第061回国会 文教委員会 第37号
昭和四十四年十月十五日(水曜日)午前十一時四十八分開議
 出席委員
   委員長 大坪保雄君
   理事 久保田円次君
   理事 河野洋平君
   理事 西岡武夫君
   理事 長谷川正三君
   理事 鈴木一君
      稻葉修君 中村庸一郎君
      南條徳男君 井上普方君
      小川三男君 加藤勘十君
      小林信一君 斉藤正男君
      帆足計君 山中吾郎君
      岡沢完治君 有島重武君
      石田幸四郎君
 出席国務大臣
        文部大臣 坂田道太君  (文教族実務家 17期連続当選 衆議院議長 法務大臣)
 委員外の出席者
        人事院事務総局給与局長 尾崎朝夷君
        警察庁警備局参事官 三井脩君
        文部大臣官房長 安嶋彌君
        文部大臣官房会計課長 安養寺重夫君
        文部省初等中等教育局長 宮地茂君
        文部省大学学術局長 村山松雄君
        文部省体育局長 木田宏君
        文部省管理局長 岩間英太郎君
        参考人(私立学校振興会理事長)岡田孝平君  (多摩美術大学常務理事)
        参考人(日本育英会理事)妹尾茂喜君
        専門員 田中彰君

○長谷川(正)委員 それでは、人事院関係については以上で終わります。
 私の与えられた時間はもうありませんので、大急ぎで、前国会で非常に紛糾の中で強行成立させられた大学運営に関する臨時措置法が施行されまして以降今日までの推移をじっと見ておりますと、授業再開ということに、紛争のある学校では、非常にあの法律の圧迫といいますか、閉鎖というようなことを心配してと思いますけれども、ここに最重点を置かれて、大学に機動隊が入るのが常習化してきておる。そしてなるほど、一応紛争校ということから授業が再開されたというかっこうだけはとられてきているというところも、確かにあろうと思います。しかし、どうも大学紛争のよって来たる根本的な問題の解決に向かっての努力というものが、かえって本格的に取り組まれないような状況、機動隊とのいざこざというようなことだけに追いまくられているようなままここ数カ月が推移してきているというように見受けられてならない。そうしてしかもこれはだんだん内攻しまして、いまや高等学校から中学にすら及ぼうとしているというふうにいわれております。現に、東京のまん中でも都立高等学校の中に紛争が起こり、機動隊が入るというような騒ぎまで起こっておるのでありまして、非常に私どももこれは憂慮にたえないところでございます。この際、これが一部の過激分子かどこからかの扇動によって一時的に起こり、機動隊がそれを排除することによってきわめて平静な状態に直ちに戻っていくのかというと、私の調べたところでは、意外に学校教育全体に対するいろいろな要求、不満というものが、根強く広範な生徒の間にありまして、なかなかそう一挙に解決はできないというような状況も見受けられるわけであります。でありますから、この際、やはり私どもはほんとうに真剣に、かつまた謙虚に今日までの教育行政全般について、もちろん制度上の問題もございましょうけれども、行政の運用上の問題としても、義務教育から高校、大学へのこの行政の過程を大きく反省しなければならないところがたくさんあるのではないか。特にこういう一連の事件をずっと見まして、一番指摘され、われわれも痛感するところは、教師と生徒、学生との間の断絶ということが、きわめて深刻になってきている。そこにほんとうの人間としての愛情とそして真理の探求という理想へ向かっての、導く者と導かれる者との師弟関係というようなものが、非常に失われてきている、こういうことを痛切に感じているわけです。最近、義務教育の学校などへ行ってみましても、小学校に行っても、確かにあの先生方が、これは教育行政からくるむちと言っても私は過言ではないと思うのですが、非常に多忙の中に追いまくられていて、じっくりと子供一人一人の性格や個性を考えるというような余裕がない。