第75回国会 文教委員会 第3号
昭和五十年二月二十七日(木曜日)午後五時五分開会
  出席者は左のとおり。
    委員長         内藤誉三郎君
    理 事
                久保亘君
                加藤進君
                (名古屋大学数学科教官 1963年衆議院議員総選挙で旧愛知1区 1971年参議院議員通常選挙国区 日本共産党中央委員会顧問)
    委 員
                斎藤十朗君
                志村愛子君
                高橋誉冨君
                藤井丙午君
                最上進君
                鈴木美枝子君
                宮之原貞光君
                内田善利君
                矢原秀男君
                小巻敏雄君
                中沢伊登子君
   国務大臣
       文 部 大 臣  永井道雄君
                (元京都大学教育学部助教授 朝日新聞社論説委員 民間人閣僚 世界平和アピール七人委員会)
   政府委員
       文部政務次官   山崎平八郎君
       文部大臣官房長  清水成之君
       文部省初等中等教育局長 安嶋彌君
       文部省大学局長  井内慶次郎君
       文部省社会教育局長 安養寺重夫君
       文部省体育局長  諸沢正道君
       文部省管理局長  今村武俊君
   事務局側
       常任委員会専門員 瀧嘉衛君
    ―――――――――――――
  本日の会議に付した案件
○参考人の出席要求に関する件
○教育、文化及び学術に関する調査(文教行政の基本施策に関する件)
    ―――――――――――――

○加藤進君 文部大臣は今年度の教育行政の最重点として、私学問題を取り上げられております。これは結構だと思います。所信表明によりますと、その私学問題とは私学助成に尽きるというような感じを持つわけでございまして、ほとんどが私学助成にいわば言い尽くされておるわけであります。
 そこでお聞きしますけれども、私学助成さえしておれば私学そのものの振興はできると、こういうふうにお考えになっておるかどうか、その点をまず最初に確かめておきたいと思います。
○国務大臣(永井道雄君) もちろん財政措置というものは非常に重要でありますから、それに力を注ぐわけでありますが、私学振興というのは、本来私学というものは、基本的に建学の精神というものを持って、特色ある教育を行うわけでありますから、建学の精神に基づいて特色ある教育ないしは研究を行うのにふさわしい、また、それを行いやすい条件をつけるという意味において財政援助をいたしているわけでありまして、私学振興というのは、ただ金が私学に渡れば済むというものとは考えてはおりません。
○加藤進君 そこで、私はこの私学がそれぞれの特色を生かしながら、しかも管理運営、教学について誤りなき、やはり方向を進めていかなくてはならない、こういう立場から、きょうは特に去る二月十五日に起こりました多摩美術大学の学長解雇という問題についてお尋ねしたいと思います。
 文部省からの事情聴取によりますと、理事長側の説明では、昭和四十九年四月二十五日で真下学長の任期は終了したと、こういうことになっています。昨年です。しかも、その後正式に学長は決まっておりません。学長代行はといえば学長代行も決まっておらないわけであります。つまり、理事長側の話によると、昭和四十九年の四月から今日まで多摩美術大学には学長も学長代行もいない、こういうことになるわけであります。ところで学校教育法第五十八条においては、御承知のとおり、「大学には学長、教授、助手及び事務職員を置かなければならない。」と定めています。理事者側の説明のとおりだとすれば、このように学校教育法に「置かなければならない。」と規定されています。しかも、学生の入学、退学などというような重大問題においては、その責任を持ち、学校の校務をつかさどる最高の責任者である学長でございますが、これが十カ月にわたって存在しない、こういう大学があってもいいのかどうなのか、文部省の御見解をお尋ねしたいと思います。
○国務大臣(永井道雄君) 政府委員からお答えいたします。
