→人形アニメ「死者の書」制作日誌 →「古事記展」2020 →高橋士郎講義ノート 万物に霊が宿ると信じられていた時代、 大陸からもたらされた仏教が、社会に浸透しはじめた。 平城の都の文化の爛熟する一方で、疫病や疫災が流行し、 天皇の病気平癒を祈願して東大寺の大仏が建立され、開眼供養の行われた。 富と権力を取り巻く権力者達の争いが繰り返されていた。 旧体制に所属する語部は、漢字の普及により失業した。 →「試写の書」」原文 | ||||||
第一章 死者が、闇の岩牀(いわどこ)の中で目覚める。 死の刹那ひと目だけ見たひと目惚れの女、耳面刀自についての深い凝結した記憶が甦る。 そして、ここは自分の墓であり、殺されたのだという記憶。
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第二章 郎女の魂があこがれ出ていると見た当麻語部の差配により、 当麻氏の家人達が白衣(びゃくえ)の修道者になって、当麻路で姫の魂呼いをする。 「こう こう。お出でなされ、藤原南家の郎女のみ魂」 その声が、二上山に葬られた滋賀津彦を呼び起こしてしまう。
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第三章 第四章 捕らわれた郎女は、その夜寺の荒れ果てた薄暗い庵室(あんしつ)に座っていた。 昼間から郎女を聞き手とみあてていた当麻語部の姥が、神懸かりし、郎女に物語る。 謀反の罪で刑死にあった滋賀津彦(しがつひこ/大津皇子)の耳面刀自(みみものとじ)への執着が、 時を超えて、耳面刀自の血筋である郎女に向けられている、 彼も物語りで伝わる天若(あめわか)みこのひとり。 | ||||||
第五章 死者は自分の名は滋賀津彦である事、妻は殉死(ともじに)し息子も殺されただろう事を思い出す。 世の中に跡を胎(のこ)してこなかった事を嘆き、耳面刀自に切望する。 「子を生んでくれ。おれの子を。」 郎女は、庵室での初めての夜明けを迎えようとしていた時、戸を揺する大きな物音を聞く | ||||||
第六章 郎女は、今は難波にいる父からの贈り物である「称賛浄土仏摂受経 (しょうさんじょうどぶっしょうじゅきょう)」の千部手写(しゅしゃ)を始め、一心不乱に写す。 春分の日の西空、入り日どきの二上山の峰の間に瞬間、荘厳な俤(おもかげ)を見る。. 半年後の秋分の日には、同じ空にありありと、俤びとの 髪 頭 肩 胸。 そして待ち焦がれた次の春分の日、ついに千部を書き上げた。 外を見ると雨。姿を見せぬ俤びとを求めて郎女はその夜、館を出奔する。 嵐の中を歩き続けた翌朝、そこに目を瞠(みは)る堂伽藍の当麻寺があった。 そして聳(そび)え立つ二上山。 振り返り目の下に遠く、一族が暮らした、藤原・飛鳥の里を眺め。 | ||||||
第七章 女人禁制の寺の浄域に入った郎女は、寺奴(てらやっこ)に見つかる。 | ||||||
第八章 第九章 大伴家持は、世の中がすっかり変わって来ている今も、 古い氏素性(うじすじょう)にとらわれている自分に苛つき、感傷と共に来し方行く末を考える。 横佩家の郎女が神隠しに遭ったという噂を聞きながら、 馬上の家持は、石城(しき)に代えた新しい垣、築土垣(つきひじがき)の続く道を進む。 気が付くと、石城に取り囲まれた郎女の家、横佩家の前に来ていた。
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第十章 藤原南家(なんけ)横佩家(よこはきけ)の姫、 郎女は、古いしきたりで残された石城(しき/石垣)に取り囲まれた館で、 外からの人や、目に見えぬ鬼神(もの)の侵入から守られて暮らしてきた。 天稟(てんぴん)に恵まれた郎女は、曾祖母の法華経と大叔母御の楽毅論(がっきろん)、 この女手の二巻を一心に習いとおした。 そして父の書き綴った仏法伝来記には涙し、仏に感謝し、この縁起文を手写した。 | ||||||
第十一章 庵室での初めての夜を過ごした翌日、郎女は庭で鳴く鶯の声を聞きながら、 せめて蝶飛虫(ちょうとり)にでもなって、あの山の頂へ、俤びとをつきとめに行きたいと思う。 | ||||||
第十二章) 寺へ迎えに来た南家の家人に、郎女は、自分が得心するまで寺で身の贖(あがな)いをすると言う。 | ||||||
第十三章 つた つた つた 真夜中、安らかに身を横たえる郎女をおとなう気配。 夢かうつつか「のうのう 阿弥陀仏」口に出すと、天井の光の輪に、かの日に見た俤びとの姿。 | ||||||
第十四章 家持は恵美押勝の円かな相好と威(い)に圧せられながら、漢文学などについて会話する。 幼い時から学ぶことを好み、斎姫(いつきひめ)も、人の妻も拒んだ郎女が、当麻寺に留まっているのは、 尼になる気だからではと噂する。 | ||||||
第十五章 郎女は毎夜、あの音の歩み寄ってくる畏(おそろ)しい夜更けを待つようになった。 躑躅(つつじ)の頃のある夜、天井に写る光の輪の中に、 あの日見た金色の髪の荘厳な顔が郎女を見下ろしている。冷え冷えとした白い肌 . 「おいとおしい。お寒かろう」 | ||||||
第十六 女たちは蓮の茎を収穫し、藕糸(はすいと)を績(う)むが、糸は切れやすい。 郎女の「夏引きの麻生(おふ)の麻を績むように、細やかに」の言葉に、乳母も加わって績み、 藕糸のまるがせが、廬堂に高く積まれていった。 | ||||||
第十七章 彼岸中日 秋分の夕。大山颪(おろし)。 乳母たちと身を寄せ合っていたはずの郎女は、ひとり寺の門に立ち、入り日に向かっていた。 男嶽(おのかみ)と女嶽(めのかみ)の間に現れたそのお顔がはじめて、まともに郎女に向けられた。 「なも阿弥陀仏 あなとうと阿弥陀仏」 | ||||||
第十八章 夜更けても、一心に藕糸で機(はた)を織る郎女。 早く織りあげてあの素肌のお身を掩(おお)うてあげたい。しかし糸はすぐに切れてしまう。 まどろむ夢の中現れた、尼姿の当麻語部の手助けで織り進める。 目覚めた郎女の機から美しい織物。 | ||||||
第十九章 郎女は布を裁ち、縫う。だが、形にならない。 昼の夢の中、再び当麻語部の姥の導きで、大きな衣が出来上がる。 「でも これではあまりに寒々としている。」 | ||||||
第二十章 語部の物語に信をうちこんで聴くものはない世の中が来ていた。 当麻語部の姥は、郎女の耳に近い処を、ところをともとめて、さまよい歩くようになった。 一方、郎女は縫い上げた衣に、命を絞るまでの念力で、先の日見た夕べの幻の美しい絵を描き終えた。 するとそれは、見る見る数千地涌の菩薩の浮き出た曼陀羅となった。 |