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日本国憲法解説(憲法普及会推薦)

「われらの日本」新憲法施行記念国民歌 []
「憲法音頭」サトウハチロー作詞中山晋平作曲
「新憲法いろはかるた」
「新憲法の成立」短編映画(北れい吉の国会審議を含む)

 北れい吉(多摩帝国美術学校の設立者)の国会質疑 ー憲法改正ー   → 綱紀粛正1953

 

国会会議録

昭和二十一年六月二十五日(火曜日)午後一時四十三分開議
 議事日程 第四号 昭和二十一年六月二十五日 午後一時開議
 第一 帝国憲法改正案

日本国憲法
提案理由の演説

内閣総理大臣
吉田茂

日本自由党
東京帝国大学政治科卒
外務省入省
東久邇宮内閣外務大臣

 〔国務大臣吉田茂君登壇〕
○国務大臣(吉田茂君)
 只今議題トナリマシタ帝国憲法改正案ニ付キマシテ御説明ヲ申シマス
 御承知ノ如ク昨年我ガ国ガ受諾致シマシタ「ポツダム」宣言及ビ之ニ関連シ連合国ヨリ発セラレタル文書ニハ「日本國國民ノ間ニ於ケル民主主義的傾向ノ復活強化ニ對スル、一切ノ障礙ヲ除去シ、言論、宗教及ビ思想ノ自由竝ニ基本的人權ノ尊重ヲ確立スベキコト」並ニ「日本國ノ政治ノ最終ノ形態ハ、日本國國民ノ自由ニ表明スル意思ニ依リ決定サルルベキコト」ノ条項ガアルノデアリマス、此ノ方針ハ正ニ平和新日本ノ向フベキ大道ヲ明カニシタモノデアリマス、是ガ為ニハ何ト致シマシテモ国家ノ基本法タル憲法ノ改正ガ要諦ト考ヘルノデアリマス、仍テ政府ハ前内閣及ビ現内閣ニ亙リ、鋭意是ガ調査立案ノ歩ヲ進メテ参ツタノデアリマスガ、ココニ成案ヲ得ルニ至リマシタノデ、之ヲ今回ノ帝国議会ニ付議セラレンコトヲ奏請致シマシテ、今日本院ノ御審議ニ付セラレルコトニ相成ツタノデアリマス
 本改正案ノ基調トスル所ハ、国民ノ総意ガ至高ノモノデアルトノ原理ニ依ツテ諸般ノ国家機構ヲ定メ、基本的人権ヲ尊重シテ国民ノ自由ノ福祉ヲ永久ニ保障シ、以テ民主主義政治ノ基礎ヲ確立スルト共ニ、全世界ニ率先シテ戦争ヲ抛棄シ、自由ト平和ヲ希求スル世界人類ノ理想ヲ国家ノ憲法条章ニ顕現スルニアルノデアリマシテ、此ノ精神ハ本改正案中ノ全文ニ詳細ニ示サレテ居ル所デアリマス、以下改正案中重要ナル諸点ニ付テ申述ベタイト思ヒマス
 第一、天皇ノ御地位ニ付テデアリマスガ、之ニ付キマシテハ、第一条ニ於テ、天皇ハ日本国ノ象徴デアリ、日本国民統合ノ象徴デアツテ、其ノ御地位ハ日本国民ノ至高ノ総意ニ基クモノト規定シテ居リマス、是ハ、天皇ガ日本国家ヲ表現シ、且ツ日本国民統合ノ姿ヲ体現セラルルノ地位ニ立タセラルベキコトヲ定ムルト共ニ、此ノ天皇ノ御地位ハ日本国民ノ至高ノ総意ニ基クモノデアルコトヲ規定シタモノデアリマス、之ニ依リ皇位ヲ繞ツテ過去ノ神秘性ト非現実性ガ完全ニ払拭セラレ、其ノ基ク所ハ現実ナル国民ノ総意デアルコトガ如実ニ示サレタモノデアリマス、併シナガラ、現行憲法ニ於ケル如ク広汎ナル大権事項ヲ規定スルニ於テハ、却テ政府其ノ他ノ権力者ガ時ニ誤ツタ理念ニ侵サレテ、天皇ノ御名ニ隠レ、民意ヲ歪曲シ、国政ヲ専断シ、動モスレバ無暴ナル政策ヲ施行セントシテ、遂ニ国家国民ヲ破滅ニ導キ、累ノ及ブ所予断ヲ許サザル事態ニ立至ル虞アルコトヲ免レマセヌ、改正案ニ於キマシテハ、天皇ハ内閣ノ助言ト承認ニ依リ一定ノ国務ノミヲ行ハセラルルコトト致シテ居ルノデアリマシテ、此ノ形態ハ正ニ民主主義国政ノ常道ヲ踏ムモノデアルト存ズルノデアリマス
 次ニ、改正案ハ特ニ一章ヲ設ケ、戦争抛棄ヲ規定致シテ居リマス、即チ国ノ主権ノ発動タル戦争ト武力ニ依ル威嚇又ハ武力ノ行使ハ、他国トノ間ノ紛争解決ノ手段トシテハ永久ニ之ヲ抛棄スルモノトシ、進ンデ陸海空軍其ノ他ノ戦力ノ保持及ビ国ノ交戦権ヲモ之ヲ認メザルコトニ致シテ居ルノデアリマス、是ハ改正案ニ於ケル大ナル眼目ヲナスモノデアリマス、斯カル思ヒ切ツタ条項ハ、凡ソ従来ノ各国憲法中稀ニ類例ヲ見ルモノデゴザイマス、斯クシテ日本国ハ永久ノ平和ヲ念願シテ、其ノ将来ノ安全ト生存ヲ挙ゲテ平和ヲ愛スル世界諸国民ノ公正ト信義ニ委ネントスルモノデアリマス、此ノ高キ理想ヲ以テ、平和愛好国ノ先頭ニ立チ、正義ノ大道ヲ踏ミ進ンデ行カウト云フ固キ決意ヲ此ノ国ノ根本法ニ明示セントスルモノデアリマス
 次ニ国民ノ権利義務ニ付キマシテハ、国民ハ総テノ基本的人権ノ享有ヲ妨ゲラレナイコトノ大原則ヲ規定シ、又此ノ憲法ノ保障スル基本的人権ハ侵スコトノ出来ナイ永久ノ権利トシテ、現在及ビ将来ノ国民ニ与ヘラレルモノデアルコトヲ明示シテ居リマス、更ニ具体的事項ニ付テ、権利、自由ノ保障及ビ民主主義ノ発展向上ノ為メ必要ナル規定ヲ設ケテ居ルノデアリマス
 政治ノ機構ニ関シマシテハ、三権分立ノ趣意ニ則リ、国会、内閣及ビ裁判所ヲ設ケ、国会ヲ以テ国権ノ最高機関トスルト共ニ、国ノ唯一ノ立法機関タルモノト定メテ居リマス、其ノ構成ニ付キマシテハ、衆議院ト参議院トヲ以テスル両院制度ヲ採リ、国事審議ノ慎重ヲ期スルコトト致シマシタ、但シ衆議院ニ対シマシテハ参議院ニ比シ種々ノ点ニ於テ優越ノ地位ヲ認メテ居リマス、又行政権ハ内閣ニ属スルモノトシ、内閣ハ行政権ノ行使ニ付テ国会ニ対シ連帯シテ其ノ責ニ任ズルコトト致シマスルト共ニ、国務大臣ノ任命ニ付テハ国会ノ指名又ハ承認ヲ必要トスルコトト致シテアリマス、衆議院ニ於テ不信任ノ決議ヲ致シタ場合ニハ、衆議院ノ解散ナキ限リ総辞職ヲナスベキコト等ノ条項ヲ設ケマシテ、所謂議院内閣主義ノ原則ヲ採ツテ居ルノデアリマス
 司法権ニ付テハ、総テ司法権ハ最高裁判所及ビ法律ノ定ムル所ニ依リ設置スル下級裁判所ニ属スルモノトシ、行政裁判ハ之ヲ司法権ノ作用ニ包括セシムルコトト致シマシタ、特別裁判所ノ設置ハ之ヲ認メテ居リマセヌ、又最高裁判所ヲシテ憲法裁判所的機能ヲ併有セシメ、一切ノ法令又ハ処分ノ憲法ニ適スルヤ否ヤノ裁判ヲナシ得ルモノト致シテ居リマス
 以上ノ外、財政ニ関シテ、国ノ財政ヲ処理スル権限ハ国会ノ議決ニ基イテ之ヲ行使スベキ旨ノ原則ヲ掲ゲ、之ニ則ツテ所要ノ規定ヲ設ケマスルト共ニ、皇室財産及ビ皇室経費ニ関スル制度ヲ根本的ニ改メマシタ、又地方自治ノ重要性ニ着眼シテ、新タニ之ニ関スル規定ヲ設ケ、憲法改正ノ手続ニ付テハ、将来ハ国会ガ之ヲ発議シ、国民ニ提案シテ其ノ承認ヲ経ルコトヲ要スルコトトナツテ居リマス、特ニ最高法規ニ関スル一章ヲ設ケテ、此ノ憲法及ビ之ニ基イテ制定サレタ法律及ビ条約ノ最高性ヲ明カニシ、最後ニ補則トシテ、此ノ憲法ハ公布ノ日ヨリ起算シテ六箇月ヲ経過シタ日カラ之ヲ施行スル旨ヲ定メ、其ノ他若干ノ経過的規定ヲ設ケテ居リマス
 尚ホ本改正案ハ、以上申述ベタ実体ニ照シ、其ノ形式ニ於キマシテモ、所謂法ノ民主化ヲ図リ、成ベク一般国民ノ理解ニ容易ナラシムルヤウ口語体ヲ以テ表現シ、平仮名ヲ採用スル等ノ措置ヲ執ツタノデアリマス、是ハ法令ノ形式トシテハ正ニ画期的ノ事柄デアルト存ジマス
 以上ヲ以チマシテ本案ノ大要ノ説明ヲ終リマス、何卒宜シク御審議アラレンコトヲ希望致シマス(拍手)

樋貝詮三

中央大学夜間法科
京都帝国大学法科卒
日本自由党

○議長(樋貝詮三君)
 質疑ノ通告ガアリマス、順次之ヲ許シマス――北れい吉君

質疑

北れい吉

自由党鳩山派
早稲田大学哲学卒
大東文化大学教授
帝国美術学校設立者
立憲民政党
北一輝の実弟

  〔北れい吉君登壇〕

○北れい吉君
 先般憲法改正法案ガ本議会ニ提出サレ、更ニ本日総理大臣カラ改正草案提出ノ理由ヲ説明ニ相成リマシタガ、私ハ此ノ改正草案ニ付テ幾多ノ質スベキモノヲ持ツテ居ルノデアリマス、先ヅ質問ノ趣意ヲ徹底サセルガ為ニ、総論ト各論ニ分ケマシテ、
総論ニ於キマシテハ、現行憲法改正ノ根拠ヲ質シ、
次ニ憲法改正ト「ポツダム」宣言トノ関係ニ付テ質シ、
第三ニ君主制是認ノ根拠ヲ質シ、
第四ニハ憲法改正草案ト我ガ国ノ国体トノ関係ニ付テ詳シク御尋ネシタイト思ヒマス、
ソレカラ各論ニ入リマシテ、
第一章ノ天皇ノ権能ニ関スル質疑ヲ致シマス、
次ニハ第二章ノ戦争抛棄ノ規定ニ付テ御尋ネ致シマス、
次イデ第三章ノ国民ノ権利義務ニ関スル諸規定ニ付テ質問ヲ致シマス、
次イデ第四章ノ国会ノ色々ノ規定ニ付テ不審ヲ質シタイト思ヒマス、
次ニ内閣ノ章ニ付テ多々尋ヌベキコトガアリマス、
次ニ第六章ノ司法ニ付テ、殊ニ司法ノ民主化ニ付テ御尋ネ致シタイト思ヒマス、
第七章ノ財政、
第八章ノ地方自治制、
第九章ノ改正、
第十章ノ最高法規ニ付テハ此処ニハ簡単ニ御尋ネ致シマシテ、
詳細ハ憲法委員会ニ御譲リ致シタイト思ヒマス