○政府委員(今村武俊君) 学長のいない大学はあってしかるべきではないと思います。
○加藤進君 そこで、一体文部省への届け出では、多摩美術大学の学長はだれになっておるんでしょうか。
○政府委員(今村武俊君) 現在のところ、その文部省への届け出は、私はまだ確認いたしておりません。
○加藤進君 大学側からそのような書類は全く出ておらないと、こういうふうに理解していいですか。
○政府委員(今村武俊君) 学長を定めたときは報告があることになっておりますが、まだ私がその書類を見ていないというだけの事実でございます。
○加藤進君 ここに多摩大学から文部省に対して提出した書類がありますよ。名称、多摩美術大学、代表者職氏名学長真下信一、これ文部省の書類ですよ。これわからないというのですか、知らないというのですか。
○政府委員(今村武俊君) たまたま私がそれをまだ見ていなかったというだけでございます。
○加藤進君 文部省の担当者がそういうことを見ておらないということで、これ国会の審議済ましてはこれ大変だと思うんです。直ちに連絡して、そういう事実があるかどうか明らかにしてください。
○政府委員(今村武俊君) 文部省に来ているはずの書類でございますから、見て、次の機会に御報告いたします。
○加藤進君 私はすでに数日前に、文部省の方々から事情聴取をしたんです。文部省はその点は御存じだと思うんです。私がどのような問題に関心を払っているかということについては少なくとも御存じのはずです。それに対して十分答えられるべき基本資料も持っていない。こういうようなことでは私は困ると思うんです。
 そこで、話を続けますけれども、理事長側では、一方では、真下学長は昭和四十九年四月二十六日以降学長ではない、学長はいない、こう言いながら、もう一方では、学長を真下信一氏として届け出を現に文部省に出している。そもそも理事長みずからがこれを行っておるんです。つまり、理事者側の説明どおりだとするなら理事長は文部省に対してこれは二枚舌を使っておると言わなくちゃならぬ。そうでしょう。うそを言っているか、それともまた文部省への届け出は正しくて、理事者自身がこういう事実でないことを外部に言いふらしている、そのいずれかであると思う。こうした態度が大学を運営し、あるいは大学の法人を担当しておる、責任を持っておる立場の理事長としていいのかどうか。
○政府委員(今村武俊君) 先生がこの問題について関心をお持ちのことはあらかじめ知っております。私も関係者から事情はまあ自分自身としては十分聞いたつもりでありまして、学長の関係者の言うには理事長が理事長でないんだと、理事長のほうが言うには学長は学長でないんだと、こう言いますし、それぞれまた理由も根拠もあるようでございまして、実にまたわからない話だと思っているようなところでございます。
○加藤進君 全くそうでしょう。しかし、文部大臣、大学の学長の所管はこれは大学局じゃないですか、大学局長はどうしているんです。黙っているんですか。
○政府委員(井内慶次郎君) 大学局の方で把握いたしておりますのは、多摩美術大学の学長は、昭和四十九年四月二十五日に真下氏の任期満了に伴い、同年四月二十六日に同大学学長選考規程により、選挙人委員会において真下氏を学長候補者として選出したが、学校法人の評議員会において理事長より選挙手続等に疑義があるとの指摘があり、決定を保留し、今日に至っておるというふうに理解しております。
 なお、昭和四十九年の四月二十六日以降学長が欠け、大学の業務に支障を来たすので、理事会では後任学長決定まで真下氏を学長として扱うこととしておると、このように私どもは承知しておるわけであります。
○加藤進君 全くこれはおかしいことじゃないですか。理事長はもう学長が選ばれてもそれは認めていない。しかし、そうしておけば都合が悪いから、まあ事実上は学長として認める、こういうことが、事、私立大学に――これからは大いに私学を振興させる、そのための助成を行わなくてはならぬ、こう言っておる私立大学において行われておる、こういう点について、永井文部大臣どういうふうにお考えになるでしょうか。
○国務大臣(永井道雄君) この問題は、私が理解しますのでは次のようなことであります。
