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2011年12月21日
「大学の明日を考える会」NPO法人設立記念講演会レポート
4.講演「大学の教育現場からの改革 ―ブランド力向上のデザインマネジメント―」
岩倉 信弥 氏
多摩美術大学理事・教授 経営学博士 東京理科大MOT客員教授
本田技研工業株式会社・社友
・ ホンダで35年間、デザイナーから商品担当役員まで担当し、厳しい現場含め様々な経験をしてきた。ホンダの原点は、「買って喜び、売って喜び、作って喜ぶ」。つまり、商品を中心にお客さんも作り手も皆が喜ぶ、それができない商品は作ってはいけない、ということにあったのではないかと思う。私ども商品を作る人間は、商品はお母さんのおにぎりのようなものだと思っている。心をこめて、どういう口の大きさか、手の大きさか、ありとあらゆることを考えながら、お客さんの喜ぶ顔を思い浮かべながらおにぎりを握る。それが商品作りの極みだと思う。
・ 多摩美では、教育者としてのスタンスを定めることから始め、まずは「教育は教育なり」という言葉を考えた。教育――エデュケーションという言葉はそもそも、エデュース、引っ張り出すという意味を含んでいる。学生から若いエネルギーや才能を引っ張り出してあげる、見つけてあげる、それによって我々も勉強できる、という考え方である。それから二つ目は、「学生は商品である」というスタンス。この言葉は当時大変物議をかもした。未だに納得してもらえない先生も沢山おられ、不遜であるという意見も多数受けたが、先ほども述べたように、商品は心をこめて握るものである。大学教育とは、よりよい材料を仕入れて加工し、付加価値をつけて、お客さん、すなわち企業や社会に喜んでもらう商品として作り上げる。その様な学生を社会に送り出す、不良品を出さないように努める、ということだ。
・ 多摩美に迎えられて最初に行ったのは、朝の挨拶を学生に徹底させることだった。まずは、学科に明るく前向きな雰囲気を作り出そうと考えたのである。次に、教授室の壁を取り払ってワンルームに改造し、学生が入ってきたらどこにでも行けるように作り替えた。そうすると、ある先生のところへは学生が列をなして相談に行く、ある先生のところへはまったく行かない、というような違いがわかるようになった。その結果、先生同士の間に刺激が生まれ、どのようにしたら学生が来るようになるのか、などと意見交換するようになった。先生同士の横のつながりを生み出したという点において、この大部屋は大変効果的だったといえる。
・また、学科の理念として独立性と先進性に重きを置くことにし、世界に通用する自立したプロダクトデザイナーを作るという目的から、「5か年計画」というものを作成した。この計画の最終的な目標は、倍率を下げないで定員を倍にすること。そのためにどのようなカリキュラムにするべきか、幅広く先生を確保するにはどうしたらよいか、という議論を毎日行った。
・ 「5か年計画」の目標を達成するために、カリキュラムを徹底的に見直した。世界に通用するデザイナーを作るには、1~4年の中で、どのような科目をいつ教えるのがいいか、先生一人一人に働きかけ、枠を固めていった。しかし、カリキュラムの組成だけを一生懸命行っても、外へ向けて発信していかなければ意味がないので、ブランディングを強化させるべく、科のロゴマークの制作、プロの展示会であるグッドデザイン賞への出展、メディア露出(テレビ番組『ガイアの夜明け』の出演等)、パンフレットの制作、予備校への働きかけを行った。ブランドというのは、「しるし」のことである。家畜の牛の焼き印にそのルーツがあるように、「ここにいる」といった強い意志を表明するものだ。強い意志の発信は戦いを生み、標的となる。あえてそれを目指す、すぐわかるようにする、ということにこだわってブランディングを行った。パンフレットの制作に関しては、当初、予算がおりず、写真・レイアウト・翻訳は学生の手作りで行った。それが理事長の目にとまり、次年以降は予算がついてその動きが全学部に波及していった。そのような活動のおかげで、2001年に30人だった学科が、4年後には45人になり、5年後という目標には少し間に合わなかったが、その1年後に見事60名を達成することができた。
・これからの課題としては、国際交流の拡大、異文化の相互批評の活発化を掲げている。学生には、クリティカルな状況に身を置き、何を言われてもどんどん自分の意見を返して、異質なものとの出会いの中から、新たな自分を獲得してほしいと考えている。
https://www.facebook.com/events/859331850752835/
2014年10月7日 14:30 - 16:00 UTC+09
千代田区立日比谷図書文化館 〒100-0012 東京都 千代田区日比谷公園1-4
大学の競争力強化が求められる昨今、各大学におかれましても他大学との差別化戦略において、カリキュラムの充実やブランディングの確立など積極的に取り組まれておられることと存じます。本講座では本田技研工業にてデザイナーとして長期にわたって活動してきた岩倉信弥氏がホンダで経験した経営的手法を活かし母校多摩美術大学で倍率をキープしながら6年間で定員倍増を達成されたというご自身の実体験を元に大学のブランディング・差別化戦略についてお話を頂きます。ご多忙中とは存じますが、是非ともご参加賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
大学経営実務講座 第8回
『教育現場でのデザインマネジメント』
講師 岩倉 信弥
多摩美術大学理事・名誉教授(経営学博士)