憲法改正の根拠

 先ヅ現行憲法改正ノ根拠ニ付テ御尋ネ致シマスガ、私ノ見ル所デハ、改正憲法ノ特色ガ二ツアル、先ヅ国内ニ於テ民主化ヲ徹底スルコト、更ニ国内国外ニ瓦リテ平和主義ヲ徹底サセルコト、是ハ本月二十日議会ヘ提出サレマシタ憲法改正ノ草案ニ関連致シマシテ、勅書ヲ賜ハリマシタガ、其ノ勅書ノ中ニ明瞭ニ御示シニナツテ居リマス、

又此ノ点ハ此ノ草案ガ発表サレマシタ際ニ、「マッカーサー」元帥ノ声明ニ依ツテモ明瞭デアリマス、即チ元帥ハ三権分立ノ思想ニ依ツテ独裁政治ヲ防止シ、国民主権ヲ徹底スルコトト、主権固有ノ権力タル所ノ交戦権ヲ抛棄シ、平和愛好国民ノ真実ト正義トニ依頼スルコトヲ以テ二大特色ト指摘致シテ居リマス、又「マッカーサー」元帥ハ、日本国民ガ過去ノ神秘主義ト非現実性トカラ脱却スルコトヲ要求シ、新シキ信念ト希望トヲ持ツタ現実主義ノ方向ニ向フベキコトヲ要望致シテ居リマス、是等ニ依ツテ憲法改正草案ノ特色ハ十分ニ示サレテ居リマスルガ、

今更憲法改正ノ必要ナシト認メル学者ナキニシモアラズデアリマス、例ヘバ是マデ比較的進歩的ノ憲法学者ト認メラレテ居リマシタ美濃部達吉博士ノ如キハ、現行憲法ノ規定ハ必ズシモ悪クハナイ、唯一部ノ人々ガ之ヲ悪用シタ、即チ憲法ノ運用宜シキヲ得ナカツタガ為ニ、今日ノ日本ノ悲惨ナル状態ヲ招来シタト看做シテ居リマス、

実際天皇ト一般国民トノ間ニ介在シテ居ル所謂特権階級、所謂封建的残滓ガ今日ヲ禍ヒシタコトハ、今ヤ国民ノ常識トナツテ居ルノミナラズ、是ハ連合国側ニモ十分ニ認メラレテ居ル所デアリマス、

ソレノミナラズ現行憲法ニ於テモ、既ニ戦敗ノ結果軍備ガナクナリ、丸裸ニナツタ状態ニ於キマシテハ、憲法第十一条ノ統帥権ノ独立ノ条項モ意義ヲナサズ、第十二条ノ用兵作戦ノ条項モ意義ヲナサナイノデ、軍部ガ現在ノ憲法ニ於キマシテモ政治ニ干渉スル余地ハ殆ドナクナツテ居リマス、

即チ天皇ト国民トノ直結ガ可能ニナツテ、運用宜シキヲ得バ民主主義ノ傾向ニ我々ハ進展スルコトガ出来ル、

現ニ「キーナン」首席検事ノ国際裁判所ニ於ケル論告ニ徴シマシテモ、A級犯人ヲ真ノ日本ノ支配者デアルト指サシ、天皇ト一般国民トハ戦争ノ犠牲者デアルト称シテ居リマス、

即チ現行憲法ノ場合ニ於テモ、運用宜シキヲ得バ必ズシモ非民主的デナイト云フ議論ガアリマス、然ルニ政府ガ敢テココニ断乎トシテ憲法改正ヲ決意シタコトハ、更ニ何等カ重大ナル根拠ガナクテハナラヌノデアリマスルガ、唯民主主義ヲ徹底スル為メ、平和主義ヲ徹底スル為メデアルト一応ノ説明ダケデハ、マダ全国民ガ納得スル程度デナイト思ヒマスルノデ、総理大臣ノ之ニ関スル詳細ノ説明ヲ承リタイト存ジマス

「ポツダム」宣言との関係

 第二点、憲法改正ト「ポツダム」宣言トノ関係デアリマス、是ハ大体ノ関係ハ我々ニモ明瞭デアリマスルガ、詳細ノ関係ハ何トナク不明瞭デアリマス、此ノ点ヲ詳細ニ御示シニナラナカツタナラバ、我等ガ此ノ草案ヲ審議スルニ当リマシテ、国際関係ヲ顧慮スル必要上可ナリノ困難ニ逢着スルノデアリマス、

殊ニ幣原内閣当時松本国務相ノ試案憲法改正案ガ発表サレマシテ、色々論議ヲ醸シマシタ、之ニ応ジマシテ在野ノ各団体、各政党カラ色々ノ憲法草案ガ発表サレマシタガ、是等ハ大体ニ於テ松本国務相ノ試案ヨリ進歩的デアツタト考ヘラレマス、

然ルニ其ノ後突如トシテ今度ノ憲法改正草案ガ発表サレマシタ、此ノ改正草案ナルモノハ、共産党其ノ他ノ一、二ノ団体ノ試案ヨリハ、所謂保守的、非民主的ト言ハレルカモ知レマセヌガ、従来現ハレタ諸政党、諸団体ノ憲法改正案ヨリモ遥カニ急進的ノモノデアルコトハ、此ノ草案ヲ一見スレバ何人モ疑フ余地ハナイノデアリマス(拍手)社会党ガ此ノ草案発表ニ先ダツテ発表シタ草案デモ是ヨリハ稍々保守的デアルト看做サナケレバナラヌノデアリマス、

ソコデ斯クノ如ク民間ノ諸政党、諸団体ヨリモ一歩進ンダ草案ガ、我々ノ期待セザル間ニ突如トシテ発表サレテ、今日此処ニ議題トナツテ居ルカラニハ、恐ラクハ政府単独ノ意思デハナク、色々ノ国際関係カラ来タモノト考ヘラレマスノデ、其ノ経過ヲ出来得ル限リ詳細ニ御報告願ヒタイト思ヒマス、サウスレバ我々ハ審議ニ当リマシテモ、自由ニ表明セラレタル国民代表ノ意思ヲ十分ニ用ヒルコトガ出来ルノデアリマス、

「マッカーサー」元帥ハ此ノ憲法草案ノ審議ニ当リマシテ、此ノ憲法ハ新憲法デナク、現行憲法ノ改正デアルト云フコトヲ言ハレ、更ニ此ノ憲法ニ付テハ十分ニ審議ヲセヨ、更ニ又訂正スベキモノハ、国民ノ自由意思デドシドシ訂正セヨト言ハレテ居リマスルガ、

此ノ三ツノ条項ヲ其ノ侭ニ取リマスレバ、修正ノ自由ガ大幅ニ認メラレタヤウデアリマスルケレドモ、先達テカラノ吉田総理大臣ノ御言葉ニ依レバ、国際関係、日本ノ現在置カレタル状況ヲ念頭ニ置イテ審議シテ貰ヒタイト云フコトト、ドウ云フ関係ガアルカ、此ノ点ニ付テモ御示シヲ願ヒタイト思ヒマス

日本国家民主化

 第三ニ日本国家民主化ノ問題デアリマスルガ、一口ニ民主化々々々ト称シマシテモ、「デモクラシー」ニハ色々ノ型ガアリマス、

御承知ノ如ク代表的ノモノトシテハ、英国型、米国型、「ソ」連型ガアリマス、此ノ草案ヲ熟読致シマスルト、英国型ト米国型ノ折衷ノヤウニ見受ケラレマス、

殊ニ非常ニ人格ノ基本的権利ヲ尊重シテ居ル所ハ、十八世紀ニ流行シタ自由民権説ノ復興ノヤウナ感ガアリマス、「フランス」革命当時ノ人権宣言ノヤウナ思想ガ多分ニ盛ラレテ居リマス、是ハ勿論封建的ノ遺習ヲ今尚ホ脱却シ得ザル日本ノ現状トシテハ、或ル意味ニ於テハ当然デアリマス、私ハ必ズシモ之ヲ咎メルモノデハアリマセヌ、

日本ハ古来他国ノ長ヲ採ツテ、我ガ国ノ短ヲ補フト云フ建前デ今日マデ進ミ来ツタノデアリマス、現行憲法ニ於キマシテモ、「カイザー」時代ノ、即チ帝政「ドイツ」ノ旧憲法ニ影響サレルコトガ非常ニ多カツタノデアリマスルカラ、今度ノ憲法草案ニ於テ英米ノ両方ノ型ガ相当強ク影響シ、殊ニ「フランス」ノ十八世紀当時ノ思想マデ盛ラレテ居ツテモ、私ハ必ズシモ之ヲ咎メルモノデハアリマセヌ、

日本ハ採長補短ヲ方針トシテ来タカラ、他国ノ長所ヲ採ツテ之ヲ折衷スルコトニ日本的民主主義ノ長所アリト言ヘバ言ヘナイコトハアリマセヌガ、

併シ「マッカーサー」司令部ガ、単ニ之ヲ民主的デアルト称スルノミナラズ、此ノ草案ハ極メテ進歩的デアルト言ツテ居リマスルガ、政府ハ此ノ進歩的ト云フ点ガ何処ニアルカ明瞭ニ御指摘願ヒタイト思ヒマス、

私ノ想像スル所デハ、此ノ憲法草案ノ第二章ニ戦争抛棄ト云フ規定ガ入ツテ居ル、是ハ如何ナル国ノ憲法ニ於テモ見ラレナイ新型ノ憲法草案デアルト言ハザルヲ得ナイ、ソコデ政府ニ質スノデアリマスガ、政府ハ日本的民主主義トハ単ニ国内ニ於ケル民衆政治、庶民政治ヲ徹底サセルダケデハナク、国際的平和主義、国際的民主主義マデ躍進シテ行ク所ニ特色ガアルト御答弁ニナルト思ヒマスルガ、政府ハサウ云フ心構ヘガアリマセウカ、

又ココニハ民主主義、民主主義ト云フコトガ盛ンニ主張サレテ居リマスルガ、今日デハ政治的民主主義デハ聊カ形骸ニ偏スルノデアリマシテ、経済的民主主義モ問題ニナラナケレバナラヌ、

大新聞ノ論調ニヨク保守主義対民主主義ト云フコトガ対立的ニ説カレテ居リマスルガ、私ノ考ヘカラ申セバ、此ノ民主主義ヲ政治的ノ意味ニ解スレバ、保守主義ハ決シテ反民主主義デハアリマセヌ(拍手)英国ノ保守党ノ首領「チャーチル」ハ、何時如何ニシテ政治的民主主義ニ反対致シマシタカ、

保守主義ト民主主義トヲ対立サセルコトニ若シ異議ガアリマスルナラバ、其ノ民主主義ハ経済的民主主義デナクテハナラヌト思フノデアリマスルガ、政府ガ此ノ憲法ニ於テ民主主義ヲ強化セントスルナラバ、政治的民主主義以外ニ、経済的民主主義ノ徹底ヲ考ヘテ居ルカドウカ、此ノ点モ併セテ御説明願ヒタイ、

私ハ政治的民主主義ハ必ズシモ共和政治ヲ必要トスルトハ考ヘマセヌ、ソレト同ジコトニ、経済的民主主義ハ必ズシモ社会主義ヲ意味スルトハ考ヘマセヌ(「ヒヤヒヤ」拍手)ソレハ民主主義ノ「デモクラシー」ノ国デアツテモ君主政治ガ認メラレテ居ル如ク、経済民主主義ヲ徹底シテモ必ズシモ資本、企業ノ独自ノ性質ヲ否認セネバナラナイト云フ結論ハ出テ来ナイノデアリマス(「ヒヤヒヤ」拍手)何レニシテモ此ノ点ハ国民ノ間ニ種々ノ論争ガ生ジ、種々ノ誤解ガ伴ツテ居ルノデアリマスルカラ、政府ハ近代的ノ意味ノ民主主義ニ付テ一層詳細ナル所見ヲ発表サレテ、此ノ混沌タル思想ニ一道ノ光明ヲ与ヘル責任ト用意ガナケレバナラヌト考ヘマスガ、内閣総理大臣ノ御所見ヲ承リタイ