 昭和四十八年度の入学者決定の際に不正があったという投書が各理事にあって、大学で調査して不正の事実判明、そこで本年の二月十五日査問委員会を開催いたしまして、この事件に関与したものとして真下信一教授、山脇国利教授多摩美術大学教職員任命規則第十八条第五号の規定によって解任することと決定し、査問委員会の決定により、同日、理事長は両氏に対し解任する旨を通知いたしました。ここまでですと単純なんですけれども、それ以外のことがあるわけです。一方、五人の理事は、二月二十五日、理事会を開催いたしました。これは査問委員会の十日後であります。査問委員会の設置、教員の解任は、理事会、教授会に諮らず行われたものであり、無効であると決定いたしました。そこで、今回の解任処分について真下山脇両氏が昭和五十年二月二十五日、東京地方裁判所に対して地位保全の仮処分の申請を出しております。そこで文部省といたしましては、こういう問題についてどういうふうにするかというと、いまのような形で理事会の内部に二つの決定が行われておりまして、そして裁判所に仮処分の地位保全の要求が出ているわけでありますから、これをまず見守らなければならない、かように考えております。
○加藤進君 その点につきましては、結論的にそういう文部省の見解が果たして成り立つかどうか、こういうことがわかってくると思います。
 そこで、いま申し上げた問題の第一点は何かと言えば、昭和四十九年四月の学長選挙についてであります。理事長側の説明によりますと、任期終了後学長選挙によって真下氏が学長として選ばれて、そうして評議員会の同意を得るという段階で理事長からこれにクレームがついた、そしてそのままになっているということであります。そのままです、クレームがついたままになっている。しかも、その後何らの決着もつけられないままそれが放置されている、こういう一つの問題があります。
 第二には、今回の解雇についてです。これも理事者側の説明によりますと、多摩美術大学の教職員任命規則第十八条第五項です、先ほどの、これに基づいて解雇をしたとされています。そこで、しかもそれは理事長が教授会や理事会に諮ってやったんじゃないんです。諮ってないんです。独断で査問委員を委嘱したんです。教授会、理事会にはこのことを諮ることなく解雇を決定したわけであります。しかも理事長名で解雇の通知はなされておるわけであります、理事長名で。こういう二つの点から明らかになっておることは何かという点であります。
 学長選挙で送ばれた者が、理事長のクレームでそのまま放置される。学長に選ばれた者が、理事長のクレームがあればそのまま放置される。しかも長期にわたって、十カ月にわたって選挙結果が無視されておる。これが第一点です。その上に、決着をつけるための理事会は、理事長が開こうとしていない。開いてないんですよ、理事会を、招集してないんです。
 また、いやしくも大学の学長、教授が、教授会や理事会の全く知らないところで、理事長のみの判断で解雇をされる。理事長の判断ですよ、理事会じゃないんです、招集してないですから。こういうことが、およそ大学としてこの状態をいいと思われるのかどうか、正常だと思われるのかどうか、こういう点についてはっきりと見解をお伺いしたい。
○政府委員(今村武俊君) 大学局長と管理局長と、それぞれ所管事項が違うような点もございますし、また似たような点もございますので、私の方でも若干お答えしてもよろしいんじゃないかと思っているわけです。
 というのは、管理局の仕事に、学校法人の管理について指導、助言を与えることというのがございます。理事会の運営とかあるいは学長の任免とかいうことについて指導、助言をする権限が法制上あるように思いますので、私からお答えしてもよろしゅうございましょうか。
○加藤進君 簡潔にお願いいたします。
○政府委員(今村武俊君) はい。
 国立学校の運営になれている――そのことについていささか承知している私どもの観点から見れば、意外な事実が私立学校にはございます。しかし、私立学校の管理運営については、私立学校の自治が尊重されなければならないので、私どもが持っている常識をもって直ちに私立学校に一々干渉するというようなことになりましてはまた大学の自治に関する干渉になり過ぎるのではないだろうかというようなことで、任免規則、学則その他の規則を点検いたしてみますと、これまた、それらに、あちこちに脱漏があると申しますか、教授会にも諮らないで免職にすることができるような根拠規定もあるわけでございます。まあ言葉が悪いんですけれども、妙な、まあ私どもの常識ではわからないようなことがあり縛るような根拠のある学校になっておるように思います。
