大学院芸術学専攻の新設
1)大学院芸術学専攻の設置申請
1997.06.30 申請書類
1997.10.31 補正申請書類
1998.05.12 履行状況報告書
1999.15.11 履行状況報告書
多摩美術大学は教育研究の高度化に対応するため、昭和39年に我が国の私立美術大学としては最初の大学院美術研究科修士課程を開設した。開設当時の学部構成に合わせ絵画、彫刻、そしてデザインの3つの専攻を設け、以来、芸術・デザイン分野における高度な技量と知識を備えた人材を育成してきた。本学はその後、昭和56年、美術学部に美術大学の特色を生かして芸術家やデザイナーなどの作り手と手を携え、制作の現場から芸術の抱える問題を検討し、理論的に探究していく芸術学科を新設した。昭和60年にその卒業生が出るに及んで、芸術学科の大学院志望者は絵画専攻に進学することになった。昭和62年に最初の修士課程修了生を社会に送り出して以来、多くの修了生が美術館などの学芸員をはじめとして、企業や文化団体の企画立案者などとして活躍している。
大学院美術研究科修士課程に芸術学専攻を独立して設置する理由は以下の通りである。第一に美術学部芸術学科での教育研究を更に高度化し、学部から大学院へと至る一貫した教育研究体制を築き上げるためである。第二にこれまでの大学院美術研究科修士課程は主として美術やデザインの制作者の養成に主眼点をおいていたが、更に、美術を中心として、言語芸術や映像表現などの理論や歴史の専門知識を持った人材を養成することで、美術研究科の教育研究の視野を広げるとともに、現行の絵画、彫刻そしてデザイン専攻との相互交流を深め大学院全体を活性化するためである。また過去数年、既存コースにおいて、他大学出身者や文部省給費留学生等の受け入れが増加する傾向にあり、そうした学外からの要請に応じる意味でも、本学ならではの大学院教育研究体制の拡充が望まれている。更に付随的なことではあるが、現在は絵画専攻で教育研究を行っているため、規模や内容の面で一定の制約を受けており、また名称の点でも誤解を招きかねない情況にある。その点でも芸術学専攻の独立は緊急の課題である。尚、将来的には大学院での教育研究をさらに充実するため、博士後期課程の設置を予定している。
現代社会において、芸術は私たちにとって不可欠な価値領域となっているが、同時に高度情報化社会という多様で複雑な要因をはらんだ状況の中にある。こうした状況にあって、美術、言語芸術、映像表現などの理論と歴史の専門的知識を持った積極的な受け手の養成(批評家、編集者、研究者など)は、芸術を私たちの生活の中で身近なものにしていくためになくてはならないものてある。また消費社会の成熟を迎えることで、現在は文化活動や文化事業が社会のあらゆるレベル(国、地方公共団体、企業)に浸透し、その結果、文化施設や文化制度が整備されるに従って、そうした施設や制度を支える専門的知識を持った人材が要請されている。つまり芸術家やデザイナーといった作り手と観衆や聴衆といった受け手とをつなぐ人材、例えば、学芸員、企業メセナのプランナー、地方公共団体の文化事業の担当者、企業内の文化活動の企画立案者などが社会的に必要とされてきたのである。こうした社会の要請に対応するためにも本学は大学院美術研究科に芸術学専攻を設置することとした。
大学院美術研究科修士課程芸術学専攻の教育内容は、こうした社会的な要請を踏まえ、美術学部芸術学科の教育内容を踏襲しながらも更にそれを高度化したものとなる。第一は混沌とした情況の中にあって難解と言われる芸術を積極的に受けとめ、理論的に解明することで社会の中に位置づけ、意味付けをする受け手、つまり批評家、編集者、研究者などの養成である。第二は現代の芸術活動に広く関わり合い、それをさまざまな回路を通して多くの観衆に提供する芸術のプロモーターやプロデューサーの養成である。そして第三に、現代社会にあってコミュニケーションと芸術表現の双方の領域で重要な手段となっているフィルムやビデオ作品を制作し、また同時にその理論的な研究も行う人材の養成である。
これまでに大学院美術研究科修士課程絵画専攻を芸術学の研究で修了したものは、美術館などの学芸員、企業のアート・コーディネーター、芸術文化行政・団体の事業担当者、画廊関係者などとして活躍している。具体的には、美術館では水戸芸術館、群馬県立近代美術館、千葉市美術館、三鷹市民ギャラリー、埼玉県立近代美術館、愛媛県立美術館など、企業ではNHKエンタープライズ、都市工学研究所などの名前を挙げることができる。今後も文化制度や文化施設の整備は緩やかではあっても杜会のさまざまなレベルで確実に維持されていくであろうから、安定した就職の見通しを持つことが期待できる。