君主制是認の根拠  第四ニ君主制ノ是認ノ根拠デアリマス、是ハ此ノ憲法草案ノ審議ニ関スル最モ重大ナル問題ノ一ツヲ提供スルコトニナリマスルガ、私ノ考ヘニ依リマスレバ、君主制ハ共和制ト対立スルケレドモ、必ズシモ「デモクラシー」ト対立スルトハ考ヘマセヌ、英国ニ於テモ、北欧諸国ニ於テモ、君主制ヲ維持シナガラ「デモクラシー」ガ成功シテ居ルコトハ世界ノ認メル所デアリマス(「ヒヤヒヤ」)「デモクラシー」ノ相当発達シテ居ル近代国家ニ於テ、然ラバ君主制ハ如何ナル根拠デ認メラレル力、私ハ浅学デアリマスルガ、私ノ今日マデ研究シタ結果ニ依リマシテハ二ツノ意味ノ君主ノ型ヲ認メテ居ルヤウデアリマス、第一ハ、外国ニ対シテ自国ヲ代表スル儀礼的、装飾的象徴トシテノ君主デアリマス、第二ノ型ハ、政党ノ争ヒヲ超越シ、階級ノ利害ヲ超越シ、第三者的、不変不動的調節者トシテノ君主デアリマス、私ノ考ヘル所ニ依リマスレバ、英国ノ君主制ハ第二ノ型ニ属シテ居ルト思ヒマス、現ニ元「ハーヴァート」大学デ教鞭ヲ執リ、今日英国ノ労働党ノ理論的指導者トシテ有名デアル「ラスキー」氏ハ、英国ノ皇帝ハ儀礼的象徴以上ノモノデアルト言ツテ居リマスルカラ、「ラスキー」教授モ英国ノ君主制ハ第二ノ型デアルト云フコトヲ承認サレテ居リマス、然ルニ今度ノ憲法ニ於テ、天皇ノ地位ハ認メラレ、天皇ノ憲法ニ規定サルル国務ノ取扱ノ範囲モ明瞭ニサレテ居リマスルガ、私ハ第二ノ型、即チ英国型ニ及ビモ付カズ、第一ノ型ニスラ十分ニ到着シテ居ラナイヤウナ感ジガ致シマス、即チ第一ノ型、自国ヲ代表スル儀礼的、形式的、装飾的ノ「シンボル」、即チ象徴ト云フ場合ニ於キマシテモ、外国ノ大使公使ヲ接受スルコトハ日本ノ天皇ノ機能ニ属シテ居リマスルガ、自国ノ大使公使ヲ任免スル権能ヲ奪ハレ、内閣総理大臣ガ任免シタ後ニ之ヲ認証スルダケニ止マツテ居ル、儀礼的装飾的象徴トシテノ、即チ国家意思ノ代表者――筧博士ノ言葉ヲ借リテ言ヘバ、表現者トシテノ地位モ十分デナイヤウニ感ゼラレマスルガ、是ハ憲法ノ規定ガ内閣諸公ノ本当ノ意思ニ満タナイ不十分ナモノデアルカ、或ハ内閣ノ総理大臣其ノ他ノ諸公ノ御考ヘハ、日本ノ天皇ノ地位ニ付テ特殊ノ御考ヘヲ持ツテ居ラレルカ、此ノ点ヲ明カニシテ貰ヒタイ
 更ニ私ハ総理大臣其ノ他ノ内閣諸公ニ要望スルコトガアリマス、日本ニ於キマシテハ、共産党ガ天皇制打倒ヲ唱ヘルダケデ、国民ノ絶対多数ハ天皇制ヲ支持シテ居ルコトハ、此ノ議会ニ現ハレマシタ政党ノ分野ヲ見テモ一目瞭然デアリマス(「ヒヤヒヤ」拍手)併シナガラ政府ハ此ノ民主化ノ徹底セル憲法ノ名ニ於テ、依然トシテ天皇制ヲ維持シナケレバナラヌト云フ積極的ノ理由、積極的ノ信念ニ付テ熱意アル説明ガナイヤウデアリマスガ、進ンデ積極的ニ私ハ説明ヲスル義務ガアルノデハナイカト存ジマス(拍手)勿論憲法ハ如何ニ基本的デアリマシテモ、法律ニ過ギマセヌ、「ドイツ」ノ有名ナル国家学者「エリネック」ハ、法律ハ道徳ノ最小限度ノ強制ナリ、法律ノ世界ハ小サク、道徳ノ世界ハ遙カニ大キイ、東洋ノ政治理想ハ、片々タル法治国ノ理想ニ跼蹐スルモノデハナク、モツト深イ大キナ徳治主義ニ徹底シテ居ルコトハ、オ互ヒニ承認スル所デアリマス(「ヒヤヒヤ」拍手)ソレデアリマスカラ、此ノ憲法改正草案ニ天皇ヲ如何ニ規定致シマシテモ、天皇ハ既ニ「爾臣民ト共ニ在リ」ト仰セラレ、我々ハ又悠久ノ民族的伝統ニ依ツテ、天皇ニ直結シテ居ルコトヲ考ヘテ居ル以上ハ、如何ニ憲法デアツテモ、法文ノ規定ヲ超越シタ何モノカガアルコトハ我々ハ確信スル所デアリマス(「ヒヤヒヤ」拍手)唯此ノ憲法ノ規定ニ付テ、天皇制ノ場合ニハ、之ヲ裏付ケル積極的ノ道徳的根拠、国民ノ伝統ニ基ク一片ノ理性以上ノ何モノカガアルコトヲ提示サレナケレバナラヌガ、政府ニ之ヲ要望シテ已マナイノデアリマス、私ハ失礼ナガラ此ノ憲法ノ草案ヲ読ミマシテ、政府ノ説明ガ十分デアルナラバ納得スルデアリマセウガ、漫然トシテ読ンデ、政府ノ説明ヲ十分ニ聴カナケレバ、日本国ノ憲法ノ代リニ某々国憲法トシ、日本国民ノ代リニ某々国民トシ、天皇ノ代リニ外ノ国ノ名前ヲ持ツテ来テモ、何処ヘ行ツテモ通用スルヤウナ感ジガ致シマシテ、日本的ノ特色ココニアリト云フ所ガ少シ稀薄デアルヤウニ感ズルノハ洵ニ遺憾デアリマス(拍手)勿論憲法ノ規定ニ於テサウ云フコトヲ冗長ト述ベルコトハ、立法技術上不可能デアリマスガ、セメテ此ノ憲法改正草案ヲ提出スルニ当リマシテ、政府ノ政治的信念ノアル所ヲ堂々ト披瀝シ、国民ヲ指導スルノ熱意ガアツテコソ、革新日本、再建日本ノ指導者ノ役割ヲ果スコトガ出来ルト思ヒマス(拍子)
我国の国体との関係  第五ニ新憲法ト国体ノ関係ニ付テ御伺ヒシタイ、是モ重大ナル、国民ノ琴線ニ触レル問題デアリマスガ、斯ウ云フ大問題モ神秘ノ帳リニ蔽ハレタ侭ニ放置スルコトハ出来マセヌ、ソコデ私ハ敢テ僣越ナガラ此ノ問題ヲ掲ゲ、政府ノ所見ヲ承ルノデアリマス、一部ノ人々ハ現行憲法ハ主権天皇ニ在リ、主権在君ヲ建前ニシテ居ル、憲法改正案ハソレトハ反対ニ主権ガ国民ニ在リト称セラレテ居ル、一種ノ国体変革デアルト驚愕シ、憤慨シテ居ル者モナキニシモアラズデアリマス、私個人ハサウ云フ憤慨モ驚愕モ持ツテ居リマセヌ、私ハ日本ハ昔カラ君民共治、君民同治ノ国柄デ、若シ主権ト云フ言葉ヲ用ヒルナラバ、君民ヲ総合セル全体ニ主権ガアツテ、統治ノ作用ハ、或ル時ニハ君主ニ強ク現ハレ、或ル時ハ民ノ方面ニ強ク現ハレテ、其ノ間互ヒニ消長ハアリマシタケレドモ、西洋ノ如ク君主ト直接国民大衆トノ政権争奪ノ歴史ガナク、寧ロ君主ト国民ノ中間ニ介在スル封建的分子、公卿同士ノ争ヒ、武家同士ノ争ヒ、或ハ公卿ト武家トノ争ヒガ主ナル政権争奪デアツテ、」君ト万民トハ大体ニ於テ融和シテ来タト云フ信念ハ変ラナイノデアリマス(拍手)随テ私ハ此ノ憲法改正草案ヲ通読スルニ当リマシテモ、此ノ前文ニ現ハレマシタ日本国民ト云フ中ニハ、天皇モ加ヘテ宜シイ、サウスレバ天皇ヲ含メタ日本人全体ガ此ノ憲法制定ニ与カル、此ノ憲法ノ精神ヲ貫徹スル誠意ヲ持ツテ居ルト云フコトデアルカラ、民主主権説カラ主権在民説ヲ変革シタト云フ必要ハナイト考ヘルノデアリマス、勿論主権論ノ詳細ナル内容ニ至リマシテハ、「ボーダン」以来ノ主権概念ノ発展ヲ辿ラナケレバナリマセヌガ、此ノ本会議デハ斯カル詳細ノ議論ハ尽ス機会デナイト存ジマシテ、私ハ委員会ニ於テ詳細述ベタイト思ヒマスガ、私ハ主権ノ所在、統治権ノ所在、法的ニ可ナリ困難ナル問題ヲ、先頃社会党ノ書記長片山君ガ本会議デ出シタヤウニ、此処デハ取扱ハウトハ思ヒマセヌガ、日本国民ノ間ニハ何トナク不安ガアリマスカラ、国体トノ関係ヲ一層明カニシテ、此ノ憲法ハ国体変革ニアラズト云フコトヲ、懇切丁寧ニ国民ニ徹底サセル必要ト責任ガアリハシナイカト感ズルモノデアリマス(拍手)
前文:  是デ私ノ総論的質問ヲ終ヘマシテ各条ノ質問ニ触レテ参リマス、勿論細目ノ質疑ハ委員会ニ譲ルコトト致シマシテ、章ヲ単位トシテ大キク御伺ヒ致シタイト思ヒマス
 先ヅ前文デアリマス、是ハ趣意ハ私ハ洵ニ結構ダト思ヒマスガ、翻訳デナイト弁明シテ居ルヤウデアリマスケレドモ、翻訳ノ口調ガアツテ、而モ余リ巧ミナ翻訳デアルト云フコトハ申サレヌヤウデアリマス、細カイ修正意見ハ委員会ニ於テ申シマスルガ、私ハ洵ニ此ノ文字ノ用ヒ方ニ於テ遺憾ヲ感ジテ居リマス、条文ハ簡単デアリマスルカラ、サウ翻訳口調ガ出テ居ルト云フヤウナ所ガアリマセヌガ、此ノ前文ニハ翻訳口調ガ大イニ出テ居リマス、一ツ二ツ参考ニ申上ゲマスト、「日本國民は、國會における正當に選擧された代表者を通じて」トアル、ナゼ簡単ニ、日本国民ハ正当ニ選挙セラレタ国会議員ヲ通ジテト言ハヌカ、是デハ国会ニ於テ選挙サレタノダト云フ感ジヲ持タセル処ガアリマス、純粋ナ日本人的ナ頭デ日本文ヲ書クナラ、斯ウ云フ文章ハ書ケナイ筈デアラウト私ハ考ヘテ居リマス(拍手)其ノ他「自由の福祉」ナドト云フコトモ私ハ分リマセヌガ、私ガ三十代ニ読ンダ「アメリカ」ノ憲法ヲ披イテ見ルト、丁度其ノ言葉ガ前文ニ出テ居ル、「ザ・ブレッシング・オブ・ザ・リバーティ」、是ガ翻訳ト云フノヂヤナイ、「アメリカ」ノ建国ノ当時ニ出来タ憲法ノ中ニアル「ザ・ブレッシング・オブ・ザ・リバーティ」、是ハ自由ノ福祉ナドト言フト実ニ勿体ナイ、自由ト云フモノガ人類ニ恵沢ヲ齎ス、言論ノ自由、出版ノ自由、結社ノ自由、信仰ノ自由、戦時中我々ハ凡ユル自由ヲ奪ハレテ居ツタ、此ノ自由ト云フモノガ十分ニ保障サレレバ沢山ノ「ブレッシング」ガ出来ル、若シ私ニ此ノ文章ヲ書カセレバ、日本国民ハ正当ニ選挙サレタ国会議員ノ活動ニ依ツテ我等自身ト子孫ノ為ニ、諸国民トノ間ノ平和的協力ニ依ル成果ト、日本国土ニ遍キ自由ノ齎ス恵沢トヲ確保シ、政府ノ行動ニ依ツテ再ビ戦争ノ惨禍ヲ発生サセナイト決意ス、戦争ノ惨禍ヲ発生シナイヤウニ決意ス、トシテハ弱イ、サセマジト言ヒタイ位デス、英語デ言ヘバ「ネバー・シヤル」、シナイヤウニト云フボンヤリシタ意味ヂヤナイ、サセナイト云フ固イ決意ヲ持ツテ居ル、斯ウ云フモノハ頻々トシテアリマス、之ヲ指摘スルコトハ本日ハ止メマスガ、先ヅ希望ト致シマシテハ、翻訳口調ヲ脱シテ貰ヒタイ、若シ英文デ書クナラ、書ク方向デ翻訳口調ガ出テモ宜シイガ、コチラノ憲法デアルカラ、コチラニ翻訳口調ガアツテハイカヌ(拍手)此ノ点ニ付テ政府ノ詳シイ答弁ハ委員会デ承リマスガ、此処デハ簡単ニ御尋ネ致シマス
第一章:天皇の権能