○加藤進君 そこで、そんな状態でいいのかということなんです。たとえば、ここでいま出されました教職員任免規則というのがあります。確かにそれを読むと、何かその理事長の権限でやり得るようにも書いてある。そこで私が聞くのは、そういう事柄は全部私学の自主性に任せるんだと、文部省は何らこれに対して関与できない、やれば内政干渉だなどということが言われるのかどうかと。私は教職員任免規則、この任免規則を生かすための前提があると思うんです。法人としては何でございましょうか、これは。寄付行為でしょう。法人としては寄付行為じゃないのか。前提には寄付行為があります。学校としては、大学では学則がありますよ。そうでしょう。この法人としての寄付行為、大学における学則、この位置づけが問題なんであります。こういう前提の上に、これと矛盾しない体系の中でこのような教職員任免規則ができておるというならこれはまだわかります。しかし、全然矛盾したことがやられている。となれば、一体どちらを取り、どちらを基準にしたらいいかという問題でしょう。どうですか、どちらを基準にしますか。
○政府委員(今村武俊君) 私立学校法、私立学校法に定める寄付行為、あるいは学校教育法の体系で定める学則、そういうものが基本になると思いますが、その次に、学校の内部で定めておる規定を一々私どもが取り上げてそれがどうのこうのといってよろしいものだろうか悪いものだろうかというのが、まあ指導、助言の内容になるわけでございますけれども、本当に私はこれはむずかしい問題だと思います。非常にデリケートな問題で、いま事情を聞いて、お話を伺いながら、そしてまあ驚きながら、指導、助言の内容をいかにすべきかということについて考え込んでおるという感じでございます。
○加藤進君 私は、教職員任免規則が、実は私たちの手元にないとか、あるいは十分目を通してないとかということはあり得ると思うんです、これは文部省としては。しかし、文部省は、絶対にこれは存じませんと言えないのは、法人においては寄付行為、それから大学においては学則でしょう。これにもとるかもとらないかという観点だけは、どのような指導、助言をやるかは別ですよ。指導助言をするという立場に立つ文部省からいうなら、学則を尊重し、あるいは寄付行為を尊重する、こういうたてまえは当然とらなくちゃならないし、立たなくちゃならぬと思いますが、その点はどうですか。これは文部大臣、たいへん恐縮ですが、文部大臣にひとつお答え願いたい。
○国務大臣(永井道雄君) ただいま御指摘の点、いまおっしゃいました点までまことにそのとおりであると考えます。
○加藤進君 改めて申し上げますけれども、多摩美術大学の寄付行為によると、次のような明文があります。「本法人の業務の決定は理事会において行う」と、理事会ですよ。「理事会において行う」という当然なことが規定されている。個人じゃないんです。理事長個人が法人の業務の決定を行うことは、これは許されないと思いますけれども、この寄付行為に照らしてどうでございましょうか、その点。
○政府委員(今村武俊君) 寄付行為に書いてある事項はまさにそのとおり考えられなければいけないと考えます。
○加藤進君 御名答でございます。理事会なんですよ、これはね。そのとおりです。
 もう一つ、学則によりますと、「各科の科長をもって協議会を組織し」、その協議会で「教授及び助教授等々の任免に関する事項を審議する。」となっています。審議するんですよ。これは寄付行為や学則に明記してあります。しかもその寄付行為や学則は文部省の認可、届け出事項になっておるはずでございますけれども、それはそのとおりでしょうね。
○政府委員(今村武俊君) そのとおりでございます。
○加藤進君 しかも、そういうことになりますと、教職員任免規則というのは学則の中の細則である、こういうふうな位置づけをして私は当然だと思います。法律で言うならば、各法というものは憲法に基づいて定められなければならないし、各規則は各法に基づいて定められなくてはならぬ、これがやっぱり基本だと思います。これと同様に、学校法人にあっては寄付行為、大学にあっては学則に基づいて各規則が定められなくてはならないのでありまして、この点について、もしこの寄付行為や学則にもとるようなことがあり、あるいは発生した場合には、文部省はどのような指導、助言を行われるのであるか、この点をお聞きしたいと思います。
