教育研究の現状と課題
本学の1997-98-99年の間の改組転換は目覚しいものがある。しかしながら、大学冬の時代を迎える私学経営は厳しい環境の中にあり、学内にはいくつかの解決すべき課題も残っている。
本項は、学長ヒアリングでの討論内容を基にして各学科の現状と課題をまとめたものである。
1)学長ヒアリングの記録
教育充実検討委員会会長の辻惟雄学長は学内の各研究室を訪問して、各学科の現状と展望を聴取した。自己点検部会からは会長の高橋士郎教授および同代理の小田襄教授、松田直成教授、佐渡谷紀代子教授が同席し討論に参加した。
1999.09.24
「美術学部絵画学科日本画研究室」出席者:市川保道学科長、戸田康一教務主任、中野嘉之、桝田隆一、米谷清和
1999.09.22
「美術学部絵画学科油画研究室」出席者:鶴見雅夫学科長、岡崎紀教務主任、今井信吾、小泉俊己、福島誠、室越健美、木嶋正吾
1999.09.17
「美術学部絵画学科版画研究室」出席者:小作青史学科長、渡辺達正教務主任、小林敬生
1999.09.24
「美術学部彫刻研究室」出席者:小田襄学科長、安倍千隆教務主任、工藤健、竹田光幸
1999.09.17
「美術学部工芸研究室」出席者:野口裕史教務主任、伊藤孚、井上雅之
1999.07.14
「美術学部グラフィックデザイン研究室」出席者:田保橋淳学科長
1999.09.22
「美術学部生産デザイン学科プロダクト研究室」出席者:平野拓夫学科長、和田達也教務主任、高木晃、川上顕治郎
1999.09.22
「美術学部生産デザイン学科テキスタイル研究室」出席者:渡部裕子学科長、弥永保子教務主任、檜垣檀、橋本京子、高橋正
1999.09.22
「美術学部環境デザイン研究室」出席者:毛綱毅曠学科長、田淵諭教務主任、松沢穣、岸本章
1999.07.14
「美術学部情報デザイン研究室」出席者:須永剛司教務主任、久保田晃弘、高橋士郎、アンドレアス
シュナイダー
1999.09.24
「美術学部芸術学研究室」出席者:萩原朔美学科長、海老塚耕一教務主任、村山康男
1999.07.14
「美術学部共通教育研究室」出席者:宮下太郎学科長、松田嘉子教務主任、松田直茂、佐原龍誌、西谷成憲
1999.09.16
「造形表現学部造形研究室」出席者:大津英敏学科長、田中康夫教務主任、平松礼二、高橋幸彦、松下宣廉
1999.09.14
「造形表現学部デザイン研究室」出席者:山中玄三郎学科長、掘内正弘教務主任、西岡文彦、小笠原登志子、植村朋弘、鋼俊治、猪股裕一、高味壽雄
1999.09.14
「造形表現学部映像演劇研究室」出席者:鈴木志郎康学科長、庄山晃教務主任、星野章、福島勝則、河原和
1999.09.16
「造形表現学部共通教育研究室」出席者:樋口祐子学科長、松浦弘明教務主任、佐渡谷紀代子、伊藤洋子、小穴晶子、米倉守、中村隆夫
美術学部
2)絵画学科日本画専攻の現状と課題
(1)教育目標
絵画学科日本画専攻では、膠という接着媒体を使用する。多用な絵画表現のなかのひとつであるとして日本画を捉え、長い歴史を持つ東洋絵画のなかの日本画とは何かを考え、次の世代の自由で豊かな日本画の創造を目指すことを主眼としている。
日本画は、中国大陸にその源を持つ表現技術である。その技術が日本に伝来し、ときの中で醸成され、現代の日本画へと受け継がれてきた。石、植物、金属など、およそ地球上に存在するあらゆる物質を顔料として描く日本画の技法は、飛鳥・白鳳の時代に確立され、今日に至っている。稀有で貴重かつ豊潤な日本画の表現世界は、この長い歴史に裏打ちされた技法の深遠さこそが基盤となっているといえるだろう。
こうした日本画の、膠・胡粉・岩絵具・顔料・墨・箔などの素材とその用具など、伝統的な制約が大きい日本画の技法を駆使できるようなるには、かなりの勇気・忍耐・覇気を必要とする。今日、小学校・中学校・高等学校での日本画教育は皆無に近い現状にあり、近代西洋の造形思考をもって、伝統的な日本画を捉えることは困難である。
それだけに、現代の日本画をなす者にとっては、それら一つ一つの問題にこそ、今日から明日に向かって現代絵画を創造する大いなる発展性が秘められているといえる。この大きな困難と不自由さを乗り越えてこそ踏み込むことができる、自由な表現世界が広がっているのである。
若々しい感覚と新鮮で気力に満ちた才能をもって現代の日本画の問題に取り組み、明日の日本画を築く若い力に期待する。常に流動的・進歩的であるよう心がけ、自由を信条として守りながら、各自の個性を十分に発揮し、自発的な制作を通じて努力を集積し、大胆な創造を実践し、美を探求する、表現者をしての基本的な態度の修得をめざしている。
(2)現状
日本画専攻は、国際化する美術教育のなかで、日本独特の特色を発揮している。多摩美術大学、中国中央工芸美術学院、韓国東亜大学の3校がすすめている「東アジア3国の教授作品展」など、アジア地域での美術活動への展開が期待される。
受験者数は一般の受験動向にあわせて減少しているが、439名の多数の応募者がある。卒業後は既存の公募展に応募しないで単独で制作発表する者が増えており、またデザイン部門など日本画以外の分野で活躍する卒業生も多く、美術基礎を学ぶ目的で日本画を専攻する傾向が見られる。
(3)課題
かって加山又造、横山操、上野泰郎教授の時代の卒業生が、当時の教授とおなじ年齢に達して、現在の研究室を構成している。次の時代の若手の養成が期待される。
専門事務職の主導による運営は、美術大学の性格を薄くし、一般大学化する恐れがあり、美術大学らしい研究室運営のために、日本画研究室専属の事務員配置が検討されている。作家業とマネ−ジメント業との両立は難しいようである。
3)絵画学科油画専攻の現状と課題
(1)教育目標
伝統的に、油画専攻の学生は各自が個性的で、自由闊達な幅広い表現活動をしてきた。現在も、学生自身の表現に対する欲求を育むことを重視し、油絵具でキャンバスに描くという単一の枠にとらわれることなく、平面からオブジェ、立体、インスタレーション、映像までをも包括した、多様な表現を追及している。
今日、芸術や美術の表現が多様化して従来の概念を越え、多くの創造の場と、未知の可能性を生み出している。こうした時代に対応するために、絵画学科油画専攻では、学生の希望による教室選択を取り入れ、現代に即応した美意識を育み、あらゆるメディアを駆使して美の創造の確立に挑戦している。
しかし、自由な造形活動の内側には、厳しい造形への基礎訓練があることを忘れてはならない。表現する対象の現実・特色・性格・実在感・相互関係などを率直な目で捉え、描写する能力は重要である。また、光・物質・色彩・点・線・画といった造形上の原点を深く感知する姿勢や、理論の裏付けによる表現訓練も必須である。さらに、作品の深厚さのために、国内外の風土から熟成された文化や、自然界の様相、変貌急なる科学界などから感動を得る豊かな感性の育成が欠かせない。
油画専攻では、創造的な研究活動にふさわしい知的な教育環境をめざしている。実際に社会の最前線で活躍している教員たちとの親密な交流のなかで、日常の創作研究は行われている。また観賞会、旅などを通じての交流や、学生同士の情報交換は、創作活動に大きな刺激を与える活力源となる。
精神と技術が複雑に織り込まれた厳しい訓練の制作に対して、学生の個性を尊重しながら、教員は助言を惜しまない。未来に向かって個性的で自由なたくましい造形活動を続ける弾力性のある人材に期待する。
(2)現状
