図書館の電算化
現在の情報化社会において、大学は全学的に情報インフラの整備を進めることは勿論のこと、世界的規模で発展しているインターネットに代表されるように、ネットワークを通じて提供される学術情報をいかに大学教育と研究に活かしていくか、そして教育研究をいかに高度化していくかが課題となってきている。
情報公開、電子図書館化が叫ばれて久しいが、本学では残念ながらインフラの整備と情報化に遅れをとっているといわざるを得ない。日本図書館協会の1998年の調査報告によれば回答した大学807機関の内、データ化を完了・実施中・計画中と答えた機関は685(84%)にのぼっている。多くの大学では蔵書の遡及入力が進み、OPACが整備されて、学内外から情報検索できる環境が整ってきている。また、既にWebOPACを公開して、大学内だけでなく広く国内外の利用者に情報提供してその存在感を広く世に知らしめている大学も増えてきている。
本学図書館においても情報公開を考える場合、まず蔵書のデータ化、いわゆる遡及入力に着手する必要がある。これは今まで作成してきた目録カードから、端末機を利用したオンライン検索(著者、書名、主題検索など)を行うための基本情報となる書誌・所蔵データベースを構築する作業である。この前段作業としては図書のバーコードラベルを貼付して個体管理をし、貸出返却及び蔵書管理ができるようにすることが前提となる。蔵書をデータ化する場合、できるだけ典拠管理に優れ内容豊富なデータを利用することが有効な情報検索につながる訳であり、一時的に費用は発生するが永続的に利用できる質の高いデータを構築することが重要である。その意味で全国的に蔵書のデータ化を手掛け、国立西洋美術館など美術資料のデータ化の実績も多い紀伊國屋書店に委託することとし、同社が提供する国内及び世界最大の書誌データベースを利用して行うこととした。
蔵書データベースを動かすものは図書館情報管理システムであり、本学図書館としては多くの大学で稼動実績を誇る潟潟Rーが提供するLIMEDIO(リメディオ)を導入することとした。リメディオはネットワーク環境で動作するUNIXをベースにしたオープンなシステムであり、フリーキーワードによる高速・柔軟な検索を実現し、目録管理を中心とする基本システムと、図書館の日常業務をさまざまな面から支援するサブシステム(図書検索/閲覧管理/発注受入/雑誌管理/蔵書点検/相互貸借)から構成される。本学に設置するクライアント数は、業務用(八王子7台、上野毛2台)、閲覧用(八王子1台、上野毛1台)、OPAC(八王子4台、上野毛2台)の構成としている。蔵書データや利用者データを図書館システム上に展開することにより、図書館業務が飛躍的に向上する他、情報提供と研究支援の面で来館者はもとより、学部生・大学院生・社会人教育対象者及び研究者からの利用が促進され、学習・研究環境が飛躍的に改善されることになる。
電算化の構想としては平成12年度7月、上野毛に図書館システムを設置して仮稼動させ、10月には本稼動とする予定である。本稼動の時点では上野毛キャンパスの全蔵書が検索できるようデータ化を完了させる計画である。その後、13年度から14年度の2年間で八王子キャンパスの全蔵書のデータ化と両キャンパスの雑誌のデータ化を完了させる計画である。平成15年度からは本学の全蔵書が電算化された状態となる。
この図書館の電算化により職員の業務内容も大きく変革するものと思われる。
貸出検索、蔵書管理などがシステム化され、図書・雑誌を問わず管理が合理化され、利用者へのサービス向上を図っていくことができる。今まで以上に図書館員は利用者のニーズに立ったレファレンスや選書業務に専念し、積極的に新しい情報を受信し、配信していかねばならない。
今回の電算化により目録データの整備が完了されるが、併せて本学が所蔵する貴重な資料の公開に向けた作業も計画していかねばならない。上野毛図書館は故瀧口修造氏(1903―1979)の旧蔵書を中核とした瀧口文庫並びに、故北園克衛氏(1902―1978)の関係資料からなる北園文庫を所蔵している。既にHPでの公開が進んできているが、今後さらに学術資料として学内外に向けて情報発信していく必要がある。第二ステップとして資料のデジタル化により電子図書館システムとしての機能も発揮させていかなければならない。
情報の渦の中で、従来型の保存図書館としてだけでは活きていけない。今回の電算化を機会に図書館職員が一丸となって情報発信型図書館の構築に力を注いでいく計画である。
図書館業務
附属図書館は、美術系単科大学の図書館として日々学生および教職員の教育と研究を円滑に進めるための情報センター的な役割を担っている。それと共に、美術という分野に内包されるあらゆる領域の資料を保存し、提供することを目標としている。
また、図書館は単に本の貸出のためだけにあるのではなく、必要な情報を得るための機関でもあり、そのための相談(レファレンス・サービス)も図書館の重要な機能です。常に新たな知識と情報を収集し、利用者へ提供する事を心がけている。
現在、図書館をとりまく環境は急激に変化している。一般的に図書館においては基本的文献資料としての図書・雑誌の充実ということが第一に必要とされているが、しかし一方では「書籍」という形態以外の資料も近年は数多く発行され、それに含まれる情報量も多大なものになっており、これに対応するには現在計画中のメディアセンターの設備を併用することにより、多機能な情報提供が可能となるよう期待している。
本学には、資料の多くを所蔵する八王子図書館(八王子キャンパス内)と、上野毛図書館(上野毛キャンパス内)がある。各館相互に専門分野である美術を中心に歴史的資料はもちろん、最新の図書・資料を収集・保存して利用者に提供するべく努力している。
八王子図書館の蔵書数は、和書約6万7千冊、洋書約3万3千冊、合計約10万冊、雑誌約1200種類。
授業で必要となる基本資料から、専門的な研究資料までを含めた幅広い蔵書構成をとっている。とくに、美術関連の雑誌と外国の展覧会カタログ、作品目録(カタログ・レゾネ)の収集に力を入れており、その他の資料とともに学外研究者の利用も多く、質的に高い蔵書構成をめざしている。
上野毛図書館の蔵書数は、和洋書約4万冊 。故瀧口修造氏(1903―1979)の旧蔵書を中核とした瀧口文庫並びに、故北園克衛氏(1902―1978)の関係資料からなる北園文庫を所蔵している。前者はダダ・シュルレアリスム関連の図書、ポスター、美術品など一万点からなり、後者は小規模ながら北園氏の個人詩集全冊と北園氏主催の雑誌『VOU』全冊、自筆原稿、自筆句帖を含む貴重なコレクションである。
両者ともに戦前から活躍した詩人・美術評論家であると同時に造形作家としても著名であり、近現代芸術研究にとって貴重な資料である。
現在、瀧口・北園文庫のデータベースの一部をインターネット上に公開し、試験運用中であり、データベースの内容は、(1)
瀧口・北園文庫の由来とその概要、(2) 瀧口修造・北園克衛年譜、(3)
瀧口文庫目録(ダダ・シュルレアリスム専門図書・美術カタログ)、北園文庫目録、(4)
瀧口・北園文庫資料の紹介と研究などである。
(図書館事務部長 邑楽弘)