堀浩哉
新学科構想を拝見し、21世紀を見据えた グランド・デザイン だと、感服しました。英文メニューでしか開かないというのは、ちょっと?ですが、まあ、ゲリラ的開示なのでしょう。
さて、このグランド・デザインをさっそく内外の友人たちにもメールで知らせて、反応を聞いてみたのですが、「多摩美もようやく国際基準になる」と、おおむね好評でした。私自身も基本的には大賛成です。
が、一抹の不安はあります。 というのも、東京芸術大学・先端表現科の苦戦ぶりを知っているからです。同科に私の友人が何人かいるので、表向きの威勢のよさとは別の苦悩を聞いています。さまざまな問題がありますが、大きくは二つの問題があります。
一つは、教師の質の問題です。それぞれの専門分野での技術的レベルは高くても、アート全体が分かっていないため、指導がアートとしての質ではなく、技術としての質に片寄る教師が多いこと。
もう一つは、「たこつぼ化」の問題。学生は、もともとは「絵が好き」で、同時に「新しい表現に興味がある」という若者たち。しかし、先端科では、教師がそれぞれの専門に特化しすぎているため、学生はいったんコースを選ぶと、様々な「新しい表現」の可能性に、むしろトライしにくくなってしまう。
さらに、もともと「絵が好き」な学生が、いろいろなメディアをめぐった上で、やはり絵画に戻りたいと思ったときに、それを指導できる教師もいなければ、場所もなく、道が閉ざされてしまっていること。
一方、先端科ができたことによって、新しいメディアを指向する学生がそちらに集まり、油画科や、デザイン科が保守化してしまってきている、という問題もおこっています。
新学科構想も、縦割りの学科だけで考えていけば、それがどんなに素晴らしい構想であっても、同じような「たこつぼ化」の危険があるのではないか、と思われます。
私たち、本学油画科では、昨年度から内部を大きく3つのコースに分けて、アトリエ1は主に「描写絵画」、アトリエ2は「抽象絵画」、そしてアトリエ3は「同時代美術」のコースとしました。
アトリエ3は、モダンからポストモダンまでをカバーする陣容でやってきました。不幸にして若林さんが亡くなられて、来年度からは、専任が堀、小泉、辰野、客員が新任の安斎重男、非常勤が前本、太郎という陣容になり、さらに他科から、6名が特講などで協力してもらう形が整いつつあります。そして、来年度のシラバスには、アトリエ3の教育目標として次のようなものをかかげる準備をしていました。
「絵画から出発しながら、すべての「芸術」に向かって開かれている。 立体、インスタレーション、パフォーマンス、そして映像、写真、サウンドなどのメディアアート、プロジェクト系、アニメ、コミック、 ファッション、文章表現、まだ名付けえぬものなど、何でもあり。その上で、もちろんまた絵画にもどることもできる。 他科からの聴講、転科も可」
こうした準備の矢先に、新学科構想を目にしたわけです。
新学科の構想は、私たちアトリエ3の目標とも大いに重なっているところがあると思います。したがって、この双方の学科、コースが互いに「たこつぼ化」しないためにも、縦割りだけではない、横の連係を当初から折り込みながら構想を進める必要があるのではないか、と考えるしだいです。