○政府委員(今村武俊君) まさにその点が私は問題だと思っているわけでございます。車道、歩道の区別のない道路では右側を歩くべしという規定があるけれども、左側を歩く人もいる。寄付行為にはこう書いてあるけれども、それでない慣習があると、そういう話は私どもは正式には届け出も何もないわけですから、ある人からの情報によって聞くわけです。その情報を聞いた場合に、あなたのところでは寄付行為や学則に違反することがあるのではないかと言って調査に行くというようなことをしてよろしいものであろうか、その辺がいままで余りケースのないことだけに、私はこのケースは、この多摩美大の問題はおかしいと思いますけれども、これを一般に他に適用した場合に文部省の態度としてよろしいのであろうか、どうだろうかと、よほど慎重に考えなければいけないんじゃないかというところで、いま考え込んでおると申し上げておるわけでございます。
○加藤進君 文部大臣、担当官がそんなところで慎重に慎重にと言って足を一歩も出られないという状態では、これは指導、助言にはなりませんね。私はもう少し真剣にやってもらいたいと思います。文部省がしっかりと、これは認可した、あるいはこれを認めた、こういう学則や寄付行為に対して、これにもとるようないわば細則ができたり、それに基づいて遠慮会釈なく独断専行が行われるなどというようなことを許しておいたら、これは事教学の基本に関する問題ではないでしょうか、そこを私は強調したいと思います。そこに今回の問題があるということなんであります。越権行為をやっておるわけであります。当然守るべき規定に基づかないで、そのもとでつくられた細則に基づいて、しかもこれは理事長の都合のいいような、つくられた細則に基づいて処理すると、こういうことは私は許してはならぬと考えます。しかも今回の解雇は、学校法人については理事長が理事会の決定もしないで、あるいは理事会を無視して、独断で事を進めたということ、大学にあっては教授会、協議会の決定、審議もしないで一方的に大学の人事に介入するということが行われたわけでありまして、この点は私は重大だと思います。その点に対して文部省は一体どういうふうな態度をとられるのか、もしこういうことを文部省が許されるとするならば、事柄は私は重大だという点から見て、私学の問題は単に助成の問題というふうに限るべきものではないと、一番最初に申し上げたのはその点なのであります。
○国務大臣(永井道雄君) 先ほど管理局長がちゅうちょして考え込んでいると言われましたが、真剣に考えているわけであります。そのことは申し上げておきたいと思います。と言いますのは、私立大学というものの自主性というものは非常に大事である。お言葉のように寄付行為、学則に基づきまして学校の理事というものが当然理事会において討論をいたしまして、そして学校の方針というものを決めていく、こうした事柄に対して文部省というものが干渉したりするということは厳に慎まなければなければならないわけでございます。しかし、御指摘のように今回のケースというのは非常に特異なものがあるということは私たちも十分に認識しておりますから、管理局長は、従来の文部省がとってまいりましたそうした原則的な立場、それとの関連においていかにすべきかということを申し上げたのだと私は考えております。
 そこで、この問題につきましてどうするかということでありますが、これにつきましては、私はやはり何よりも実情というものを明確に把握するということがきわめて大事だと。特に今日の御質問を伺ってさように思いましたので、まず私たちとしては、実情の十分なる把握に努めました上で、その上でどのように文部省として対処するか、こういうふうな手順で進めたいと思います。これは、私もですからそういう意味において考え込んでいるという面を持っておりますが、しかし、それは消極的な意味でなく、やはりわが国の私立大学の自主性、これに対する文部省の関係というものは非常に慎重でなければなりませんから、だからといって何もしないということではない。しかし、そうしたいままでのあり方というものに仮に反するようなことで前例になるようなことがあるといけませんから、まず実態の把握に努めたいと、かように考えております。