 次イデ天皇ノ章ニ参リマスガ、此処デハ色々ナ質問ガアリマスガ、先ヅ第一条ノ象徴卜云フコトデアリマス 私共ハ象徴ト云フコトヲ斯ウ解釈シテ居リマス、菊水ノ紋ハ楠家ノ象徴デアル、富士山ハ日本国ノ象徴デアル、桜ノ花ハ日本国民性ノ象徴デアル、更ニ十六ノ御紋ハ皇室ノ象徴デアル、随テ日本国民統合ノ象徴ト云フコトハ非常ニ私ハ意味ガアルト思フ、

誰ガ用ヒタカ、内閣諸公ニ偉イ文学者ガアルト私ハ感心ヲシテ居ル、是ハ非常ニ神韻縹渺タルモノデ、私ハ結構デアルト思フ、神韻縹渺タル所ニ値打ガアル、

併シ私ハ若イ当時ニ読ンダ「アンリー・ベルゾン」有名ナ世界的ナ哲学者ノ著書ノ中ニ一寸書イテアル、記号、英語ノ「サイン」ト区別シテアル、「サイン」ト云フノハ、二トカ三トカノ数ノ如ク、林檎ニモ、馬ニモ、人間ニモ「ゼネラル」ノモノニ当ル、象徴ハ、或ル具体的ナモノヲ具体的ニ表ハスコトガ象徴デアル、

ソレデアルカラ、日本国民ノ統合ト云フ具体的ノ姿、ソレニ具体的ノ天皇ト云フノハピツタリ合フノデス、ケレドモ日本国ノ象徴ト云フ時ニハドウモピツタリ来ナイカラ、

国民一般ノ希望デハ、此処ニ元首ト云フ言葉ヲ持ツテ来ラレナイカ、元首ト持ツテ来ルト、又旧憲法ノ天皇ノ大権ガ云々サレルノデハナイカト心配サレルデアリマセウガ、天皇ノ権能ノ規定ハ第七条ニ詳細尽シテアリマスルカラ、元首ト云フコトヲ持ツテ来ラレテモ――英語デ言ヘバ「ヘッド」デス、何処ノ国ノ大統領デモ簡単ニ「ヘッド」「ヘッド」ト言ヒマス、ソレカラ吉田総理大臣ノ先程ノ説明デモ、天皇ガ日本国ヲ代表スト言ハレタ、代表者ニハ「ヘッド」ト云フ言葉ヲ用ヒテ毫モ差支ヘナイノデアリマス、

是ハ余リ国際関係ヲ顧慮シテ、遠慮カラ一歩萎縮シタ感ジガナイデハナイヤウニ思フ、私ハ堂々ト元首トシマス、元首ニモ「フィギユア・ヘッド」ト云フ言葉モアリマス、所謂「ロボット」ト云フ意味ノ、広イ意味ノ「フイギュア・ヘッド」ト云フコトモアルカラ、元首ト云フノハ総括的ノ文字トシテ用ヒテモ何等遠慮スル所ハアリマセヌ、体裁カラ言フト、再ビ斯ウ云フ所デ繰返スヨリハ、是ハ何トカ変ヘル余地ハナイカ

 ソレカラ此ノ第一章ハ衆議ノ集マル所デアリマスガ、モウ一点ニ付テ聴キマス、「この地位は、日本國民の至高の總意に基く」、勿論是ハ政府ノ詳細ナル説明ヲ聴カナケレバ分リマセヌガ、基イテ維持サレルノカ、基イテ出来タノカ、是ハ一部ノ人ハ斯ウ言ツテ居ル、現在ノ日本国民ガ全部集ツテ、勿論天皇モ含マレテ――含マレテモ差支ヘナイ、「アメリカ」デハ此ノ憲法ノ草案ガ出来タ時ニ、日本天皇ハ是デ「フアースト・シティズン」ニナラレタ、日本ノ第一ノ市民ニナラレタト言ツテ居リマス、西洋人ノ考ヘ方カラ云フト、サウ云フ考ヘモアリ得ル、日本ノ特権アル公民、外国ニ対シテ日本人ト云フ時ニハ皆入ツテ宜シイ、区別シタ時ニハ、君ト臣ト区別シテ言ツテモ宜イ、サウ云フ場合ニ、日本国民ト云フ中ニ天皇様ヲ入レテ毫モ差支ヘナイガ、多少日本ノ歴史的背景ヲ現ハスコトガ必要デハナカラウカ、是ハ私ノミナラズ、多クノ人ガ抱ク疑問デアルガ、政府ノ所見ヲ聴キタイ

 ソレカラ第三条、今マデノ現行憲法ニ於テハ「天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス」アレハ「ヨーロッパ」ノ帝王神権説カラ来タモノデ、「ドイツ」ノ旧憲法ニモアア云フ考ヘ方ガアツタノデス、今日デハ神秘的ダトカ、空想ダト云フ人ガ多イガ、元来ハアレハ空想デハナカツタ、「ローマ」法皇ノ神権説ヲ振廻ハスカラ、ソレト対抗スル為ニ、地上ノ君主モ亦神ノ御旨ニ依ツテ生レ、神ノ御手ニ依ツテ生ジタモノデ、対抗理論トシテ生ジタモノデス、ソレガ「ドイツ」ニ長ク伝ハリ、日本ニマデ影響シテ来タ、内容カラ云ヘバ、天皇ハ法律上、政治上ノ責任ヲ有セズト云フコトデス、輔弼ノ責任アル大臣ガ、総テ法律上、政治上ノ責任ヲ負フ以上ハ、天皇ハ責任ヲ負フ必要ハナイカラ無責任ノ境地デアル、所ガ此ノ憲法ニ於テハ其ノ規定ガナイ、政府ハ此ノ規定ニ付テ何ト考ヘル、之ヲ御尋ネシマス

 ソレカラ第四条「天皇はこの憲法の定める國務のみを行ひ、政治に關する權能を有しない」、是ハ英国デ「キング・レーンズ・バット・アズ・ノット・ガヴァーンズ」、王ハ君臨スレドモ政治セズト云フ思想カラ来タモノデ「フランス」デ元現ハレタ思想デアリマス、ソレト同ジコトヲ言ツタモノデセウガ、ドウモ文字ノ用ヒ方ハ、国務ノミ天皇ハ行フガ、政治ニハ関係シナイ、サウスルトドウモ常識上、日本デ今マデ用ヒタ国務ト云フコトハ、別ナ政治、而モ大キナ政治ニナツテ居ル、戦時中ヨク議会ニ国務ト統帥ノ調和如何、小磯内閣総理大臣ハ国務ト統帥ノ吻合ト云フ名文句デ之ヲ胡麻化サントシタ、ソコデ国務大臣ト云フコトハ大キナ問題デアル、現ニアナタ方ハ国務大臣ト言ハレテ居ル、サウシテ見レバドウモ国務大臣ト云フコトハ、今日ノ新聞ニモ出タガ、人民ノ権利ヲ妨ゲテハナラヌ、大臣ノ臣ト云フ言葉ノ用ヒ方、大臣ト用ヒルノハ結構ダガ、何カ封建的ナモノガ残ツテ居ルヤウデス、別ナ言葉ヲ用ヒナケレバナラヌ、大臣ナラ小臣ト云フモノモナケレバナラヌ(拍手)是ナドモ兎ニ角政治ニ関スル意味ハ能ク分リマスガ、表現ノ仕方ヲモウ少シ御変ヘニナツタラドウカ

 更ニ第四条ノ第二項「天皇は、法律の定めるところにより、その權能を委任することができる。」、是ハドウシテモ、我々ガ如何ニ研究シテモ、我ガ党ノ政務調査会デハ数回ノ会合ヲシタケレドモ、此ノ意味ハ漠トシテ捉マラヌノデアリマスガ、一ツ政府ノ詳細ナル説明ヲ要求シタイ

 ソレカラ第七条、是ハ個々ノ場合一カラ十マデアリマスガ、今マデノ憲法デ批准ト云フヤウナ所ガ多ク認証トナツテ居リマス、裁可ト云フ点ガ多ク認証トナツテ居リマス、本文ノ一項々々ニ亙ツテノ質問ハ委員会ニ譲リマスガ、裁可ヲ認証トスルト、大権ガ非常ニ縮小サレテ民主主義化シタヤウニ感ゼラレマスガ、勿論理論的ニハ裁可権ノ裏面ニハ拒否権、否定等ノ権利ガアルコトハ事実デアリマスガ、明治天皇以来、閣議ノ一致シタ意見ニ対シテハ、拒否権ヲ行使サレタコトガナイノデス、是ガ即チ今度ノ裁判ニモ現ハレマシテ、「キーナン」検事ガ、日本ヲ誤ツテ罪悪ト誤謬ニ導イタ者ハ汝等デアル、天皇ト国民トハ関係ガナイト言ハレル原因デアリマス(拍手)ソコデ裁可ト云フコトヲ用ヒテモ、実際拒否権ヲ利用ナサツタコトガナイナラバ、サウシテモ差支ヘガナイデハナイカ、認証ト云フ言葉ヲ用ヒテモ、若シ認証シナイ場合ニ於テ、総理大臣ノ決定事項、任命ノ如キハ効力ヲ失フヤ否ヤ、勿論認証トアレバ必ズ認証スルニ相違ナイ、ソレガ裁可トアレバ必ズ裁可スルニ相違ナイト同ジコトデアリマス、文字ヲ変ヘタダケデ、実際ニ於テハ変リガナイト考ヘマス、聞ク所ニ依ルト、社会党ノ諸君ハ、天皇ノ大権ヲモウ少シ大幅ニ縮小シタイト云フノデ、裁可トカ、議会ヲ解散スルトカ、召集スルト云フコトヲ皆認証々々ニ持ツテ行カウ、貴族院議員ノ方ハ認証トアル所ヲ全部裁可若シクハ批准トシタイト言フガ、実質ニ於テハ殆ド変ル所ガナイト思フ、名目ヲ変ヘタ所ガ大権ガ拡大スル訳デハナク、社会党ノ諸君ノ如ク、之ヲ他ノ認証デ徹底シタ所ガ縮小スルコトガナイト私ハ考ヘテ居リマスガ、当局ノ之ニ対スル所見ヲ伺ヒタイ、ソレニ依ツテ我々ハ熊度ヲ決定シタイト思ヒマス、マダアリマスガ、細目ハ抜カシマス

第二章:戦争抛棄

 ソレカラ戦争抛棄ノ第二章ニ移リマス、

勿論我々ハ此ノ憲法ノ特色ハ、国内ニ於テ民主化ヲ徹底スルノミナラズ、国ノ内外ニ亙ツテ其ノ平和思想ヲ徹底スルト云フ新階段ニ躍進セントスルノデアリマスカラ、此ノ憲法ノ進歩性ハココニアルノデアルト思ヒマスガ、