そうして定員は増しても、ほんとうに学校の行き届いた教育をするための、授業を直接受け持つような定員ではなくて、充当指導主事であるとか、何か管理職めいた者ばかりがふえていって、これがまたいろいろな指示、指令を出し、書類の提出を求めるから、ますます繁雑になっていく。これはどこを見ましても、やはりよほど真剣に考えなければならないということを、私は最近静かにあの大学法施行後の教育界全体の動きを見詰めながら、非常に考えさせられておるわけであります。そういうような問題についてきょうは一々一つ一つを究明する時間はとうていございませんので、大学紛争のその後の経緯、あるいは方向、あるいは中学校にまで及んでいると聞き及んでおりますが、その全国的状況をどう把握されているか、そうしてこれについてどういう指導を文部省としてはしてきているのか、また、しようとしているのか、教育行政全般に対して、特にこの教育界からの人間性の喪失、師弟間の関係の破壊、断絶、こういうものに対してどういう反省を持たれているのか、なかなか一言にしては言い尽くせない問題であろうと思いますけれども、大臣、局長からそれぞれの部門について率直な御報告とお考えの開陳をお願いしたいと思います。
○坂田国務大臣 詳しいことにつきましては大学局長と初中局長からそれぞれお答え申し上げますが、全般につきましては、私からお答え申し上げたいと思います。
 大学運営の臨時措置法施行以来、国立にしましても私立にいたしましても、大学側が、施行以前よりもかなり意欲をもって何とかして収拾解決に当たらなければならない、この段階においては、もはやわれわれだけの力によっては学問の自由と大学の自治は守れないし、多くの学ぼうとする学生、その自由が、むしろ暴力学生によって奪われておる、ほんとうに静かに研究をしようと考えておられるところの教官の研究の自由というもあが奪われておる、こういう認識に立ちまして、その暴力学生を排除するということにつきましての、警察を導入してでもやらなければ秩序回復はできない、また同時に教育の正常化もはかれない、授業再開もできない、来年の入学試験だってどうなるかわからない、こういうような、私たちが考えておりましたような事柄につきまして、認識は漸次改まってきたように私は思います。その結果として、いま先生御指摘のとおりに、重症校といわれた各大学におきましては、みずから警察を導入して、そしてまた一部授業再開をし、あるいはまた全面的に授業再開をしておるという大学がふえてまいったことは、事実でございます。私といたしましては、今後楽観はいたしません。しかしながら悲観もしておりません。そういう状況でございます。
 それからまた、学生たちのこのような激しい暴力的な行動というものが漸次高等学校の段階までも入ってきた。ことに一時三派系学生あるいは民青系学生や生徒というものが一万二千人程度であったのが、一万七千程度にふえてきておるということも事実のようでございますし、そのふえ方は、どうも暴力学生に呼応したような形において、三派系のいわゆる高等学校生の活動家たちの増加というものが著しいように見受けられるわけでございます。これにつきましては、高等学校の段階までも及んでは、これはほんとうに国民の皆さま方に対して申しわけありませんし、父兄の方方の御心配もさぞかしと思われまするので、十分な指導体制を確立しなければいけないのだ、かように考えておるわけでございまして、それにはやはり教職員とそれから教育委員会等が一体となって、これらの学生の指導に当たらなければならない。特にまた子供を持っておりまする父親、母親にも呼びかけまして、PTAも一緒になって、そしてこのような過激な行動に走らないような、そういう措置をとるべく、各ブロックごとに協議会等も設けまして、現在各地におきまして、その指導講習会と申しますか、そういうものも開いておるような実情でございます。でございまして、今日やはり子供たちの敏感な反応というものを考えましたときに、学生たちのあのような暴力行動というものが、直ちに高等学校あるいは中学校にも及んでいくということも考えられることでございますし、同時にまた、これをあおっておるような活動家の影響というものも、見のがすわけにはいかぬのでございます。ことに、教職員一人一人が、やはり自分の一挙手一投足あるいは言動というものが、若い、敏感な、白紙のような子供たちに対して与える影響というものが大きいということを自覚されまして、そうしてやはり先生が御指摘のような、心の通うような教育というものをやっていただかなければならぬと私は思うのでございます。