ムカルナス:回教建築の鍾乳石状装飾 English 高橋士郎
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■正方形格子の様式
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正方形と45度菱形で天井伏図を埋め尽くす正方形格子の様式は、ペルシャの煉瓦ドーム建築におけるスクインチアーチ部分の積構造から発生し、イスラム世界の拡大とともに イスラム全域に普及し、その発展の歴史は約1000年間にわたる。 正方形格子様式が、木材を産するマグレブ地方に普及すると、複数の木製の要素部品を多数組み合わせる方法により、構造から独立して微細化・複雑化し、14世紀にグラナダのアルブラハン宮殿で爛熟期をむかえることとなる。 現存する正方形様式のムカルナスは、各地域で産出する素材を使用して、様々な施行方法で仕上げられている。イランでは煉瓦、トルコでは石材、イベリア半島・シシリー島・北アフリカでは木材ブロックが使用される。ただし、インドと東南アジアにはムカルナス自体がは普及していない。
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正方形格子様式は、現代の複雑システム科学の準結晶で問題とされる非周期性の平面充填の一種である. 1974年にペンローズが発見したと云われている五回対称性のある準周期性の平面充填は、13世紀の建築といわれるアクサライ近郊のアグジカラハンの入口ムカルナスで既に使用されている。Diamond tiling |
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■極座標の様式 図版:イスファハンのシャーモスク入口
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建築構造の内部に取り付けられるユニットパネル状の極座標様式は、モンゴルの侵入 1211- と破壊の後、15世紀のチムール朝 1370-1507 に現れ、近東と中東に広く分布する。モンゴル侵入の戦乱や、煉瓦建築の風化で破壊した多数の正方形様式に取って代わる、新しい装飾様式として発展したものと思われる。 極座標様式は、17世紀のサファビ朝時代にイスファハンのシャーモスクで端正な完成期をむかえる。サファビ朝以降は、イスラム社会の近代化に伴って、伝統的なムカルナス文化は荒廃する一方で、恍惚的な装飾空間を過剰に追求したり、まるでヴェルサイユ宮殿の鏡の間を思わせるゆな、鏡を多用する装飾も盛んになる。 極座標様式の頂点は4分割・5分割・6分割に加えて、少数ではあるが7分割・9分割・11分割が存在する。また極座標の幾何学的な埋め尽くしパズルを完結させるために、極座標の随所には星形の平面が巧みに挿入されるが、挿入される星形も4星形・5星形・6星形・8星形のみならず、7星形・9星形などが駆使され、神秘的な展開へと向かう。 使用されるユニットパネルの素材は、漆喰彫刻・石膏板・陶片モザイクパネル・成形陶板・鏡モザイクなどである。 |
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■独創的な様式
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良質な石材を産出さするトルコ・シリア・エジプトでは、造形上の制限が少ない石材を使用することから、様々な独創的ムカルナスが考案され発展した。独創的なムカルナスの様式は、石材の産地に限定して分布し、設計者の創作性が顕著である。 シリアやカイロの石造建築には、対称性原理にとらわれない独特のムカルナスが多数存在し、幾何学的な推測による図面化が困難であるので、著者が現在までに完成した天井伏図は少数である。上部にドーム形を載せるのがこの地域の特徴でもある。 正方形と同様に、三角形も平面を対称的に埋め尽くすことが可能であることから、三角形格子の様式が現れるが、三角形を方形プランに収めるためには、一部に不合理が生じてしまい、調整を必要とする。 16世紀オスマン朝トルコ時代の大建築家シナンは、難解な対称性をもつ五星形を巧みに扱い、独自のムカルナス様式を創作した。
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