私ハ戦争ニ負ケテ武装解除ヲシタ国ガ、戦争致シマセヌト言フノハ、貧乏者デ赤貧ニ陥ツテ居ツテ、倹約致シマスト言フノト同ジコトデアル、国際的ニハ余リ効果ハナイ、

是ハ寧ロ進ンデ永世局外中立運動ヲ起シテ、此ノ微力ナル日本ガ平和ニ生活出来ルヤウニ、内閣諸公ノ用意ト準備トガナケレバナラヌト考ヘマスガ、内閣総理大臣、外務大臣等ハ之ニ付テ何等カノ態度ヲ執ツテ居ラレルデアリマセウカ(拍手)之ヲ承リタイ、

勿論理論的ニ言ヘバ、此ノ自衛権ノ発動ノ場合ハ、相手ガ武器ヲ持チ、コツチハ空手デアツテモ、自分ノ貞操若シクハ名誉ヲ擁護スル場合ニハ、敢然ト反対スルノガ日本ノ国民ノ本当ノ基本的ノ権利デス、是ハ国家ノ基本的権利ト言ハザルヲ得ナイヂヤナイカ、

実質的ナ陸海空ノ三軍ヲ設ケナイト云フ憲法ノ規定デアルカラ、是ハ設ケテモ宜シイガ、一部ノ人ハ突如トシテ天皇ト国民ノ権利義務ノ二ツノ章ノ間ニ斯ウ云フモノヲ入レルヨリ、天皇ノ章ノ前ニ持ツテ来テ、総論的ニ入レタラドウカト云フ説モアリマス、

更ニ進ンデ此ノ憲法ノ前文「プレアンブル」ノ中ニ入レタラドウカト云フ説モアリマス、

体裁トシテハ此ノ二ツノ何レモガ是ヨリモ宜イデアリマセウガ、併シ此ノ憲法ノ草案ガ発表サレマシタ時ニ、「マッカーサー」元帥ガ日本ノ憲法ノ進歩性、非常ニ特色ノアル進歩性トシテ指摘シタ所ノ此ノ条項デアリマスカラ、当局トシテハ変更ハ困難ヲ感ジマスト想像致シマス、政府ハドウカ、

此ノ規定ハ日本ガ平和生活ヲ愛スルノミナラズ、世界ニ向ツテ平和生活ノ勧告ヲスル、平和運動ノ尖端ニ立ツ覚悟ガアルト云フコトヲ示ス為ニ、何等カノ政治的工作ヲシナケレバナラヌ義務ガアルト私ハ考ヘル(拍手)サウシナケレバ此ノ憲法ハ進歩的デアルト云フ、此ノコトガ画餅ニ属スル、

此ノ前ノ大戦後「ドイツ」ガ戦争ニ負ケマシテ「ワイマール」憲法ガ出来タ時ハ、世界ノ最モ進歩的ナ、近代的ナ憲法ダト言ハレタガ、其ノ運用ヲ誤ツテ小党分立シテ、最右党カラ最左党マデ絶エズ国内闘争ヲ事ト致シテ居ツタガ為ニ、連立内閣、短命内閣ノ連続デアリマス、

遂ニ「デモクラシー」ハ失敗シ、「デモクラシー」ハ労力的ニモ金銭的ニモ余リ是ハ効果的ノモノデナイト云フ印象ヲ与ヘテ、「ヒトラー」運動ノ擡頭ヲ促シタ、世間デハアレヲ称シテ、社会党ト共産党ガ共同戦線ヲ張ツタラ「ヒトラー」運動ガ起ラナカツタ、此ノ二ツノ政党ノ共同戦線ヲ張ラザリシコトニ原因ヲ求メテ居ルガ、私ハ「ドイツ」ノ欧洲大戦後、即チ国内政治ノ失敗、民主主義政治ノ失敗ガ「ナチス」運動ヲ起シタト思ツテ居ル(拍手)「イタリー」ノ「ファッショ」運動ノ起源モソコニアル、

「デモクラシー」ガ完全ナル限リ「ナチス」運動ヤ「ファシズム」運動ハ起ラナイ、不健全デ失敗シタ時ハ、混沌タル無政府状態ヨリハ「ストロング・ハンド」、強キ手ニ依ル何等カノ政治ガ宜シイ、二ツノ悪イモノヲ選ブ時ニ、少キ悪イモノヲ選ブ、是ガ「ファッショ」ヤ「ナチス」ノ擡頭ノ所以デアリマス、政府ハ之ニ十分ニ注意シナケレバナラヌ、

然ルニ憲法デ斯ウ云フ規定ヲ掲ゲナガラ、国内ニ於テハ到ル処戦闘準備――ヤア人民戦線ダ、ヤア民主戦線ダ――戦争抛棄、平和主義ノモノハ、苟クモ戦ヒト云フ名ヲ国内ニ於テハ私ハ用フベカラザルモノデアルト考ヘルノデアリマス(拍手)諸君ハ如何ニ考ヘマスカ、国内輿論ノ闘争ノ連続ハ国際的波瀾ヲ生ズル一種ノ準備行動ト考ヘザルヲ得ナイ

第三章:国民の権利義務

 第三章ノ国民ノ権利及ビ義務、是ハ私ノ解釈ニ依リマスレバ、天皇ト区別セラレタル国民ノ権利及ビ義務、斯ウ考ヘタイ、是ハ基本的人権ノ規定ガ沢山アツテ、此ノ憲法ノ特色デアル、当局ノ労ヲ多トスルニ吝カナラナイモノデアリマス、唯ココニ遺憾ト思フノハ、現行憲法ニ於テハ、日本国民タルノ要件ハ法律ヲ以テ之ヲ定メルト云フノガアリマスルガ、此ノ国民ノ権利義務ノ規定ノ何レノ章ニ於テモ、何人モトカ、総テノ国民ト云フノガ出テ居ルガ、日本人ハ何モノデアルカト云フ規定ガナイノデアリマス、是ハ自明ノ理デアルト考ヘテ、多分落サレタモノト考ヘマスガ、落シテモ少シ落シ物ガ大キイカラ、是ハ相当御考ヘ願ヒタイト思ヒマス
 更ニ此ノ章ノ大体ヲ見マスルト、権利ヲ説クニ急ニシテ、義務ヲ規定スルニ非常ニ寛大デアル、勿論今マデノ日本国民ハ義務ノミ背負ハサレテ、権利ハ殆ドナカツタノデアリマス、人間ノ保有スル凡ユル権利ガ蹂躙サレタノミナラズ、人間其ノモノスラ、人権蹂躙ノ形デ現ハレタノデアリマスカラ(笑声)権利ノ擁護ニ非常ニ熱心デアルト云フコトハ是ハ当然デアリマスガ、私ハ納税ノ義務ヲ規定スルコトヲ忘レラレタノデハナイカト思ヒマス、即チ何処ノ国ノ憲法ヲ捜シテモ、国民ニハ納税ノ義務ガアルトナツテ居ルガ、是ニハ納税ノ義務ト云フコトガ書イテナイ(拍手)此ノ三章ノ何等カノ場所ニ一ツ新シイ条項トシテ加ヘテ欲シイ、現ニ此ノ二十七条ニ財産権ハ之ヲ侵シテハナラナイ、斯ウ云フコトヲ規定シテアツテ、納税ノ義務ナンカ規定シテナイト、財産税ヲ取ルコトモ憲法違反ノ疑ヒヲ受ケル虞ガアルト私ハ思フ(笑声)ソコデドウシテモ是ハ日本国民ノ納税ノ義務ヲ規定シナケレバナラヌト考ヘマス、此ノ憲法ヲ読ンデ見ルト、今マデノ憲法ガ一面ニ偏シタカラ、他面ニ偏シテ、従来ノ憲法ノ規定ト比較シテ反動的デアル、今マデノ憲法ハ何トナク前科者ノ憲法デアツテ、今度ハ真人間ノ憲法デアルト云フヤウナ感ジヲ生ズル位ニ対立シテ居ル所ガ沢山アリマス、ソレカラ二十一条ノ学問ノ自由ト云フコトガ少シ漠然トシテ居ルカラ、此ノ意味ヲ明カニシテ貰ヒタイ、是ハ「ドイツ」デハ所謂「レールフライハイト」ト「レールフォルム・フライハイト」、研究ノ自由ト教授ノ自由ト云フコトデ大分喧シク言ハレタノデアリマスカラ、是ハ学術研究ト云フ意味デアルカ、大学ノ教授ノ自由ニ重キヲ置イテ居ルノカ、一寸分リニクイ、是ハ一ツ御説明ヲ促シタイ、ソレカラ若シ政府ガ民主主義ノ徹底ト云フコトニ付テ、経済的民主主義ト云フモノモ大イニ取入レヨウト考ヘルナラバ、社会党ノ諸君ガ主張スルヤウニ、生活ノ色々ノ規定、即チ要スルニ人間ラシイ生活ノ権利ヲ色々規定スル義務ガアルト思ヒマスガ、是ハ政府ガ民主主義ヲ如何ニ解釈スルカニ依ツテ決マル、細カシイ所ハ寧ロ社会党ノ修正意見ヲ見テ、我々カラ又政府ニ申上ゲタイト思ヒマス

 ソレカラ第三十五条、三十六条ノ点ニ於テモ、是ハ木村司法大臣ガ一ツ御考ヘ下サラナケレバナラヌ問題デアルガ、寃罪者ノ補償ノ規定ガ十分ナイヤウデアリマス、モウ一ツハ官公吏ノ公法上ノ不法行為ニ対シテ賠償ヲ求メル権利ト云フモノガ規定ガナイヤウデアリマス、之ニハ即刻ノ御返事ヲト申上ゲマセヌ、十分ニ御考ヘノ上他日ノ機会ニ答弁シテ戴キタイ

第四章:国会の規定

 ソレカラ第四章ノ国会ノ部ニ移リマス、是ハオ互ヒ国会議員ノ一員トシテ席ヲ列ネテ居ル以上ハ、最大ノ関心ヲ要スルコトデアリマスガ、三十七条ノ国会ハ国権ノ最高機関デ、国ノ唯一ノ立法機関デアル、私ハ国ノ唯一ノ立法機関デアルト云フコトハ能ク分リマス、今マデハ日本ノ天皇ガ帝国議会ノ協賛ニ依ツテ立法権ヲ行使スル、憲法第五条ニ規定サレテ居リマシタガ、今度ハ名実共ニ国会ガ立法機関トナツタノハ宜シイガ、是ニワザワザ国権ノ最高機関ト云フ必要ガアルカ、嚢ニ吉田総理大臣モ三権分立ノ思想ハ出テ居ルト言ハレマシタガ、「アメリカ」モ三権分立ノ思想ガ可ナリ徹底シタ国デアリマスガ、「アメリカ」ノ憲法ヲ見マスレバ、立法権ハ議会ニ属スルトアルダケデ、国権ノ最高機関ト云フコトハアリマセヌ、国権ノ最高機関ト規定シテ居リナガラ、天皇ガ議会ヲ解散スル権利ヲ持ツテ居ル、勿論実質的ニハ総理大臣ガ解散ヲ奏請シテ、ソレガ決定的ノモノニナル、サウ云フ程度ノモノデアリマセウガ、兎ニ角モ解散サレル、「アメリカ」ニ於テハ大統領ハ議会ノ解散権ヲ持ツテ居リマセヌ、ソレデモ議会ハ最高機関トハ言ハレテ居リマセヌ、更ニ又議会デ如何ニ法律ヲ作ツテモ、高等裁判所、即チ日本ノ大審院デ其ノ法律ノ効力ガ否定サレタ場合ニハ失効スルコトニナツテ居リマス、是等ノ点ヲ考ヘテ見テモ、大体ニ於テ憲法ノ性質ハ立法部ノ優位――「シュプリーマシー」ト云フ思想ハ出テ居リマスルガ、国権ノ最高機関トマデ言フ必要ハナイデハナイカ、何トカ他ノ表現ノ法ガアリハシナイカト云フコトガ私共ノ質問ノ要旨デアリマス