絵画学科は美術大学の根幹として、常に校舎建設の先頭を切ってきた。現在の絵画東棟は八王子に本格的な実習棟が建設された最初の建物であり、北斜面を利用した採光に特色がある絵画専用の校舎である。また今回の建築再開の先頭を切って建設された絵画北棟も教員の個人研究室、絵画キャンバス運搬用のエレベータ、展示ギャラリ、床暖房の日本画教室など衆智をあつめた設計がなされている。
しかしながら、近年の油画専攻は、平面からオブジェ、立体、インスタレーション、映像までをも包括した多様な表現となってきている。多摩美術大学の油画専攻は、かって陶芸を包括してきたように、絵画、彫刻、工芸などの古典的な概念では律しきれない自由闊達な気風をもっており、特に、若林教授の就任を契機にして、立体を制作する学生が増加しており、従来の教室施設では不都合がおきている。
(3)課題
平面造形を扱う絵画学科は、立体造形物を扱う彫刻学科と比べて、教室面積が少ないのが従来の考え方であり、現在の油画研究室も描写をカリキュラムの中心においており、彫刻学科をはじめ他学科の教育領域との競合関係など、検討すべき点もある。また、臨時定員の返還による定員の減少も予定されている。とはいえ油画専攻の立体造形のアトリエ施設の充実は、当面する検討事項となっている。
4)絵画学科版画専攻の現状と課題
(1)教育目標
版画は、版でつくられた絵画ではなく、版による独自の表現領域である。版画は、版による間接表現世界と、自己表現を量産するメディアとしての能力を持っている。この特質が、版画をもっとも現代的な表現領域として確立し、直接画面に描いていく絵画との根本的な差となっている。版画は伝統を継承したアカデミックな領域からイラストレーションやデザインの領域までを網羅できる表現世界であり、現代美術の重要な領域である。
今日、日本の版画が国際的にも高い評価を得ているのは、浮世絵、創作版画以来、版画史上で日本が非常に重要な位置を占めているという歴史的事実とともに、現代版画界のなかで、常にさまざまな技法の開発を試み、新たな版表現を探求してきた実績が広く認識されているゆえであろう。
こうした多様な可能性を秘めた表現である版画において、自己を自己との関わりのなかで、いかに大胆かつ新鮮に創造するかが問題である。その表現手段としての版画には、板目木版、エッチング、メゾチント、ドライポイント、リトグラフ、木版リトグラフ、シルクスクリーンなど、多用な版種がある。版画専攻では、各自が自分の表現に適した技法を追求し、必要に応じて伝統的技法や各種専門技法を学べるよう、カリキュラムが詳細に編成されている。
版画専攻は、「美術は自由であり、いかなる試みも可能なのである。」という理念のもと、自由な目と心による修練と、技術の創造的訓練の場をめざしている。多角的な視覚と思考を、技法と修練によって新鮮で創造的な世界に結びつけ、作家としての基礎的能力を深めることを期待する。自己の感性と知性による研磨の裏づけによってのみ、我々は真の創造の探求者となり得ることができる。
(2)現状
版表現は国際性と普遍性をもっており、世界語としての版画をめざして、版画トリエンナーレ展の開催や留学生受け入れなどを積極的に実施している。本学提携校のシルパコーン大学はグラフィックアートが盛んであり、韓国からの留学生が帰国後にアメリカ留学生と競って大学教授に就任するケースもでてきた。
版画用の機械が整備され、学生は大型の作品制作に挑戦するが、一方、機械に頼らない素朴な版画制作も工夫している。
(3)課題
他学科の学生の版画を勉強したいという希望にどう応えるかが、大学全体の履修方法に関わる課題である。
5)彫刻学科の現状と課題
(1)教育目標
彫刻は立体の芸術であり、人間の歴史とともにはじまった。造形表現のなかでももっとも古くからあった表現形態のひとつである彫刻を自らの表現手段として、現代的な展望から、自分自身の目で見、手を使い、自己表現の創造の道をめざす。
我々はすばらしい造形文化の遺産を数多く受け継いでいる。それらは遠い祖先の人たちの貴重な生活の証しでもある。その文化遺産から、我々は多くのことを学ばねばならない。同時に現代に生きている者は、自分自身の目によって鋭く世界を観察し、自らの手によって、それを表現しなければならない。なぜなら、古い衣装はいかにに優美であっても、それをそのまま着て今日の街頭を歩くことはできないからである。
近代工業は多くの新しい材料、鉄・セメント・プラスチック・ガラス・アルミニウムなどを生産し、それにともなう新しい技術を求め、生活形態の変化を生み出した。その結果、現代彫刻は、人間の意識の変化や、新しい素材や技術に敏感に反応して、さまざまな形態を生み出し、個々の創作の領域を求めることとなった。彫刻をめざすということは、こうした新たな領域への果敢な挑戦を始めることでもある。
彫刻学科に学ぶ学生は、まず自然形態の探求と素材の扱い方などの基礎を徹底的に学ぶとともに、創作の原点となる「自己のイメージの発展」や「物の見方」を養い、それを基本として自己表現の創造へと進む。
彫刻学科では、学生と教員との人間的交流を基盤にし、お互いの思考や創作を通して、彫刻芸術の本道の修練と探求を実践する。教員は体験を通しての助言と指導を惜しまない。「何をしたいか」「何を学びたいか」という目標をしっかりと見据えて、自らの手による探求と努力、感性の練磨と向上に努めることこそが、それぞれの明日を開く鍵となるのである。
(2)現状
彫刻だけを志向することなく、歴史や文学など多分野に学ぶ必要があると学生を指導している。
共同アトリエは仲間意識を育てる効果があり、全体の学生数も30名程で、適当な人数である。
10年前から始めた諸材料(mixed media)の科目は、映像的なものを含む独自なジャンルを目指している。
彫刻棟が新しくなり、設備面では世界に誇るべき内容となった。特に鋳造設備は全国で唯一であり、オープンキャンパスでも鋳造の実演には黒山の人だかりであった。塑像はブロンズ鋳造になってはじめて完成するといえる。
(3)課題
ファインアート系、デザイン系という、気質の違う者同志の交流があってこそ、キャンパスを同一にする意義がある。新校舎は絵画棟と彫刻棟がキャンパスの南北に離れてしまったので、絵画学科との交流がすくないのが問題点である。
6)工芸学科の現状と課題
(1)教育目標
文明の叡智の結果誕生した陶・ガラス・金属という質料を用いて、情報文化が欠落させてしまっている「モノ」のもつ圧倒的な存在性を造形へと結実させる、これが工芸学科のめざすものである。
かつてものを造ることは、何のためという目的を探し、つくるべきものを計画、それをもとに素材を活用して実現する、という総合としての人間的行為であった。しかしながら、高度近代化社会は大量消費の効率追及のために、つくる行為を分割させ、人がつくることや、つくられるものへの認識能力を失い、総合としての人間的行為を二義的あるいは趣味的存在へと押しやっていった。さらに時代は、非物質つまり電磁や電波などによる仮想の情報を、現実として受け止める文明を展開するようになった。
工芸学科はそうした状況に異議を唱え、現代において、陶・ガラス・金属という実在を使い、手でものをつくることの意味を提言していく。また、生活に深くかかわるべき工芸において、何が人間にとって望ましいものなのか、何が我々の時代に応答し得る造形概念なのか、個々人が模索する美術教育を行う。
多摩美術大学における工芸教育は、従来の、いわゆる工芸の概念では律し切れない独特の教育研究を実践し、国際的な評価を得てきた。陶教育は、陶素材による現代美術を創作しており、また、日本ではじめて本学に導入されたスタジオガラスの教育は、国際的なガラス工芸作家を多数輩出している。
