イスラム建築の多芯ア−チ構造は、意外にも紐1本を頼りにして施工される。煉瓦職人の手首に結わえられた一定の長さの紐の端を、釘で円弧の中心に固定してから、紐を張りながら手に持った煉瓦を積み上げていくと、円弧状に煉瓦が積み揚がる。アーチ曲線が水平線に近付く頂上部分は地球重力で崩落しやすいので、地球重力と折り合いをつけて省略し、左右の円弧を頂点で抱き合わせる。 ローマ建築のアーチ構造は幾何学的に正確な半円であるが、地球重力による変形を解決していないので、アーチ部分だけでは自立することはできない。ローマ時代のアーチ構造は、幾何学を信奉するシンメトリな人間感覚が生み出した、想念の造形物といえる。 ガウディの懸垂曲線によるア−チ構造は、地球重力に対しての科学的な解答であるが、力学への著しいリアリティは、地球重力からの開放を願望する人間の想いとは、あまりにも懸け離れ、共感しづらいように思える。 新図書館のアーチ曲線は、これらのア−チ構造の曲線では説明できない。従来のアーチ構造が、部材を集積していく加算法の造形なのに対して、この造形法は、薄い垂直壁面が多数交差する丈夫な構造体から、力学的に不要な部分を消去する減算法の造形である。 私達は、消去されて眼に見えない幾つもの壁を通過しながら、空ろな空間を逍遥することとなる。従来の巨大空間が、重力による自己崩壊に抵抗する表現であるのとは反対に、まるで紙模型の中を歩いているように、スケーリング感覚から開放される。 床の傾斜面を上下するたびに、自分の体重が重くなったり軽くなったりする感覚は、確かに地球上に押し付けられている肉体なのだが、思いは軽やかに爽快である。 私の学生時代の頃は、定規やコンパスでは描けない自由曲線を、フリ−ハンドで正確に描くレタリングの基礎訓練がデザイン教育の必修であったが、今日のパソコンソフトは、滑らかで変化自在のベジェ曲線をいとも簡単に計算して作図してしまう。 新図書館のアーチ曲線も、コンピュータが描きだすパラメトリック曲線の一種である。19世紀末に、絵画芸術が写真機の発明に出会った時のように、現代の建築造形はパソコンの出現に遭遇して、その抽象造形を大きく展開しようとしている。 |
イタリアのサルデーニャ島のヌラーゲ
フライング・バットレス flying buttress 飛梁 初期ゴシック建築