 ソレカラ第三十九条「兩議院は、全國民を代表する選擧された議員でこれを組織する。」即チ参議院ト衆議院ヲ一ツノ条文デ規定シテアリマスルガ、参議院ノ構成ガ十分ニ示サレテ居ラナイ、金森国務相モ何等カノ機会ニ於テ二ツ三ツノ腹案ガアルカラ御示シニナルト言ハレマシタガ、ソレガナイ限リハ、私ハ参議院ト云フモノノ制度ニ賛成シテ宜イカ悪イカガ分ラヌ、マア兎ニ角多クノ国ノ憲法ヲ見マスレバ、上院ト下院トニ院アル場合ニハ、別々ノ条文デ規定シテアリマスルカラ、別々ノ条文デ規定シテ、サウシテ参議院ト云フモノハ、其ノ構成ヲ別ノ法律ニ譲ルト云フコトニシタラ明瞭デハナイカ、是モ御一考ヲ煩ハシタイ、更ニモウ一ツ我々ガ承リタイノハ、此ノ衆議院モ参議院モ全部之ヲ選挙スル、即チ三十九条「兩議院は、全國民を代表する選擧された議員でこれを組織する。」、是ガ非常ナ問題デアリマシテ、進歩党ニ於テモ、社会党ニ於テモ、貴族院側ニ於テモ、在野ノ有志ノ間ニモ議論ニナツタノデアリマスルガ、全部選挙スルト云フコトニナレバ、参議院ガ若シ地域的ノ選挙デアルナラバ、衆議院ト似タモノガ出ルカラ、二院制度ノ根拠ガ薄弱ニナル、若シ進歩的ノ考ヘヲ持ツテ居ル人々ノ云フヤウニ、職能代表制ニシヨウトスレバ、日本ハ総テノ国民ガ職能的ニ区別サレテ居ラナイ、「イタリア」ノ曽テノ如ク組合制国家ニ徹底シテ居リマシテ、各人ガ何等カノ組合ニ属シテ居ルナラバ、職能制代表モ大イニ可トスルノデアリマスガ、私共ハソレガナイ限リハ、職能代表モ困難ダ、学識経験アル者ヲ出スト云フナラバ、帝国学士院アタリ、大学アタリヲ一ツノ選挙区トシテ出ス途モアルケレドモ、一般ノ国民ガ選挙スルト云フ此ノ規定ト正面衝突ヲスル、ソコデ二院ガ恐ラク衆議院ト同ジヤウナ程度ノモノデアルナラバ無用デアルシ、衆議院ト違ツテ学識経験者、職能代表者ヲ以テスルト、此ノ国民ヲ代表スルト云フ条項ト矛盾シテ、ドウモ我々ハ両院制度ハ大体賛成スル一人デアリマスケレドモ、此ノ規定其ノモノヲ鵜呑ミニスルコトハ出来ナイ、是ハ恐ラクハ政府モ苦シマレタ所デアラウト思ヒマス、旧「ドイツ」ノ如ク連邦ヲ代表スル上院議院ナラバ極メテ明瞭デアル、「アメリカ」ノ憲法ヲ見テモ、各州二人ヅツガ大小ニ拘ラズ出マス、州権擁護トハツキリ書イテアル、所ガ日本ノ上院即チ参議院ニ於テハ、各地方ノ利害ダケヲ代表スルト云フ意味ハ持テナイト思フ、一体上院ノ構成ト云フモノハ極メテ困難デアル、「フランス」ノ如キハ間接選挙デ上院ヲ構成シ、英国ハ貴族ノ大部分デ構成シ、「イタリア」ハ勅任制度、日本デハ皇族、貴族、ソレカラ多額納税者、勅選議員、色々ノモノガ折衷サレテ居ツタノデアリマス、今度ハドウ云フ制度ヲ持ツテ来ルカ、又根本的ニ考ヘテ衆議院ガ非常ニ優越デ、参議院ガ衆議院ヲ通過シタモノヲ皆鵜呑ミニセンナラヌヤウデアルナラバ、是ハ二重ノ手数デ、アルモナキモ宜シイト云フコトニナル、又非常ニ権能ヲ上ゲテ妨害スルナラバ、是ハ有害デ排除スベシト云フコトニナル、何レニシテモ困ツタ代物デアリマスガ、是ハ政府ガ余程具体的ナハツキリシタ構想ヲ披瀝サレテ、詳シイ説明ヲスルコトガナカツタナラバ分リマセヌ、私共ハ日本ハ将来文化国家ヲ建設スルト言ハレテ居ル以上ハ、上院ヲ設ケルナラバ職能代表的ナ意味ヲ加ヘテ、文化ノ各方面ヲ飾ルヤウナ人物、即チ音楽家デモ、芸術家デモ、文学者デモ、学者デモ、或ハ社会運動ノ功労者デモ、或ハ教育界ノ泰斗デモ、凡ユル方面ノ文化分野ニ活動シタ者ヲ集メルヤウナ仕組デアレバ、上院ト云フモノノ性質ニ相応シイト我々ハ非常ニ賛成スルノデアルガ、其ノ構成ハ頗ル困難ダ、唯漠然ト二院制度ト云フダケデハ賛成シ兼ネル、現在「フランス」デモ一院カ二院カノ問題ハ政争ノ激シイ題目ノ一ツニナツテ居リマスカラ、政府ハ至急ニ一ツ詳細ナ構想ヲ発表シテ貰ヒタイ、是ハ要求致シマス(拍手)

 ソレカラ細カシイ所ハ除キマシテ、第五十一条「兩議院は、各々その議員の選擧又ハ資格に關する爭訟を裁判する。」、是ハ議院ガ裁判ヲ取扱フ、議会ノ権能ガ非常ニ増シテ宜ササウデアルガ、選挙ノ有効無効ナドヲ議会デヤルト云フコトハドウ云フモノカ、私ハ此ノ前ノ前、昭和十七年ノ選挙デ鹿児島県ノ選挙無効ノ訴訟ノコトヲ承ツテ居リマスガ、裁判長ハ非常ニ公平デ、東條内閣ノ下ニ行ハレタケレドモ結局ハ無効トナツタノデアリマス、私ハ検事ノ行動ニハ如何ハシイモノガ沢山アルト思ヒマスガ、日本ノ裁判官ハ聊カ「スロー・モーション」デ余リ優秀トハ考ヘラレマセヌガ、不公平ト云フ点ハナイカラ、此ノ選挙ノ有効、無効ノコトハ議会ヨリモ寧ロ裁判所ニ任シタラドウカ、議会デヤリマスレバ、是ハ政治ノ争ヒノ題目ニナル、題目ガナクテモ時々争フ可能性ガアル議会ニ於テ、斯ウ云フ題目ガアレバ益々国内闘争ヲ助長スル虞ガアルカラ、当局ハ議会ヲ尊重スルガ如クシテ、実ハ議会ニ本当ニ忠ナラザルモノデアルト憂ヘルノデアル、政府ノ所見如何ソレカラ憲法第五十五条デ「法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、兩議院で可決したとき法律となる、衆議院で可決し、參議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上の多數で再び可決したときは、法律となる。」、是ハ「アメリカ」デヨク三分ノ二ノ決議ト云フコトヲ申シマス、例ヘテ言ヒマスト、議会デ決議シタ法律案、予算案ヲ、大統領ガ否認権ヲ使用シテ否認スル、或ハ各州ノ州会デ決議シテ知事ガ否認スル、「ヴィートー」ノ権ヲ有スル、再ビ三分ノ二以上デ決議シタ時ハ有効ダ、ソレガ採入レラレタ所ハ「アメリカ」ノ影響ガアルヤウデアリマスガ、是ハ予算案ノ場合ト同ジヤウニ、ヤハリ両院協議会ヲ一応開クコトニシタラドウカ、サウシテ纏マラヌ場合ニ於テ、衆議院デ其ノ次ノ議会デ決議スル、サウシテ過半数デ通過シタラバ宜シイト云フコトニ訂正シタラドウカ、是ハ独リ自由党ノミナラズ大体各派モ賛成サルベキ問題デハナイカ、貴族院アタリノ有志ノ意見ヲ聴キマシテモ大体同感デアリマス

 ソレカラ第三項ニ「參議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、國會休會中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、參議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。」、是モ六十日ハ長過ギルカラ、マア二十日、三週間カ二週間位ニシタラドウカト云フノガ、我ガ党ノ調査ノ結果デアリマス、政府ハ之ヲ如何ニ御考ヘニナリマスカ
 更ニ第五十六条ニ於キマシテ、予算ノ問題デス、「豫算について、參議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、兩議院の協議會を開いても意見が一致しないとき、又は參議院が、衆議院の可決した豫算を受け取つた後、國會休會中の期間を除いて四十日以内」、是モ三週間以内ニ訂正シタイト云フ希望ヲ持ツテ居リマス、政府ノ所見ヲ承リタイ

 ソレカラ第六十条「國會は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、兩議院の議員で組織する彈劾裁判所を設ける。」、是ハ「罷免の訴追を受けた裁判官」ト云フノハ、最高裁判所ノ裁判官ダケナノカ、一般ノ裁判官ニモ適用スルノカ、ソレガ先ヅ第一ノ疑問、モウ一ツハ「兩議院の議員で組織する彈劾裁判所を設ける。」ト云フガ、是ハ司法ノ民主化ヲ狙ツタモノデアリマセウカ、ドウデセウカ、裁判官ノ良シ悪シヲ議会デ一々調ベル、是ハ却テ立法府ガ司法部ニ干渉スル端ヲ開キ、又政党的争ヒヲ斯ウ云フ時ニ持込ム危険性ナキニシモアラズ、此ノ点ハ「アメリカ」ノ憲法ノ、行政権ガ立法権ヲ牽制シ、立法権ガ司法権ヲ牽制シ、司法権ガ更ニ行政権ヲ牽制スル、所謂「チェック・エンド・バランス」――抑制ト均衡ト云フ法式ニ則ツタモノデアル、又司法部ノ民主化ヲ狙ツタモノデアリマセウガ、是ハ寧ロナイ方ガ宜クハナイカ、他ノ機関ヲ設ケテ斯ウ云フコトヲヤツタラドウカ、其ノ方ガ立法府ノ独立、司法権ノ独立ノ上ニ便利ガ宜クハナイカ、是ガ我々ノ考ヘ方デアリマス

第五章:内閣の章

 ソレカラ内閣ノ規定ニ移リマス、第六十二条第二項「内閣は、行政權の行使について、國會に對し連帶して責任を負ふ。」、是ハ責任内閣制度ヲ規定シタモノデ、日本ノ政治ヲ民主化スル上ニ於テ洵ニ結構ナ規定デアリマスガ、内閣ガ連帯シテ責任ヲ負フト云フヨリ、ヤハリ此処ハ法文上、内閣総理大臣及ビ其ノ他ノ国務大臣、国政ニ関シ――行政権ノ行使ト狭ク言ハナイデ、国政ニ関シト、斯ウシタラドウカト云フノガ我々ノ修正意見デアリマス

 第六十三条第二項、「衆議院と參議院とが異なつた指名の決議をした場合に、法律の定めるところにより、兩議院の協議會を開いても意見が一致しないとき、又は衆議院が指名の議決をした後、國會休會中の期間を除いて二十日以内」ト云フノヲ、一週間カ十日以内位ニ期間ヲ短縮スル考ヘデアリマスルガ、「參議院が指名の議決をしないときは、衆議院の議決を國會の議決とする。」、是ハ期間ヲ二十日ト云フノヲ一週間乃至十日、「スロー・モーション」ハ避ケテ敏速ニ行キタイ
 ソレカラ第六十四条、是ハ非常ニ大キナ問題ニナルト思ヒマス、「内閣總理大臣は、國會の承認により、國務大臣を任命する。」、国務大臣ハ国会カラ指名サレテ、サウシテ任命サレルノデアリマス、一タビ内閣総理大臣ヲ国会ガ信任スル以上、各大臣ハ内閣総理大臣ノ指名デ宜カラウ、一人々々大臣ヲ決メルニ議会ヲ開イテ一々決議ヲ求メル、一年中議会ガ開カレテ居レバ兎モ角、サウデナイ場合ニハ、一年ニ三人モ五人モ送ル場合、其ノ大臣ヲ決メル為ニ一々議会ヲ召集スル、煩ニ堪ヘズ、ノミナラズ或ル閣僚ガ不当ノコトヲシタ場合ニハ、連帯責任ノ建前カラ内閣総理大臣ヲ弾劾スル、即チ不信任案ヲ提起スル議会ニ権能ガ規定サレテ居ル以上、是ハ無用デハナカラウカト云フノガ我々ノ修正意見デアリマス(「修正デハナイ、質問ダ」ト呼ブ者アリ)
 ソレニ付テノ質問ヲ致シマス、政府ノ所見ヲ承リタイ(「細カイ意見ハ委員会デヤレ」ト呼ブ者アリ)委員会デ主トシテ細カシイコトハ致シマス、モウ二、三点ダケヲ述ベテ簡略ニ致シマス(「言論ハ自由ダ」ト呼ブ者アリ)御意見ニ依リマシテ、小サイ点ハ委員会ニ譲リマシテ、大筋ヲモウ一ツ二ツ申上ゲテ置キマス