工芸学科は、伝統的な日本の工芸観や西欧的な美学の芸術思考を超越し、時代の新たな価値観を構築し、世界的なフィールドで活躍し得る陶・ガラス・金属の現代造形作家を育成する。また、デザイン工芸の指導機関や社会教育施設などで指導に携わる教育者や研究者、工芸工房やデザイン社会などで企画・デザイン・制作に携わるクリエイターを育成する。
(2)現状
本学の陶芸教育は、かって油画専攻の一部として発展したために、従来の工芸概念よりも純粋芸術に近い特質をもっている。作業空間や設備は良くなったが、定員が20名に増加したので、学年間の学生の交流が薄くならないように注意している。そのために、3学年の作品制作時には素材別の3コースの連携を図っている。
(3)課題
ガラス工芸は、良い設備ができたので、世界レベルに近付いた。しかし、設備の貧しかった頃の学生がいまガラス工芸界で大活躍しているのは皮肉である。多摩美はガラスの第一人者を自負してきたが、設備に頼ると、その座を奪われかねない。個々の学生が問題を自ら見つけることが重要である。
7)グラフィックデザイン学科の現状と課題
(1)教育目標
情報革命は急速に進行中で、グラフィックデザインを取り巻く環境も急激に変化しつつあり、ビジュアルコミュニケーションの機能はますます重要視されてきている。この現状に鑑み、深い人間性に根ざした、豊かな感性力・想像力・洞察力・発見力・計画力などの人間力を基礎体力とし、新鮮で先鋭的な描写力・構成力・情報伝達技術力などの造形力を持ち、あわせて、デジタル機器による巧みな情報処理技術を保有する、創造性が高く、問題解決能力が強い、情報伝達デザイナーを養成することが、グラフィックデザイン学科の目的である。
そのために、60数年におよぶ、長い伝統と輝かしい実績を持つ今までの教育を充実化し高度化した。さらに、デジタル化・映像化・マルチ化した教科目を加えて、カリキュラムを構成し、アナログ・デジタルの両面に均衡のとれた発想と技術、広い視野、高い教養、正しい理論などを学んでいる。
1-2学年における基礎課程では、描写力・構成力・写真撮影技術などのアナログによる技術の習得と、コンピュータ操作によるデジタル技術を必修で学習する。3-4学年における専門課程では、1)新聞・雑誌・ポスターなどの印刷媒体広告表現や、CIやパッケージデザインの発想・計画・制作技術と理論を学ぶ広告デザインコース、2)造形による情報伝達技術を修得したうえで、テレビなどの映像媒体広告表現の企画・演出・編集技術と理論や、マルチメディアの情報伝達構造デザイン、コンテンツの発想・企画・制作技術と理論を学ぶ広告映像デザインコース、3)コンピュータグラフィックデザイン、3Dグラフィックデザインなどの創造的情報伝達表現の技術と理論を学ぶ伝達デザインコース、4)情報伝達の重要な要素である、写真とイラストレーション、アニメーションなどの表現技術と理論を学ぶ表現デザインコースの4コースのなかから1コースを選択学習する。
(2)現状
グラフィックデザイン学科は、杉浦非水を筆頭とする歴代の優れた教員の指導により、この半世紀の間に5,600名に及ぶ有能なデザイナを世に送り出した。それらの卒業生の活動範囲は、グラフィックデザインのみならず、映像メディアやマルチメディアやゲームソフトなどのあらゆる情報伝達分野に及び、その創造活動は、社会的にも文化的にも高く評価され、それぞれの業界の主流を占めている。卒業生の就職先も電通、博報堂、ソニーなど、有力企業が多い。これは、手仕事を基本に、発想、映像、デジタルなどの能力養成を加えた教育を実施しているからであろう。
グラフィックデザインなどの情報伝達デザインは、メディアなくしては存在せず、とくに実用化されたメディアに関わる。新しいメディアが実用化されるためには、そのメディアが経済的に自律することが必要であり、今日のメディアの動向は不透明である。しかしながら、人間の感情を造形にして伝えるというグラフィックデザインの原点は変わらないので、この点を重視して、新しいメディアに対応する教育を実施している。
(3)課題
デジタル化、映像化、マルチ化、ネット化という最近の動向は、この学科の大きな課題となっている。
コンピューターによるデザインのデジタル化教育については、DTP/DTVなどのCAD中心に進め、現在、周辺機器を含めると150台の機材をソリューション別に特化したシステム構成としており、約700名の学生がこれによって学び、学習効果をあげている。しかし今後、学生のコンピュータリテラシが向上してくると、次段階の技術教育と、安定したハイエンドマシーンの導入が必要となると思われる。
デジタルのデザイン教育については、まだまだ初歩の段階であるが、ウエブデザインなどが実用化されれば、コンピュータメディアの表現が爆発的に求められることが予想されるので、デジタルのデザイン教育を充実させなければならない。
以上の課題解決のためには、カリキュラムの抜本的な改革が必要である。現在のカリキュラムは、旧来のカリキュラムにデジタル関連科目を強引にねじこんだ感があり、整合性に無理があり、今後の時代に対応するのは困難である。過去の因習にこだわることを止め、新しい発想のカリキュラムの開発が急がれる。
また、新しいカリキュラムに対応した技術を持った教員が必要であり、デジタルデザイン、映像デザイン、デジタルデザイン関連の教員の確保に格段の努力をしなければなるまい。とくに、映像デザインコースには専任教員が不在というのが現実である。またデジタル化における人間性に関する、ヒューマンウエアについての教育研究の人材も必要であろう。総数700名を超える学生に対応する助手、副手の増員も要求されている。
8)生産デザイン学科の現状と課題
旧デザイン科の一部であったプロダクトとテキスタイルの教育境域は、どちらも単独学科を構成するには到らない小規模であったために、 今回の改組では合併独立して、新たなに生産デザイン学科を組織することとなった。
(1)プロダクトデザインコースの教育目標
ものとこと、人とこと、人ともの、のかかわりのなかで、人間にとって最も有益で、最も役に立つものを考え、方法を生み出し、現実化するのがプロダクトデザインである。日用品から航空機まで、すべての形あるものやシステムが含まれた領域である。
現在、わが国の産業においては、知的生産の分野がめざましく、工業生産との相乗効果を基盤とした新産業の時代を迎えており、生活価値や社会価値を創造するデザインの役割はますます重要になっている。プロダクトデザインコースは、工業生産活動において、物質文明と精神文明の両極の間のバランスや、科学技術と人間性のハーモニーを図ることをめざしている。
プロダクトデザインコースの大きな特徴としてあげられるのが、企業・研究機関との積極的な共同研究体制である。具体的なデザイン研究のために、産業界との産学共同研究、他大学との共同研究などが行われている。社会の動きを肌で感じ、工学・環境・福祉などの最先端の技術や技術者と交流を持ち、デザイナーとして不可欠な社会に対する確かな眼力と、リーダーシップを発揮できる人間性を得るための実践的な環境をつくっている。
カリキュラムは、すぐれたデザインの創造と提案ができる人材を育成するために、基礎デザイン力を修得するための内容と、コンセプトワーク・応用デザインなどの具体的なデザインの両方を四年間かけて平行してトレーニングする構造となっている。