その意味合いにおきまして、制度のことも大切でございますけれども、同時に、現在の制度において、なおかつ教職員の方お一人お一人が、やはりそういうような一つの専門職にあるんだということ、あるいは義務教育の教育に当たっておるんだという深い自覚と反省の上に立ってやっていただかなければならないと思うのです。どうも過激学生あるいは過激な高等学校生が出ておりますところには、かなりやはり一部教官の影響というものも見のがすわけにはいかないような気がいたしておるわけでございまして、これは全般の良識ある教職員及び一般の大学教官の良識ある管理体制あるいは指導というものが相まって、初めてそのような高等学校あるいは中学校にも及ぶというような過激な事柄は、漸次なくなるものと確信をいたしておるわけでございます。非常に重大な問題でございますが、根気強く、ねばり強く、時間をかげながらやはり話し合いのもとにそういうようなことを進めていくべき性質のものであるというふうに、私は心得ておる次第でございます。
○村山説明員 大学運営臨時措置法が八月十七日に施行されて今日までの時点における大学紛争の推移でございますが、八月十七日の時点において授業放棄あるいは施設の封鎖、占拠が行なわれておりました大学の数が六十四でございましたのに対しまして、昨日現在では六十五校になっております。総数においてはほとんど差がございませんが、中身につきましてはかなり大幅な出入りがございます。たとえば、この二カ月間で封鎖を解除した大学、これは警察力を要請しましたものが十九大学ございます。広島大学その他でございます。それから要請しなかったが、捜査令状で警官が学内に出動して、そのために封鎖が解除されてしまったという大学が、二つございます。それから教職員、学生の手によって占拠、封鎖を解除した大学が、十三ございます。熊本大学などでございます。もっとも封鎖が解除された後、再封鎖されるというようなことも一方においてございます。授業がこの間において開始された大学が、二十二大学ございます。東京水産大学等でございます。それから、逆にこの間に新たに施設の封鎖、占拠、授業放棄というものが行なわれたものが相当数ございますが、今日の時点まで継続しておるものが、北海道大学ほか九大学ございます。そういう出入りがございまして、今日なお六十五校が不正常な状態にあるわけでありまして、内訳としては、国立大学が三十五校、公立大学が七校、私立大学が二十三校というかっこうになっております。こういう紛争の結果、正常な授業が受けられないという大学が四十七校ございまして、これらの大学あるいは学部に在学する学生の数は、二十二万人余になっております。
 なお、新入生の授業という角度でとらえますと、これはいろいろ努力がされました結果、新入生が四月以来まだ全然授業も受けられていないという大学は非常に少なくなりまして、現在国立、公立、私立大学各州大学、国立大学では横浜の工学部を除く学部、それから公立では大阪市立大学の医学部、それから私立では多摩美術大学といったようなことになっております。ほかの大学は、新入生に対しましては何らかの形で授業を始めておるということが言えようかと思います。
 授業開始に再重点が置かれて、大学の改革問題というものが少し等閑に付せられておるのはなぜかという御指摘でございますが、授業開始ということは、いろいろな議論にかかわらず、まずもってやるべき課題だと思いますが、一方において、大学改革の問題も各大学それぞれ努力されておりまして、最近においては、東京大学においては、改革準備調査会のいままでの中間的な報告をまとめました報告書が出されておりまして、これから準備整っていよいよ改革委員会を発足させたいという動きになっておりますし、その他大阪大学あるいは九州大学、工業大学等々においても、大学の改革案が、これは一部の素案でありますけれどもまとめられて、それを土台に大学人の討議が行なわれるような形勢になっておりますし、それから文部省におきましても、先ほど大臣が御説明になりましたような、全般的な大学の改善のための緊急調査が進められておるわけであります。簡単に御説明いたしました。