第六章:司法

 第七十四条――意見ヲ述ベテ政府ノ所信ヲ問フノモ一ツノ質問ノ形式ト思ヒマス、第七十四条、「裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の彈劾によらなければ罷免されない。」是ハ裁判官ヲ一般ノ民衆ガ弾劾スルト云フコトニナツテ居リマス、七十五条ニモ関連スルコトデアリマスガ、細カシイ議論ハ他ノ機会ニ譲リマシテ、此ノ高等裁判所、即チ日本ノ最高裁判所ノ判事ヲ、十年目毎ニ資格ヲ審査シテ国民投票デ決メルナント云フコトハ「アメリカ」ノ如ク最高裁判所ノ判事ノ数ガ九人位ナラマダ宜シイガ、日本ノ大審院ノ判事ハ三十名モ居ル、不肖自ラモ大審院判事ノ名前ヲ存ジマセヌ、然ルニ十年目毎ニ国民投票デソレノ資格ノ適格、不適格、追放ニ値スルヤ否ヤヲ決メルト云フコトハ、私ハ非常ニ困難デアラウ、是ハ「アメリカ」的ノ考ヘヲ余リ採入レタノデ、根本的ニ考慮スル必要ガアラウト思ヒマス(「ヒヤヒヤ」拍手)

 ソレカラ第七十八条、細カシイ所ハ除イテ行キマス、「裁判の對審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。」、是ハ公開裁判ノ規定ヲヤツタノデ、洵ニ結構デアルト思ヒマスガ、其ノ第二項ニ「裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には、對審は、公開しないでこれを行ふことができる。」、秘密ノ裁判ガ出来ル規定ガアリマス「但し、政治犯罪、出版に關する犯罪又はこの憲法第三章で保障する國民の權利が問題となつてゐる事件の對審は、常にこれを公開しなければならない。」ト斯ウアリマスガ、憲法第三章デ規定シテ居ル国民ノ権利ハ、実ニ広汎ニ亙ツテ居ル、ソコデ此ノ場合ニハ必ズ公開ニシナケレバナラヌト云フト、一体例外デ、秘密デヤツテモ宜イ場合ガナクナル、公ノ秩序、善良ノ風俗ヲ害スルモノハ、多ク出版物ニ関係ガアル、出版ニ関スルモノハ除ク、ソレデナイ公ノ秩序、善良ノ風俗ヲ害スルモノハ裁判官全員一致ノ場合ニハ秘密裁判デヤツテモ宜イ、ココニ相当ノ矛盾ガアリハシナイカ、是モ司法当局ノ御意見ヲ承リタイ

第七章:財政  
第八章:地方自治制  
第九章:改正  
第十章:最高法規  
   其ノ他聞キタイコトモ多々アリマスルガ、詳細ハ委員会ニ譲リマシテ、先ヅ私ノ述ベマシタ総論的質問五項、細目的質問ノ諸項目、天皇ノ規定ニ関シ、或ハ国民ノ権利義務ニ関シ、或ハ国会、内閣、司法ノ諸規定ニ関シ私ノ質問致シマシタ事柄ニ付キマシテ、内閣総理大臣初メ所管大臣ノ御答弁ヲ煩ハシタイト存ジマス(拍手)

答弁

内閣総理大臣
吉田茂

  〔国務大臣吉田茂君登壇〕
○国務大臣(吉田茂君)
 御答ヘ致シマス、現行憲法デモ運用宜シキヲ得レバ改正スル必要ガナイデハナイカト云フヤウナ議論モアルト云フ御話デアリマス、是ハ現憲法ハ万世不磨ノ大典トシテ国民ノ崇敬ノ的デアツタコトハ諸君ノ御承知ノ通リデアリマス、併シナガラ敗戦ノ今日、破局ノ今日、此ノ不幸ナル敗戦ヲ持来シテ、現在ノ如キ不幸ナル状態ヲ持来シテ居ルト云フコトガ抑々何デアルカ、是ハ敢テ憲法ノ欠点トハ申シマセヌガ、不幸ニシテ憲法ノ意義精神ガ歪曲セラレテ、遂ニ斯クノ如キ状態ニ政治状態ヲ持来シタ、悲運ヲ持来シタト云フコトヲ考ヘテ見マスルト、此ノ点カラモ相当改正ヲシナケレバナラヌ時ニ際会シテ居ルト考ヘザルヲ得ナイノデアリマス、殊ニ又「ポツダム」宣言等ノ降伏条項等ニ照シ合ハシテ考ヘテ見マシテ、現在ノ憲法其ノ侭デハ国政ノ運用ニ於テモ、或ハ国際関係ヲ整理致シマス上ニ於テモ十分デナイト考ヘザルヲ得ナイ色々ノ点ガアリマス
 御質問ノ一ツハ、改正草案ト英米其ノ他ノ民主制トノ関係ハドウデアツタカト云フコトモ、御質問ノ一ツデアリマスガ、又憲法改正草案ヲ松本国務大臣案トシテ世間ヘ発表セラレタルモノト異ナル所ガ改正草案ニ於テアル、多イ、或ハ全然異ナツテ居ルデハナイカト云フ御質問ガアリマス、是ハ尤モデアリマスガ、松本案ナルモノトシテ発表セラレタ草案ハ、当時二案三案アツタノデアリマシテ、政府ノ研究シマシタ草案ノ一ツガ発表セラレテ議論ノ的ニナツタノデアリマスガ、其ノ他ニモ更ニ最モ進歩的ト云ヒマスカ、他ノ法案ニ属スル一、二案ガアツタノデアリマス、ソレガ発表セラレル前ニ事態ハ急激ナル国際情勢ノ変化ニ応ジマシテ、新タニ草案ヲ作ルコトニナツタノデアリマス、政府ガ憲法改正ノ必要ヲ認メマシテ、研究ニ着手致シマシテカラ、欧米其ノ他ノ日本ニ対スル感情、考ヘ方ニ付テ色々事態ガ明瞭ニナツテ来マスルト共ニ、日本ノ国際関係ニ於テ容易ナラザルモノガアルコトヲ考ヘザルヲ得ナクナツタノデアリマス、先ヅ第一、日本ノ従来ニ於ケル国家組織、此ノ国家組織ガ再ビ世界ノ平和ヲ脅カスガ如キ組織デアルト誤解サレタノデアリマス、日本ヲ戦争ニ導イタ原因、国情、組織等ガ世界ノ平和ニ非常ナ危険ヲ感ゼシムルモノアリト誤解サレタコトデアリマス、随テ又日本ガ再軍備ヲシテ世界ノ平和ヲ紊ス、撹乱スルコトノ危険ガアリハシナイカ、是ハ連合国ニ於テ最モ懸念シタ所デアリマス、故ニ先ヅ第一ニ連合国ト致シマシテ、日本ニ対シテ求ムル所ハ日本ノ軍備ノ撤去デアリマス、日本ガ再軍備ガ出来ナイヤウニスル、日本ノ軍備撤去ト云フコト、世界ノ平和ヲ脅カサザルヤウナ国体ノ組織ニスルト云フコトガ必要デアル、是ハ固ヨリ誤解カラ生ジタノデアリマス、日本ヲ軍国主義、極端ナル国家主義ノ国家トシテ考ヘラレ、国民トシテ考ヘ、好戦的ノ国民ト考ヘタ、其ノ誤解カラデアリマスルガ、併シナガラ此ノ五箇年ノ間ノ戦ノ悲惨ナル結果カラ見マシテ、斯クノ如ク考ヘ、又世界ガ平和ヲ愛好スルト云フ精神カラ考ヘマシテ、日本ニ対スル疑惑、懸念ハ又尤モト考ヘザルヲ得ナイノデアリマス、日本ガ敗戦ノ此ノ悲運ニ処シテ、国体ヲ維持シ、国家ヲ維持シ、国民ノ幸福ヲ維持スルガ為ニハ、大イニ考ヘナケレバナラヌコトニ際会シタノデアリマス、此ノ誤解ヲ解キ、此ノ世界ノ懸念ヲ解クコトガ日本国トシテ先ヅ考ヘナケレバナラヌコトデアリ、日本国民トシテ先ヅシナケレバナラヌコトデアルノデアリマス、連合国カラ致シマスト、上ニ皇室ヲ戴イテ、此ノ忠勇ナル日本国民ガ皇室ヲ中心トシテ一致団結スル、サウシテソコニ平和ニ対スル危険ガアリ、世界ノ平和ヲ紊ス原因ガソコニアルト考ヘラレタノデアリマス、斯クノ如キ疑惑ノ下ニアツテ、又斯クノ如キ危険ナル疑惑ノ下ニアツテ、日本ガ如何ニシテ国体ヲ維持シ、国家ヲ維持スルカト云フ事態ニ際会シテ考ヘテ見マスルト、日本ノ国体、日本ノ国家ノ基本法タル憲法ヲ、先ヅ平和主義、民主主義ニ徹底セシメテ、日本憲法ガ毫モ世界ノ平和ヲ脅カスガ如キ危険ノアル国柄デハナイト云フコトヲ表明スル必要ヲ、政府ト致シマシテハ深ク感得シタノデアリマス、是ニ於テカ、此ノ憲法改正案ヲ草案スルニ至ツタノデアリマス、松本案ヲ見ラレテ、サウシテ新憲法ヲ御覧ニナルト、如何ニモ其ノ懸隔ノ甚ダシイコトヲ御感ジニナリマセウガ、其ノココニ至ツタ所以ハ、サウ云フ国際事情ヲ考慮ニ入レテノコトデアリマス、此ノ点ハ各位ニ於カレテ深ク国際情勢ニ付テ御研究下サルコトヲ切望致シマス(拍手)
 又君主政治ト民主政治トノ関係如何ト云フ御尋ネデアリマスガ、日本ノ憲法ハ御承知ノ如ク五箇条ノ御誓文カラ出発シタモノト云ツテモ宜イノデアリマスガ、所謂五箇条ノ御誓文ナルモノハ、日本ノ歴史、日本ノ国情ヲ唯文字ニ現ハシタダケノ話デアリマシテ、御誓文ノ精神、ソレガ日本国ノ国体デアリマス、日本国其ノモノデアツタノデアリマス、此ノ御誓文ヲ見マシテモ、日本国ハ民主主義デアリ、「デモクラシー」其ノモノデアリ、敢テ君権政治トカ、或ハ圧制政治ノ国体デナカツタコトハ明瞭デアリマス、又歴代ノ天皇ノ御製ヲ見マシテモ、又明君賢相ノ詩歌其ノ他ヲ見マシテモ、日本ニ於テハ他国ニ於ケルガ如キ暴虐ナル政治トカ、或ハ民意ヲ無視シタ政治ノ行ハレタコトハナイノデアリマス、民ノ心ヲ心トセラレルコトガ日本ノ国体デアリマス、故ニ民主政治ハ新憲法ニ依ツテ初メテ創立セラレタノデハナクシテ、従来国其ノモノニアツタ事柄ヲ単ニ再ビ違ツタ文字デ表ハシタニ過ギナイモノデアリマス(拍手)是ハ私ノ一家言デハナクテ、私ハ諸君ニ於テモサウ御諒承ニナルコトト考ヘマス、又憲法ト皇室、皇室ノ御地位ニ付テ色々御意見ガアリマシタガ、大体ニ於テ御意見ノ通リデアルト思ヒマス、皇室ノ御存在ナルモノハ、是ハ日本国民、自然ニ発生シタ日本国体其ノモノデアルト思ヒマス、皇室ト国民トノ間ニ何等ノ区別モナク、所謂君臣一如デアリマス、君臣一家デアリマス、君ト臣トノ間ニ相対立シタ関係ハナイコトハ勿論デアリマス、故ニ主権ガ何処ニ在ルカト云フコトハ、日本国ニ於テハ甚ダ明瞭ナ問題デアリマス、敢テ言葉ヲ費スマデノコトモナイノデアリマス、又国体ガ之ニ依ツテ変更シタカト云フコト――是ハ北氏ノ御質問デハナイト思ヒマスガ、サウ考ヘル者ガアルカモ知レナイト云フヤウナ御話デアリマシタガ、サウ云フ者モアルカモ存ジマセヌガ、国体ハ新憲法ニ依ツテ毫モ変更セラレナイノデアリマス(拍手)日本ノ在来ノ精神、思想ガ、新憲法ニ於テ違ツタ文字デ表ハサレタニ過ギナイノデアリマス、又新憲法ノ調子ガ甚ダ翻訳的デアルト云フ御非難モアリマシタガ、勿々ノ際、或ハ用語等ニ於テ御不満ナ所モアリマセウガ、是ハ十分ニ御審議ヲ下スツテ、御満足ノ行クヤウニ御改メニナラレタイト思ヒマス(拍手)
 其ノ他戦争抛棄ニ関スル御質問モゴザイマシタガ、是ハ御意見ノ通リデアリマス、日本ト致シマシテハ、新平和国家ノ建設、日本ガ再建セラルル場合ニ於テ、平和主義ニ徹底シ、民主主義ニ徹底スル為ニハ、斯クノ如キ新シイ条項ヲ憲法ノ中ニ入ルルコトガ、先程申シマシタ国際情勢カラ考ヘテ見テ必要ト考ヘルノデアリマス、又斯クスルコトニ依ツテ、日本自身ガ平和国際団体ノ魁ニナルト云フコトヲ考ヘテノ此ノ憲法ノ条章ノ規定ナノデアリマス、其ノ他詳細ノコトハ更ニ金森国務大臣ヨリ御答ヘ致シマス(拍手)