卒業後の進路は、車両・設備建設・家庭電気製品・情報機器・医療福祉機器など多様な生産企業はもとより、教育機関や公共施設への就職、研究機関・海外留学・大学院への進学、個人経営のデザイン事務所や創作作家活動を行う者など、さまざまである。
(2)現状
多摩美術大学のよりよき存続のためには、カリキュラム、教え方、学生指導のあり方などのソフトを充実させる必要がある。他学科との交流、積極的な転科の受け入れ、地域との交流、積極的な情報の発信と収集、産学共同などによる社会との交流など、かつてにくらべて、よりきめのこまかい配慮が必要となった、欠陥製品に対してデザイナー側の責任が問われるPL法の時代に、即戦力を4年間で短期養成せねばならず、大学で教えることが多すぎる。
都心と八王子校舎との交通時間が短縮されて、都心の企業などとの官産学共同研究のプロジェクトが盛んになってきている。
(3)課題
プロダクトコースは、産業社会の進展に対応しながらカリキュラムが開発されるために、教員の構成をたえず改革する必要がある。そのために任期制の専任教員が提案されている。専任教員には、プロデユーサーとしての能力がもとめられる。
卒業生がすぐ社会に出るので助手が育ちにくい。
研究資料のデータバンク化、インターンシップ制ヘの対応、オリジナル商品の企画、産学共同研究からの商品の実現、ユニヴァーシティーグッズの開発などが当面の研究課題である。
(4)テキスタイルデザインコースの教育目標
繊維を使用するあらゆるデザイン活動がテキスタイルデザインの領域である。テキスタイルデザインと人間の濃密な関係は、原始の時代より現代まで変わることなく存続している。人間の生活環境に欠かせない重要な役割を果たす繊維の、あらゆる可能性を追求する。
日本に正倉院の遺産や絢爛たる染織の伝統があるように、世界各地域の各時代はそれぞれ見事な染織文化の華を咲かせている。歴史とともに歩んだこれらの文化遺産に、我々が学ぶべきことは多い。
現代のテキスタイルデザインは、ファッション衣装から建築空間まで、従来の狭義な概念や解釈ではくくりきれない多彩な広がりを見せている。さらに現代の染織は、新繊維素材や新技術の多様な開発による新しい美意識を生み出し、平面から立体へ、そして空間へと展開する新しい角度からのアプローチを試みながら、ファイバーアートなどの新しい芸術分野を創出するにいたった。
テキスタイルデザインは、過去の偉大な染織からの啓示に深い理解を示し、伝統技法の修得を尊重するとともに、現代に対応するクリエイティブな個性と感性を持った、広い視野に立つテキスタイルデザイナーやアーティストのための教育を展開する。そのための揺るがない基礎知識と技術、そして豊かな感性と人間性の育成を行える、充実したカリキュラムを提供する。
卒業後は、ファッションテキスタイル業界、インテリアテキスタイルメーカー、アパレルメーカー、原糸素材メーカーや商社・問屋など、テキスタイル関連企業にデザイナーや企画者として就職する者、さらなる研究をめざして大学院や海外の大学に進学する者、伝統的染織の手法を追求する者、ファイバーアーティストとして繊維素材や技法を通して創作活動にチャレンジする者など、多彩である。また、世界を舞台にインターナショナルな活躍を継続している者を多数輩出している。
(5)現状
テキスタイルコースは、旧染織科の伝統の強みが発揮され、デザイン教育とアート教育の安定した学科運営が行われている。今回の校舎建設では世界に類のない教育施設が完備された。
(6)課題
テキスタイルの専任教員の全員が本学卒業生である点を改善する必要があるが、海外からの特別講師招聘や、客員教授就任の計画など国際性に努めている。
染織技術やコンピュータの技術職員採用の要求があるが、現在はメディアセンターにプロフェッショナルな技術職員の組識を計画中であり、当面、各研究室に技術職員を配属する計画はない。
9)環境デザイン学科の現状と課題
(1)教育目標
「環境」は、「人間が知覚する外界」と定義される。その「環境」をデザインすること、これが環境デザイン学科の視野である。対象範囲は極めて広く、スケールの大小から見てみ、ファニチャーやインテリア、住宅、小空間から、ポケットパーク、都市環境まで含む。さらに、目に見えないシステムまでもその対象となり、もはやその範囲はインテリア・建築・ランドスケープという分野・枠組みを超えるに至った。アート、テクノロジー、エコロジーを俯瞰する視点と、自然環境、社会環境、文化環境などの的確な分析のもと、目の前に広がる世界をデザインするのが、環境デザインである。
環境デザイン学科では、徹底的な現場・原寸主義と、CAD・CGを駆使したモニター上でのシミュレーションとの両面から、「手」で考え、ものをつくる、文字通り身をもって環境デザインの意味を探ることに重点を置く。五感をとぎすまし、素直に真正面から環境を受け止め、問題を見つけ、デザインに消化していく。このプロセスにおいて、プロポーションやバランス、色彩感覚といった美学的要素のみならず、環境問題、リサイクル、エコロジー、バリアフリー等々の視点からの問題提起がなされ、答を見いださなくてはならない。
自分の専門分野に安住の地を見つける姿勢ではなく、今あるを常に疑い、違った視点から見直し、新たな問題を提起し、デザインによって解決する。環境デザイン学科では、その姿勢と、解決能力を養うことを主眼としている。これは、複雑なプログラムをコーディネートし、また新たな企画をプロデュースできるということでもある。主な資格は、卒業後二年の実務経験を経て一級建築士受験資格、卒業後三年の実務経験を経て一級造園施工管理技師受験資格、またインテリアプランナー、インテリアコーディネーター、二級建築士の受験資格と高等学校教諭(美術・工芸)一種免許、中学校教諭(美術)一種免許、博物館学芸員などの国家資格を取得することができる。環境デザイン学科では、「○×デザイナー」や「○×アーキテクト」なる肩書きに固執することなく、「環境デザイン」という、新たなデザインの分野に果敢に挑める強靭な意欲と実行力、指導力を持ち、かつ、光、風、素材、人の気配……それらの諸現象と向き合い、素直な感受性を併せ持った学生を求めている。
(2)現状
旧建築科が、旧立体デザイン科のインテリアと合流し、ランドスケープを加えて活気をとりもどした。建築科の改組は今回の一連の改組の中で最も成功した例である。建築科がどちらかと言うと工学系のカリキュラムを手本としていたのを改革し、改組後は美術学部独特のカリキュラムが開発され、入学志願者が急増し、その成果をあげている。現在は約160人の建築学科学生が在籍する移行期なので建築主体だが、これからは環境デザインとして理念化する方針がとられている。
(3)課題
環境制作の現場主義を特色とするカリキュラムのために、屋外に実習のための土地を確保したい希望がある。
各種成果物の出版活動が盛んであり、その制作費用の予算化が求められている。
10)情報デザイン学科の現状と課題
(1)教育目標
情報デザイン学とは、美しくわかりやすい情報環境を形成するために、美術を基礎として、芸術と科学と工学をインテグレーションする新しい領域である。そこでは、目に見え、手に触れることのできる環境だけでなく、時間やメッセージのやりとり(インタラクション)や概念空間をもデザインすべき環境として扱う。人間と社会、そして芸術を理解する新しいタイプの技術者かつ表現者である専門家、時間とインタラクションを組み入れた新しい表現活動を開拓する人材を育成する。