○加藤進君 多摩美術大学の細則の中にこういう文句があるという、「大学とは理事長をいう」。こんなことを大学の細則の中にうたわせるなどということを放任しておいては、「大学とは理事長をいう」というのですから、理事長は大学について遠慮会釈なくこれは介入できますね。こういうことを許しておいたら、一体私立大学における教学とは何であるかと言わなくてはならない。そういう点が今度の問題としてきわめて明確になっておるという点が私は指摘できると思うんであります。そこで、言うまでもないことでございますけれども、大学の代表者は理事長ではなく学長であることはこれは明白ですね。その点明白なようですけれども、一言お答えください。
○政府委員(今村武俊君) 教育機関としての大学とその大学を設置する学校法人、その二つに分けて考えた場合に、大学の代表者は学長であり、その設置する法人の代表者は理事長であるというのが通念でございます。
○加藤進君 ですから、理事長個人がどのように考えられようと、大学は自分のものだと考えておられようと、しかし、教授会や協議会を離れて独断で大学の教員の人事を左右できるような規定というのは、これは私は放置しておけば学問の自由、大学の自治に直接かかわる重大問題だと思うんです。これは一大学の私事であって、こんな問題について文部省は手が及ばぬなどというようなことで私は済ましてはならぬと考えますけれども、その点を憲法、教育基本法の精神に基づいてどうあるべきかという観点に立つならば、私は、このような点についての指導、助言は文部省として当然なさるべきである、こういうふうに考えますけれども、その点についてはいかがでしょうか。
○政府委員(今村武俊君) いろいろ常識では考えられない事態が起こってまいっておりまして、学長が当初任命されたときは理事長が独断でという形になりますが、選考委員会の議を経ずして、学長選考の手続を経ずして任命されておる。そして任期があるようなないようなことで、二年ごとに学長選考の手続を経ている。当初は学長の任命の手続を経ないで任命される、更新のときだけ手続を経ているというようなところも不思議なわけでございまして、そのあたり本当にもう少し実態をこの規則等に照らして慎重に審査する期間を与えていただきませんと、いま物を言うことがかえって災いになるのではないかと心配いたします。
○加藤進君 私が最初に永井文部大臣に、私学の問題は私学助成に限るのかとあえて言ったのは、このような問題が今日私立大学の内部にはあるのであって、しかも多摩美術大学だけに限ることではないと、こういうことを私たちは銘記しなくてはならぬと思うのです。そのために、文部省としてとるべき道は何かといえば、そのようなことが憲法と教育基本法の精神に基づいて許されるかどうか、これが学問の自由と大学の自治にもとるものではあるかないか、私は、基準はそこにあるのでございまして、そこでちゅうちょ逡巡するなどということは、これは文部省当局としてもとるべき道ではない、こういうふうに考えますけれども、重ねてその点で大臣の所信をお聞きしたいと思います。
○国務大臣(永井道雄君) 憲法、教育基本法に示された教育の原則が重要であるということは申すまでもございません。また、そうした原則に基づきまして、私学に助成をいたします場合に、私学の建学の精神を重んずべきであると、最初に申し上げたことは、私が非常に重要であると考えておる原則でございます。しかしながら、本日のような重要な問題が提起されたわけでありますから、これにつきましては、ちゅうちょなく実態を調査いたします。
○加藤進君 局長も、文部大臣にひとつ続いていただきたいと思います。
 そこで、特に最後にお尋ねしたいのは、緊急を要する問題があります。それは、入学試験を行っておるわけでありまして、いわゆる入学試験と入学問題です。多摩美術大学は三月一日には合格者の決定をしなくてはなりません、告示されておるわけですから。その後、四月には入学期を控えるわけです。入学者を迎えなくちゃならぬ、こういう状況にあります。学校教育法の施行規則第六十七条によりますと、学生の入学、退学、転学あるいは卒業は「教授会の議を経て、学長が、これを定める。」、こうされています。そうですね。学長、あるいは代行がいなくても、入学試験の決定ができるのかできないのか、その点が実は重要な問題だと思うのです。学長がいなくては入学についての決定はできないと思いますけれども、その点についていかがでしょうか、文部省。
