聞きなれない名前のピアノ “ホフマン”. W.HOFFMANNの生産は1893年にベルリンで始まり,そのブランド名は1904年に Wilhelmine Sophia Hoffmann により登録され,欧州ではよく知られたピアノブランドとなりましたが,戦後に敗戦国ドイツのピアノ産業は衰退.1990年にベヒシュタインがそのブランド名を買い取りました.
現在の W.HOFFMANN ホフマン ワールドシリーズは,ベヒシュタイン が隣国チェコのピアノメーカー ペトロフに生産を委託するアップライトとグランドピアノです.高い価格性能比と"Europian Sound"を持つピアノとして97年に登場し,欧州と日本製の低価格ピアノの対抗馬と位置づけられています.ベヒシュタインのビジネスリポートによれば1998年に1,000台,1999年には1,400台以上が販売され,2,000年にはさらに販売台数を増やしました.製造を担当するペトロフは,共産体制の崩壊以降,家族企業として復活を遂げ,従業員2000人の欧州最大の生産台数を誇るピアノメーカーとなっています.
ベヒシュタインの要求仕様にしたがい,一部ベヒシュタインが製造する部品やベヒシュタインが選別して支給する部品を使って,ペトロフはホフマン ワールドシリーズを製造し,ベヒシュタインの工場で出荷調整が行われます.日本ではベヒシュタインの総代理店であるユーロピアノで調整が行われて,ベヒシュタインによる 5 年保証とともに納入されます.外観上はペトロフの同サイズの製品P-IVと似ていますが,部品やフレームのデザインも異なり,重量もずいぶん違う全く別のピアノにです.ペトロフのOEM品というのは間違いです.何よりも音作りと品質管理がベヒシュタインにより行われていることが特徴でしょう.ベヒシュタインの伝統に従い,納入日と最初の受取人が同本社の出荷記録に記載されます.
その音質についてはベヒシュタインのカタログに次のように書かれています.
"Here you have the especially manufactured piano, enriched by Bechstein’s expertise, compared to somewhat uniform sound profiles. Bechstein knows the value of the keynote-based, harmonic, non-metallic sound bouquet of the W. Hoffmann World brand name."
実際にその通り,金属的ではない,心地よい音がします.表現力も備えています.バスワイヤーがベヒシュタイン製であったり,ペトロフではオプションとなる 独Renner製のアクションとハンマーが標準採用されていたり,ブリッジが無垢の木であったり,フレームのデザインがW.HOFFMANN独自のものであるなど,ベヒシュタインの音作りが盛り込まれています.
そんなW.Hoffmannのグランドピアノですが,ベヒシュタインは2005年に販売をやめてしまいました.チェコもEUに加わり,経済成長も著しく,コスト的なメリットがなくなってしまったのでしょうか.何年経っても飽きの来ないこのピアノ,無くなってしまってはとても残念.