デジタル情報技術は、これまでの表現技術を統合するマルチメディアを実現し、人々の自発性において成立する総合性と世界同時性を持つインターネット環境を実現した。そこに生まれるさまざまなインタラクティブメディアは、我々の生活環境に広がるコミュニケーションメディアとしての、人間性豊かな発展が期待されている。一方、芸術創作は時代の科学技術や社会の動きと連携することで、新しいビジョンを切り開き、創造性豊かな社会現象を形成してきた。しかし、今日、新時代にふさわし芸術活動を切り開いていくには、論理的な科学技術の思考と、芸術的な造形表現能力を統合する、新たな領域が必要である。
情報デザイン学科では、理系・文系・音楽系・美術系といった従来の枠を越えたカリキュラムを提供する。制作実習を軸に、それと一体化した知識としての工学、人文社会科学、芸術理論の総合的なプログラムを通して、人間と社会と芸術を理解し、創造的な感性と緻密な論理性を持つ人材を育成する。
卒業後は新時代を切り開くイノベータ−として、また、豊かな情報を発展推進する専門家としての活躍が期待される。一般デザイン業の他、通信産業・ゲーム産業・映像産業などのメディアソフト産業、自動車産業、建設業、家庭電気製品やコンピュータ応用機器などの製造業、マスコミ、テレビ放送、コンサルタントなどのサービス産業、博物館、美術館、デジタル図書館などの教育機関、行政機関など、進出分野は多彩である
(2)現状
昨年度より新たに創設された情報デザイン学科は、美術系のみならず、文系、工学系志望者の入学を期待している。しかしながら、第1回生のアンケート調査によると、美術予備校からの志願者が圧倒的に多いのが現状であり、理想と現実の差は大きいものがある。現状を克服するための努力が続いている。
電子機械は不完全なままモデルチェンジを繰り返えしており、日に日に発達するコンピュータのハードとソフトを考慮しながらの教育課程づくりには困難なものがある。テクノロジーを教育研究の場に加えた結果、機械の管理保全の問題が生じ、定期的に買い替えしなかればならないなど産業のメカニズムが教育システムの組立てに大きく関わっている。コンピュターに対する人間の適応力、機械との人間的な関係をどうとり結ぶかについては楽観している。未来のコンピュータ指向のデザインだといえるようなモデルの提起を目指している。
インターネットによる世界との交信は英語の使用が基盤となる。情報デザイン教育には英語が重要な意味を持っており、学科独自の語学教育を展開している。
(3)課題
美術系では学科新設の定員増が法的に抑制されているので、工学での学科新設となったが、結果的には工学部系、美術系、人文系の教授の混成となり、多様な要素が同居する学科の運営は困難が多い。一方、この多様さが他の美術系大学が設置している多くの情報デザイン学科とは異なり、工学と人文と美術の教員と設備を兼ね備えていることが教育効果をあげている。短絡的に工学系や人文系の伝統的なカリキュラムを模倣するのではなく、美術系独自のカリキュラムを地道に模索することが大切であろう。
助手の採用資格に関して、現在の大学の基準は、大学院終了2年後となっているが、工学系の場合は緩和したいという提案がある。TAの採用を計画している。
11)芸術学科の現状と課題
(1)教育目標
芸術学科は、大きく変動しつつある現代の文化芸術の幅広い領域を、体系的に探求することを目的とする。
過去数十年、日本の社会は芸術の分野においても急速な変化を遂げてきた。生産と消費の二項がくっきりと分けられた形で均衡するという古典的な考えは実情にそぐわなくなり、我々は消費が生産に先行し、需要が供給の内容までも決定しかねない現実に直面している。
この趨勢をいち早く正面から受け止めて発足した芸術学科は、芸術固有の創造的消費の論理を掲げ、芸術の媒介者や享受者が単純で受動的なだけの消費者ではあり得ず、再創造者、あるいはもう一つの独自の創造者でなければならないとの考えに立ち、単なる書斎人や文化行政官の域を越えた新しいタイプの人材(送り手・受け手)の育成を目的としている。
芸術学科では、美術史をはじめとする歴史的理解のうえに立ち、美術、デザイン、文学、映像やパフォーマンス、建築、ファッションなどのさまざまなジャンルを個別的に探求する。その基盤となるのが日本美術史、西洋美術史、東洋美術史といったオーソドックスなものを含む、さまざまな領域にわたる多角的な歴史認識である。この理解のうえに、単なる専門的教育や創作にとどまらない、古い枠組みを解体して新しい展望を開き、諸芸術と社会との結合を試みる。
芸術と社会の意識的な媒介者、芸術の再創造者ともいうべき、より積極的な役割をになう人材は、今日、ジャンルを越えて渇望されている。具体的には、美術館などの学芸員、企業のアートコーディネーター、文化行政・団体の事業担当者、雑誌・出版物の編集者、映像作家、映画・演劇・パフォーマンスの製作者、イベントプロデューサー、商品の開発企画立案者、広告ディレクター、CFプランナー、画廊関係者、芸術関係の研究者や評論家など、多彩である。
(2)現状
価値の決定が受け手の側にあるという現在の消費社会の性格は、芸術においても受け手のプロフェッショナルを求めている。美術の分野において、この需要に答えることを目標としている。
実技系他学科との連携を含めたアートプログラム、20世紀を考える連続講座、展覧会見学や調査のためのオフキャンパスなど特色のある授業が実施されている。
センター入試の一部定員化を実施している。
(3)課題
芸術学科志願者へのアプローチとアピール方法、進路指導方法の開拓にはなお工夫が必要である。
現在図書館は5時に閉じられるが、論文執筆学生のためや、図書館の収集になる現代美術資料や龍口・北園文庫の整理とデーターベース化の作業のためは時間がかかり、図書館の閉館時間を延長してほしいという希望がある。
12)共通教育の現状と課題
(1)教育目標
学理の尊重は、美術学部創立以来の伝統である。共通教育は、美術に関連した人間と文化の諸問題について、広い基礎的教養と、学理を中心とした専門教育の推進に努めている。
人間の主体性の確立と創造性の開発とは、美術教育に不可欠の条件として重視するところである。美術の制作は、人間を忘れ、学理を離れた、単なる技能人にとどまることによっては達成され得ない。教養・学理・実技にわたる共通科目は、豊かな心情と自由な創意と批判的な精神に貫かれた芸術的個性の形成をめざす。
共通教育は、将来、美術やデザインの分野はもとより、社会の多方面で活躍する人材育成のために、美術大学にふさわしい内容をもった多種多様な共通基礎教育科目を、美術学部の全学生に対して開講している。科目は外国語、保健体育をはじめ、自然科学、社会科学、人文科学など多彩に展開される。
共通基礎教育科目は、文化的な社会の一員にふさわしい、高い教養の修得と人間性を向上させるために設けられた科目群で、一般教養的な内容のみならず、教養と専門間の境界領域を含み、学生はそれぞれの目的と関心に合わせて科目を選択することができる。
共通専門教育科目は、多種多様にわたる現代の美術活動の支柱となるべき理論を固めるために設けられた科目群で、美術の各専門分野にかかわる理論および各専門分野間にまたがる内容を含み、実技と関連して開講され、多様化する学生の要求と社会の変化に対応する科目を選択することができる。
その他、共通教育科目には、教師を志す学生のための教員免許状の取得、および美術館・博物館のキュレーターをめざす学生のための学芸員資格の取得に必要な単位が含まれている。
(2)現状