○政府委員(井内慶次郎君) 大学におきます入学者の決定は、ただいま先生御指摘のように、「学長が、これを定める。」、こうなっております。学長がもし欠けておりまする場合には、学長の職務を行う者を当該大学で決めまして、その者が行う、こういうことでございます。ただいまお話ございましたように、多摩美術大学の本年の入試の関係でございますが、三月一日合格発表ということでございますれども、そのこともございまして、学長の地位保全の仮処分の訴えがもう出ておるのじゃないかと思いますが、いずれにいたしましても、三月一日の合格発表日に学長あるいは学長の代行、仕事を行う者が取り決められまして、合格者発表に遺漏のないようにぜひ大学にも私どもも強く要請しなきゃならぬ、かように考えております。
○加藤進君 ところが、理事長はもう一歩進んでおるのです。これは教授会にはもちろん諮らず入試本部長を決めたんですね、入試本部長を。これは決めないとできないんだから、入試本部長を決めたわけです。決めたのが何と事務局員なんです。事務局員を任命して入試本部長にして判定を行うというんです。これはいかがですか。入試という問題は、これは教授会の決定事項でしょう。これを事務職員に委嘱して入試本部長として入試判定をやらせる、こんなことを許しておいていいでしょうか。
○政府委員(井内慶次郎君) ただいまの点は、学校教育法の法体係のもとにおきまして、学校教育法施行規則第六十七条で、「学生の入学」は「教授会の議を経て、学長が、これを定める。」という明示がございます。したがいまして、先ほどお答えいたしましたように、学長が定めるか、あるいは学長の職務を行う者と当該大学で定めた者が行うか、このいずれかと思います。
○加藤進君 そこで、なお念を押して聞きたいのは、事務局員を任命して入試本部長にすると、そうして入試判定を行うということは許されるかどうか、その点だけ確かめておきたいと思います。
○政府委員(井内慶次郎君) 入試本部長の職務といいますか、どういうところまでを入試本部長にやらせるようにしておるのかということは、ちょっといま私どもはっきりいたしませんので、その点ちょっと返事を保留させていただきます。
○加藤進君 その点はひとつ確かめてください。ただ言えることは、教授会の議を経て学長がこれを決めるというのが入学試験問題、そうですね。合否の決定あるいはその他の重要な学事なんでございますから、その点が十分に整って、そして滞りなく合格発表ができるような状態にあるかどうかということにつきましては、これは単に学内問題とは言えません、社会問題になっておりますから。社会問題にならない前に、ともかく私は文部省としても腹を決めて申しますとオーバーでございますけれども、この問題について正しい指導、助言をしていただかなくてはならぬ、こういうふうに考えるわけであります。この点はよろしゅうございますね。
○国務大臣(永井道雄君) 正しい指導、助言をいたす考えでございます。
○加藤進君 結論でございますが、私学助成、これを強調されること、また、いま力を入れられること、これは当然なことでありますけれども、しかし、重要なことは助成の目的にもあるように、私学を公教育として正確に位置づけるということ、私学教育を振興させる、こういう立場を私は基本にしなくてはならぬと思うのです。そのための私学助成であると、こういう点から私は文部大臣の今後の施策について見守っていきたいと考えています。私学といえども、言うまでもなく憲法、教育基本法の原則に立ってその管理運営、教学がどのように行われなければならないか、これはもう明確でございまして、こういう上に立っての今後的確な指導、助言、この点について私は文部省が単に私学の自主性を尊重するとか、伝統があるからということではなしに、それが憲法と教育基本法の基本に基づいて教学が確立されているかどうか、その点についての私は十分な指導、助言をいただきたい。そのための大学の自治、学問の自由が阻害されることのないということはわれわれ全国民の問題でもございますから、その点についての十分な覚悟を持ってこの問題に対処していただきたい、心からお願いを申し上げます。
 時間も参りましたから、私はこれで終わりますけれども、委員長に一つお願いしたいのは、この問題を審議していきますと、理事者側がこう言ったということだけで私は議論いたしましたけれども、本来ならば解雇されました学長自身にも証言を求めなくてはならぬというような私は問題だと思うんです。その点につきましては、ひとつ委員長が今後適当な機会に理事長、それから学長を参考人としてこの委員会にお呼びいただくような措置をとっていただきたい、このことをお願いしておきます。
○委員長(内藤誉三郎君) ただいまの加藤さんの御発言については、後刻理事会でよく検討さしていただきます。