設置基準の改定により一般教養、語学、保健体育の必修枠が廃止された当初には、一時的に英語などを履修しない現象があったが、現在では自律した見識から共通教育の重要性が再認識され、学科の枠をはずしたコラボレーションや作品発表会のプロジェクトが実現している。
しかしながら、3000名の学生を対象とする共通教育の活性化は、八王子移転の当初1969年に建築された本館施設では困難が多く、メディアセンター棟1期工事およびメディアセンター棟第2期工事の完成が切望される。
実技科目と協力しあって、共通科目の多様化と充実をはかる計画や、年間14回ほどの講義による半期制の導入により講義の多様化と活性化をはかる計画を検討している。
互換の単位認定数が増加したので編入学の機会がふえ、また学部や学科が増加したので転部転科の機会もふえるであろうから、現在の学年関門制や単位互換を検討することが必要となるであろう。
共通教育を単独の学科として公表してほしいという意見があるが、本学の寄付行為第4条および学則第3条にもそのような記載はなく、また学科設置の認可もない。しかしながら、学生が所属する8学科11専攻を網羅する共通教育は極めて重要であり、学科を超えた共通教育を充実させる必要がある。
(3)課題
従来、一般教養科目の運営は、教務部があたってきたために、単独の共通教育研究室としての認識が薄い。美術学部は大組織でもあるので、共通教育の活性化はこれからの課題であり、美術学部の中に共存する純粋芸術系、デザイン系、学理系の3色3様の特色を、相乗的に生かす効果的なカリキュラムを工夫する必要がある。実技科目と協力しあって、共通教育科目の多様化と充実をはかることが当面の課題である。
その他、大人数クラスの解消、国内外における研修やサバティカル制度の充実、共同研究費交付基準の明確化、学生相談室の設置などの検討事項がある。
造形表現学部
13)造形学科の現状と課題
(1)教育目標
日本の「絵画」を横断的に追求する。手法と素材のクロスオーバーが進み、表現の多様化がますます進展しているなか、各自が枠にとらわれない自由な発想と創意をもち、独自の表現を構築し展開できる礎を培う。
芸術文化の活況を支える原動力のひとつは、イメージ豊かな表現力や造形力を競う造形家の創作活動である。これらの造形活動は、日本の社会において美しい生き方の探求への関心を高め、豊かな生活美の創造に貢献してきた。日本の芸術文化をさらに発展させ、豊かな美的イメージを共有しあう文化社会を実現するためには、コミュニケーションが高度情報化する現代こそ、人間らしい文化の創造を担う人材が不可欠である。
また、国際的な価値の多様化は、美術の分野においても例外ではない。造形学科では、世界の諸地域や民族の造形美術を視野に入れ、その独自性、相互関係性、普遍性の考察から造形表現の根本原理を探り、実作と高度な鑑賞力を育成する。
カリキュラムは、今日の絵画を横断的に学べる編成とした。日本画の観点からは日本の伝統と革新を、油画の観点からは西洋の視野と技術を会得する。さらに、テンペラやフレスコなどの古典技法、版画、映像表現までをも広く取り入れ、既成の枠にとらわれない独自の表現が追求できる環境を実現している。
卒業後は、創作活動に専念し、純粋に人間的な創造力を発揮し、実作を深く追求していく者を数多く輩出している。同時に、造形関連の幅広い分野にまたがる造形美術の受け手も多数輩出している。放送・通信・出版など関連業界はもとより、幼児の創造教育から中高齢者の創造教育までの美術指導者、公共施設の指導員や美術館学芸員、美術セラピストなど、領域は多彩である。芸術文化の基礎をなす造形美術に対する理解と知識をもつ人材は、社会各層から強く期待されている。
(2)現状
平成元年に美術学部二部の絵画学科がスタートした時には、美術学部のように日本画専攻と油画専攻にわかれていたが、現在では油画と日本画がスムーズに混在している。
当面は平面表現を中心とし、インスタレーションなどは場所的、物理的、人的要素を考慮して行っていない。
生涯教育を目指し、定員の30%以上を社会人枠としている。高校新卒とはちがう社会人の制作意欲に対応するために、八王子とは異なり上野毛は2年間基礎教育を行うなど、カリキュラムの工夫につとめている。社会人の場合、絵画に対する既存のイメージが固定している傾向があり、基礎教育に重点をおいている。
大学院に進みたい学生が1学年40名のうちの半数あり、夜間コース大学院の充実をめざしている。現在の在籍者数は1年8名、2年9名である。特に社会人のほとんどは大学院への受験を希望している。
現在使用中の絵画アトリエは、天井の高さが不足しており、また、大型作品制作のために必要な適当な距離がとれない教室もある。都心部の狭隘な校地面積での増築は難しく、現状の校舎での工夫利用を前提とせざるをえない。夜間の絵画制作環境の工夫として特殊な蛍光燈を使用している。
(3)課題
美術学部二部は展示スペースが絶対的に足りないという理由で「東京五美術大学連合卒業制作展」への出品ができないでいる。造形表現学部の第1回卒業を機会に同展への参加実現をすることが課題である。
14)デザイン学科の現状と課題
(1)教育目標
デザイン学科では、多様なデザイン研究を、コミュニケーション機能の研究をベースに展開する。表現手段としてのコンピュータによるデジタル表現やマルチメディア手法を主軸として、現代の要求に即した、かつ実践へと直結する総合的なデザインを追及する。
現代の日本の産業界は、いわゆるハードウェア思考からソフトウェア思考に移行しつつある。そうした時代背景のもと、ソフト産業の発展とともに、コミュニケーション手段としコンピュータの導入利用は拡大の一途をたどっている。特に昨今では、専門業種に就職した者のなかから、コンピュータによる高度なデザイン再教育の機会を求める声が多く、短期大学や一般大学を卒業した高学歴の社会人がより専門性の高い教育を求めて再受験する例も見られるようになってきた。
同時にデザイン関連分野では、コンピュータや各種デジタル機器を活用するコミュニケーションデザイン教育と、人間性・社会性に根ざした創造的な造形教育との融合によって生まれる、新しいタイプのデザイナーの登場が強く期待されている。最新技術による造形表現力と、広い芸術教養に根ざした創造性を身につけた、従来のデザイン領域のみならず新しいデザイン領域を企画開拓する能力を持つ、国際化と情報化時代のデザイン関連産業に寄与できる専門的人材の需要は、多様な領域で今後ますます増大すると見込まれている。
活動の領域として、印刷・出版・マルチメディア・プロダクト・ヒューマンインターフェース・建築空間・生活環境など多岐にわたる産業界が見こまれる。卒業後は各領域のデザイナーや研究者をはじめとして、従来のデザインの領域にとらわれない総合クリエイターとしての活躍が期待されている。
(2)現状
かつてのバウハウスは、建築を中心に、音楽、演劇、コスチュームなどがそれを囲む構成をとったが、現在では多くの分野がデザインの名で統合される時代となり、コンピュータが中心的役割を占める成熟した社会が21世紀に向けて訪れようとしている。20世紀が文化のすみわけの時代であるとすれば、21世紀は情報のネットワーク化による文化の組合せ、総合の時代となる。
1学年100人のうち社会人は25人である。社会人が高卒生をリードする好ましい関係が成立している。夜の授業の苦労はそれほどなく、概して都内での職学同居の生活を楽しんでいる傾向がある。
(3)課題
多くの非常勤教員が少ない専任教員を支えてカリキュラムをすすめている。特に、コンピューター200台にふえた機械の管理が重荷となっている。
15)映像演劇学科の現状と課題
(1)教育目標
映像演劇学科は、映像表現、身体表現、空間表現、の三つの領域にまたがる芸術表現を探求する学科である。心と身体と映像技術を融合して、豊かで幅広い創造性とたくましい作家精神を育成する。
経済の発展と社会の熟成を経て、我々は新しい21世紀に向かっている。コミュニケーションメディアの急激な進展は、さまざまな枠組みを融合し、価値観の多様化を生み、同時に芸術表現も多様化の道をたどっている。こうした時代背景のもと、21世紀に向かう映像文化・劇場文化は、先端技術と人間性との調和、つくり手と受け手の相互交流を課題としている。これらの課題を踏まえて、映像演劇学科は、この時代にもっともふさわしい表現を求め、独創的な芸術表現ができる多彩な人材の育成・輩出を目指している。
具体的には、三領域のなかから各自が選択し、作品制作の実習を通して学んでいく。映像表現の領域では、映画・写真などのフィルム表現を、身体表現の領域では演劇・ダンス・パフォーマンスを含む表現を、空間表現の領域では劇場美術・映像美術を主軸として照明・音響・音楽・衣裳までを学ぶ。さらに、劇作、シナリオなどの文字表現からプロデュースなどの企画・制作をも網羅する。4年間の創造と実践は、時間軸と空間軸とが交差しあい、織りなす表現を創造する力を養い、人間としての気迫に満ちた、作家精神を涵養する。
映像演劇学科が育成するのは、ひとつには個性豊かな映像作品の制作者、舞台上演を支える豊かな身体の表現者、現実の生活空間から仮想空間を含む創意豊かな空間の演出者である。さらにまた、情報化時代の芸術文化を実現するために、先端的な機械装置や演出機械空間を自由な発想で使いこなせるデザイナー、先進的な文化的イベントを企画し、アートマネージメントし、プロデュースする指導者の育成もめざしている。
(2)現状
大学教育での演劇教育機関は希有な存在であり、この学科の際立った特色であり、どのように発展するのかが期待される。
それぞれの専門を持った表現者を養成し、創作者を育てることを目的としているために、学生の表現意欲は抜群であり、上野毛講堂やA棟スタジオや映像スタジオを利用した演劇公演の実績により上野毛演劇の校風が生まれつつある。映像作品制作者は各種のフィルムコンテストにも積極的に参加し、受賞者も多い。
1つのコマを何人もの教員が担当するカリキュラムに特色があるために、専任教員や非常勤講師、臨時講師の数が多い。
(3)課題
映像教育は、写真と16mm映画を中心にコンピューターグラフィックスやビデオを加えて、創作者の育成をはかっている。10年前に最新機器を設備し、1インチビデオ編集機があるのは大学では珍しい。しかしそのビデオもすでにデジタル化の波は無視できず、カリキュラムの組立と機材拡充のイタチごっこは続き、ランニングコンテストも大きいのが問題である。
16)共通教育(上野毛)の現状と課題
(1)教育目標
共通教育は、各学科の専門教育との関連をはかりながら、人間形成の基礎となる総合的な一般教養を培うことを目的としている。社会人としての常識に富み、総合的な判断力があり、しかも専門的技術にすぐれた芸術性豊かな人間を育成する科目群であり、芸術専門家として自立し、活躍する基礎を学ぶ。
共通教育では、美の基本原理についての深い理解と、自然や社会からの情報を正確に把握するという二つの用件を同時に満たすために、総合講座を実施している。総合講座は、自然と人間との関係を可能な限り多角的に捉えることを目的として、自然と人間をテーマとする複数の科目群で編成し、地球的視点に立った問題意識と創造力を喚起する。
このテーマは、決定論的にだけ現象を見てきて合理的な科学万能主義の現代にあって、大気・森林・風・水などの自然がいかに人にとってかかわっていたかの問題に、語学・体育・絵画実技・美学・美術史などの多様な専門分野からの探りを入れようとするものである。偉大な全体人といえる岡倉天心の自然観についての共同研究を実施し、さらに生涯学習、公開講座についての研究を進め、各教員の講座に反映させている。
また、共通教育と各学科とが共同して行っている共同研究は、学内外に対して発信され、広く評価を獲得している共通教育の新しい試みである。その成果は随時講義などに反映されており、学生の作品創造の基点となることが期待されている。こうした研究活動は、共通教育の新しい道をつくり、秩序をつくる計画の一端として、積極的に展開されている。
その他、共通教育の科目群には、博物館・美術館のキュレーターをめざす学生を対象とした学芸員資格取得のために必要な科目が編成されている。
(2)現状
共同研究の第1回は岡倉天心と自然観をとりあげたが、第2回目は美術と社会人をテーマとしている。
(3)課題
社会人教育を目的とした総合的な教育が検討されている。しかし社会人の修学に対する負担は、時間的、環境的、経済的に大きなものがあり、一般社会や勤務先企業の理解が必要である。
また学内においても、社会人を受け入れる環境をさらに充実する必要がある。特に、社会人の高等教育にたいするニーズを的確に調査し対応する必要があろう。さもなくば、社会人を受け入れて面倒を見ない、という誤解が生ずる。一般教養を身につけたい、基礎的な訓練をしてほしいという社会人が意外に多いという意見もある。
実技学年制から完全単位性への移行、生涯学習センタと関連して新メディアや学外での教育、休日や休暇中の集中授業など思い切った再編成を検討する意見もある。
17)大学院美術研究科の現状と課題
(1)絵画専攻の研究目標
絵画専攻は、日本画、油画、版画、陶の四つの研究領域に分かれ、次のような研究目標を掲げ、創作を続けている。
日本画は、ややもすると本質を見誤り、形骸だけを追いかねない現代の多様な社会で、己に厳しく切磋琢磨する、真摯な努力による創作研究に期待している。油画は、各自が個性的で自由闊達な造形活動を続けている。しかし、自由な造形活動の内側には厳しい造形への基礎訓練を必要とする。理論の裏づけによる表現訓練、現代に即応した美意識と、あらゆるメディアを駆使して美の創造の確立に徹底して、創作研究を深めることを目標としている。
現代を自己とのかかわりのなかで、いかに大胆かつ新鮮に創造するか。版画は、多彩な版種による多角的な視覚と思考により、新鮮で創造的な世界を切り開き、作家としての発表能力を深める創作研究を目標としている。
陶は、現代における陶をつくる意味、陶による造形の可能性を追求し、創作研究することを目標としている。
(2)彫刻専攻の研究目標
彫刻専攻は、彫刻創造と探究の実践をさらに深め、自らの方向を問い、立体芸術に接近する。それぞれのイメージによってテーマを決定し、幅広い自由闊達な造形思考と交わりながら、各素材を用いての制作を進め、形態を創作する。物質を通じ、形を生み出してゆくには、現代に即した意識と自己を見つめる厳しい姿勢が必要であると同時に、歴史的・時間的な概念への認識も重要である。また、精神と技術のバランスが作品を生むといわれるが、そのかたわらにはつねに努力が必要となり、そのうえに感性が表出するであろう。
国際的な交流、教員との対話、あるいは友人との対話などを通して、自己の世界を広げ、明るく意欲的な創造活動の日々を未来へとつなげることを期待する。
(3)デザイン専攻の研究目標
高度情報化社会の到来とともに、デザインの領域はますます拡大し、それぞれに高度な専門性が求められている。デザイン専攻においては、美術学部の学科・専攻・専修に対応するグラフィックデザイン、プロダクトデザイン、インテリアデザイン、クラフトデザイン、染織デザイン、建築デザインの研究領域を設けて、社会の多様なニーズ、学生の多様な研究計画に対応している。
しかし、これらの研究領域も便宜上のものであって、研究者としての院生の自主的な研究計画を疎外するものではなく、写真・映像デザイン、メディア・デザインなど多くの専門分野に研究領域を拡大している。一方、デザインの専門研究を行ううえで不可欠なデザイン全般に共通する理論・知識を深めるために、デザイン全般にかかわる諸問題を中心に、全学生の参加による共通研究を行っている。
(4)芸術学専攻の研究目標
現代社会という多様で複雑な要因をはらんだ情況のなかにある芸術を、われわれの生活のなかで身近なものにしていくために、美術、言語芸術、映像表現などの理論と歴史の専門的知識をもった積極的な人材の育成は、なくてはならないものである。つまり芸術家やデザイナーといったつくり手と、観衆や聴衆といった受け手とをつなぐ人材、学芸員、企業メセナのプランナー、地方公共団体の文化事業の担当者、企業内の文化活動の企画立案者などの育成が必要である。
芸術学専攻は、現代芸術を積極的に受けとめ、理論的に解明し、社会のなかに位置づけ、意味づけをする、批評家・編集者・研究者を育成する。また、現代の芸術活動に広くかかわり合い、さまざまな回路を通して多くの観衆に芸術を提供するプロモーターやプロデューサーを育成する。さらに、芸術表現の領域で重要な手段となっている映像作品の理論的な研究を行う人材を育成する。
そのために、美術を中心とする理論や歴史、さらには、それらの現実社会における実際の展開を理解し研究する。方法として、具体的な作家・作品・運動・社会的諸形態などを対象とすることもあり、また純粋な理論や原理の追求という側面をもつこともある。また、美術研究の視野を広げるために、絵画・彫刻・デザイン各専攻との相互交流を深め、大学院の研究を活性化する。
修了生は、美術館などの学芸員、企業のアート・コーディネーター、芸術文化行政・団体の事業担当者、画廊関係者などとして活躍している。
(5)修士課程の現状
本学の修士課程は、学部の教育と隣接しながら発展したために、学部組識が肥大化するに伴って、研究分野が専門化し、研究室の一元的な運営は困難になってきている。一方、美術系とデザイン系など運営方法の異なる分野、異なる特色の専攻が影響しあう教育効果も期待できる。修士課程の見直しと充実は、当面する課題である。
(6)課題
今回の一連の改組は、唯一残る博士課程の新設によって、画龍点睛をみるといえる。
大組識化した美術学部や、研究分野が専門化した修士課程に対して、博士課程は小規模で普遍的、すなわち、芸術やデザインに分割されないで、実技系と理論系が統合された美術研究を目指すのが好ましい。今日の複雑多様な芸術状況に対応できる高度な知性と創造力を統合する一元化した美術理念を宣言するべきであろう。
18)その他の課題
その他、各学科に共通する課題を記載する。
(1)映像教育の問題
多摩美術大学における映像教育の領域は、美術学部のグラフックデザイン学科における広告映像デザインコース、情報デザイン学科におけるデジタル映像、芸術学科における映像ジャンル研究、造形表現学部の映像演劇学部における16mm映画など4学科に分散していて、武蔵野美術大学のような単独の映像学科をもたない。
近年、マルチメディアの発展に伴い、この分野での学生の創作意欲は高いものがあり、油画専攻や彫刻専攻の中にも映像をやりたい学生がふえている。
受験生の志望コース選択時の障害となっているとはいえ、本学4学科の映像教育は、それぞれの特徴をもっており、当面は2000年に竣工するメディアセンター棟の共通施設である映像部門の開設が期待される。
(2)夜間のアトリエ使用の問題
卒業制作時期や、作品提出期限の直前には、学生の制作作業が集中し、学生の下校時間をめぐって建物管理警備員と学生の交渉が日常化している。早朝や午前の時間帯が有効に使用されているか、昼間の建物機能を夜間にどの程度維持する必要があるのか、アウトソーシングしている警備会社の保障や契約の問題など議論も多い。学生管理、研究室管理、総務部管理などのゾーニングを設定するなど、技術的な解決策も消防法の非難通路確保上の制約があり困難である。しかしながら、本学の創設当時に「勉強しようとする者にこれほど寛大な学校はない、24時間火となって勉強するところである」と中村研一教授が詠った理想は堅持したいものである。
絵画棟の場合、建物入口の開鍵を8時から8時までとしているが学生の不満がある。午前中から制作するよう指導している。
デザイン棟の場合は、管理面積が大きいうえに、4学科が共同使用するために問題が大きい。コンピュータなどの高価な部品の盗難もおきている。プロダクト研究室は昼夜間におよぶ制作作業が多く専任教員が出勤しているが、夜間の車両の出入りができない。環境デザイン研究室は、デザイン棟へは自由な出入りとし部屋毎の管理に移行する案を、情報デザイン研究室は電子カードによる案を検討している。
(3)アトリエの冷房施設と防虫網戸の問題など
八王子校舎の建築委員会では、教室の冷房施設について一定の基準を設定し、合意のもとに建築が完成したが、やはり夏季休暇に入る直前には不満が多い。多摩ニュータウン地域での省エネの観点からも、現状の基準を維持する必要があるが、将来の課題ではあろう。
日本画については、新校舎の日本画アトリエに完備した床暖房設備は有効であり快適である。但し、夏場の蚊が多く、日本画は寝かせて描くので、防虫網戸施設が必要である。一連の計画工事が一段落した後の課題である。版画やテキスタイルでも同様の要求がある。
また建設後長年経過した絵画東棟は照度不足や壁面清掃の問題がある。
(4)教室不足の問題
本学の教室面積を一般他大学と比較すると、美術学校の特徴として膨大な床面積を設備している。教室には、制作途中の作品があるので、空室の時間帯を他の授業で使用することができず、教室の狭隘は常に問題となる。
油画の立体造形の問題はすでに述べたとおりであるが、陶芸教育が工芸学科に転属した後処理の問題、1号館に残留する芸術学科の移転の問題などがあるが、一連の建設工事と関連する問題である。センタ棟二期工事の着工に期待されている。
新設の情報デザイン学科は、学年毎の学生居室にはせずに、6種の機能スタジオで基礎と専門さらに大学院の授業をおこなうスタジオ制を工夫しているが、学年がふえるに従い教室の不足が現実となってきている。
(5)アトリエ工房の排水問題
絵画顔料の成分である鉛や水銀などが排水に紛れ込む問題の解決策は深刻な課題である。日本画ではポリバケツを利用した沈殿漕を提案している。油画ではアトリエでのテレピン油による環境が問題となっている。工芸でも沈殿漕の性能が問題となっている。全学的総合的な課題として対策がすすめられている。
共通科目には「材料学」や「物理学」など、薬品の知識やエネルギー環境問題を教え実習体験させる科目があるので、学生には積極的に学ばせ、自浄作用をはかる提案がなされている。
(6)共同研究の事務組識
もともと美術大学では、作家やデザイナーを兼ねる教員が各学科を運営してきたので、学外と学内の交流開放は日常的であり、また学生が学外で作品発表することも多く、社会との共同研究の基盤はある。産学協同研究や業務委託などのルールを見直し、専門の担当事務組織をメディアセンター棟の研究部門やデザイン研究センターなどに設置することが検討されている。
(学長 辻惟雄、教務部長 高橋史郎)