答弁

国務大臣(憲法担当)
金森徳次郎

貴族院同成会
東京帝国大学法学部卒
大蔵省に入省
岡田啓介内閣の法制局長官
貴族院勅選議員
吉田内閣憲法担当国務大臣
初代国立国会図書館長

 

  〔国務大臣金森徳次郎君登壇〕
○国務大臣(金森徳次郎君)
 北君ノ御質問ニ対シマシテ、総理大臣カラ御答ヘニナリマシタ部分ヲ除キマシテ、私ノ考ヘヲ申上ゲタイト思ツテ居リマス、便宜上項目ト致シマシテハ北君カラ御尋ネニナリマシタ全般ノ問題ニ付テ一渡リ触レツツ進行致シマス
 第一ニ、此ノ憲法改正ノ必要ナル所以ニ付キマシテ、北君カラ詳細ナル御意見ヲ含メテノ御質疑ガアリマシタガ、大体ノ御意見ニ付キマシテハ、全ク御同感デアリマシテ、私共御質疑ニ触レタ色々ナ御説明ヲ伺ツテ居リマスル時ニ、十分ナ啓発ヲ受ケタト信ジテ居リマス、大体此ノ憲法ノ改正ハ、仰セニナリマシタヤウニ、「ポツダム」宣言ニ伴フ所ノ国際信義ヲ実行スルト云フコトノ外ニ、他ノ一面ニ於キマシテ、我々ハ此ノ混沌タル思想ノ混乱、社会情勢ノ動揺ト云フモノヲ逸早ク乗切ツテ、秩序アル国家再建ノ礎ヲ固メルト云フ為ニハ、ドウシテモ新タナル憲法ニハ、新シキ原理ヲ盛リ込マナケレバナラヌト思フノデアリマス(拍手)此ノ憲法ノ大体ノ特色ト致シマシテ、此ノ憲法ハ必ズシモ一ツノ徹底シタル経済原理ヲ基礎トスルトカ、政治原理ヲ基礎トスルトカ云フ風ニハ御説明申シ難イト考ヘテ居リマス、日本ニアル所ノ尊敬スベキ諸般ノ考ヘ方ヲ出来得ル限リ採入レテ、多クノ方々ガ此ノ憲法ノ内容ニ依ツテ、出来得ル限リノ御満足ガ得ラルルヤウニ工夫ヲシ、其ノ共通ノ基礎ニ於テ、更ニ各個ノ御考ヘヲ御持チニナル方ガ、民主政治ノ原則ニ則ツテ発刺タル政治其ノ他ノ論及ヲナサルニ適スルヤウニ、其ノ構想ヲ工夫スルト云フコトガ、一ツノ大キナ着想デアリマシタ(拍手)
 次ニ第二ノ点ド致シマシテ、改正憲法ト「ポツダム」宣言トノ関係ト云フコトデアリマスルガ、是ハ総理大臣ヨリシテ詳シク前後ノ事情ヲ御説明ニナリマシタカラ、私ハ申上ゲルコトハ別ニゴザイマセヌガ、御議論ハドウゾ遺憾ナク凡ユル点ニ付テ御示シヲ願ヒタイト思ツテ居リマス、我々ハ此ノ案ノ中ニ、現在ニ於テ考ヘ得ベキ一番適切ナル規定ヲ盛リ込ンダトハ信ジテ居リマスルケレドモ、決シテ其ノ考ヘヲ独断的基礎ニ於テ御批判ヲ逃レヨウト云フヤウナ考ヘハ全然持ツテ居リマセヌ(「名答弁」ト呼ブ者アリ)
 第三ニ北君ノ御質問ハ、此ノ憲法デハ、民主化トハ云フケレドモ、民主化ニハ色々ナ考ヘ方ガアル、「イギリス」型モアレバ、米国型モアルガ、日本ノ考ヘテ居ル日本的民主主義ト云フモノハ、国内民主主義ノミナラズ、国際的ニモ民主主義ノ旗印ヲ高ク掲ゲテ、全世界ニ革正ノ機運ヲ促スト云フヤウナコトヲ御示シニナリマシタ、其ノヤウナ心持ハ私共抱イテ居リマス、更ニ仰セニナリマシタ政治的民主主義ニ止マラズシテ、経済的民主主義デナケレバナラヌ、此ノ憲法ハ政治的民主主義ニ止マツテ居ルノカ、経済的民主主義ニ止マツテ居ルノカト云フ風ノ御質問ガアツタノデアリマス、之ニ付キマシテハ、憲法ノ条文ハ一々ソレニ付テハツキリシタ答ヘハ示シテ居リマセヌケレドモ、全体ヲ御通観下サイマスナラバ、現在ノ日本ノ情勢ニ於テ採入ルルニ適スル所ノ、此ノ限度ノ経済的民主主義ヲ含ンデ居ルモノト考ヘテ居リマス
 第四ニ、君主制ト民主制ハ矛盾シナイモノト思フガ、併シドウ思フカ、是モ総理大臣カラ御話明ガアリマシタカラ深クハ御答ヘヲ申シマセヌガ、私ハ民主政治ト日本ノ君主政治ト云フモノニハ、何等ノ破綻モ牴触モナイモノト固ク信ジテ居ルノデアリマス(拍手)我々日本人ノ、本当ニ日本ノ国ノ特色トデモ云フベキモノハ何デアルカト云ヘバ、我々ノ心ノ奥深ク根ヲ張ツテ居ル所ノ其ノ心ガ、天皇トノ密接ナル繋リヲ持ツテ居リマシテ、謂ハバ天皇ヲ以テ憧レノ中心トシテ国民ノ統合ヲナシ、其ノ基礎ニ於テ日本国家ガ存在シテ居ルト思フノデアリマス(「ヒヤヒヤ」)此ノ基盤、国民各自ノ発刺タル気持ヲ政治経済、凡ユル方面ニ実現シテ行クコトト何等ノ矛盾ガナイノミナラズ、是ト相伴フコトニ依ツテ初メテ両者トモ十分ナル働キヲ生ズルモノデアリマス、法文ノ規定ニソンナモノハナイヂヤナイカ、斯ウ云フ風ナ御心持ハ、ソレハ直接ニハゴザイマセヌ、併シ後ニ申シマスケレドモ、其ノ心持ヲ基礎トシテ憲法ノ多クノ規定ガ生レテ居ル訳デアリマス
 次ニ第五ニ、新憲法ト国体トノ関係ニ付テ御尋ネニナリマシタ、是モ総理大臣カラハツキリト御説明ニナツテ居リマスガ、其ノ趣旨ヲ私ノ言葉ヲ以テ数衍ヲ致シマスルナラバ、私ハハツキリ見極メ得ル歴史ノ時代ヲ通ジ――詰リ神秘的ナ歴史ノ時代ハ之ヲ除キマシテ、我々ガ合理的ニ判断シ得ラレマスル歴史ノ時代ヲ通ジ、又私共ノ心ノ中ニハツキリ把握シテ居ルモノヲ貫キマシテ、日本ノ国体ト云フモノハ先ニモ申シマシタヤウニ、謂ハバ憧レノ中心トシテ、天皇ヲ基本トシツツ国民ガ統合ヲシテ居ルト云フ所ニ根底ガアルト考ヘマス、其ノ点ニ於キマシテ毫末モ国体ハ変ラナイノデアリマス、偶々―是ハ少シク言ヒ過ギニナル虞モアリマシテ、間違ツタナラバ御補正ヲ願ヒタイト思ヒマスガ、稍々近キ過去ノ日本ノ学術界ノ議論等ニ於キマシテハ、其ノ時其
ノ時ノ情勢ニ於テ現ハレテ居ル或ル原理ヲ、直チニ国体ノ根本原理トシテ論議シテ居ツタ嫌ヒガアルノデアリマス、私ハ其ノ所ニ重キヲ置カナイノデアリマス、謂ハバサウ云フモノハ政体的ナ原理デアルト考ヘテ居リマス、根本ニ於キマシテ我々ノ持ツテ居ル国体ハ毫モ変ラナイノデアツテ、例ヘバ水ハ流レテモ川ハ流レナイノデアル、私共ノ憲法草案ニ関シマスル基本ノ観念ハサウ云フ点ニ存在シテ居ルノデアリマス(拍手)
 次ニ各論ノヤウナ所ニ移リマシテ、前文ニ於キマシテ翻訳調ガアリ、且又自由ノ齎ス恵沢トカ云フヤウナ風ニスベキモノデアルト云フヤウナ御意見ヲ御示シニナリマシタ、是ハドウモ今意見ヲ申上ゲマスルヨリモ、只今ハ大イニ之ヲ傾聴致シマシテ、又適当ナ機会ニ於キマシテ我々ノ所見ヲモ申述ベサセテ戴イテ、更ニ教ヘヲ乞ヒタイト云フ風ニ考ヘテ居リマス
 各論ノ第二ノ問題ト致シマシテ、象徴ト云フ言葉ヲ御取リニナリマシテ、「日本國の象徴」ト云フ言葉ハ何トナクピツタリ来ナイノデアツテ、日本国ノ元首ト云フ言葉ヲ用ヒタナラバドウカト云フヤウナ御尋ネデアリマシタ、私共ガ此ノ憲法草案ニ付テ考ヘテ居リマスルノハ、日本国ノ平明ニシテ何人ニモ分リ易カルベキ此ノ国家組織及ビ憲法ガ、今マデハ北サンモ仰セニナリマシタヤウニ、神秘ノ扉ニ閉ザサレ、色々ナ廻リクドイ理窟ヲ以テ説明セラレテ居ツタ、ソレガ本ニナツテ多クノ障碍ヲ生ジタト云フコトニアラウト思ヒマス、私ハ直截簡明ニ、是ガ極ク合理的ナ平明ナル言葉ヲ以テ、総テノ事柄ガ説明セラルルコトヲ期待スルノデアリマス、ソコデ元首ト云フ言葉ハ、謂ハバ中世紀的ナ一ツノ癖ヲ持ツテ居ル言葉デアリマスルシ、又物ノ譬ヘヲ頭ト云フ言葉ニ依ツテ云ヒ現ハシテ居ルノデアリマスルガ、ソレヨリモ根本的ニ象徴ト云フ言葉ヲ用ヒマシテ、普通ノ直感デハ稍々ハツキリ認識シ難キ複雑ナル存在ヲ、分リ易キ姿ヲ通シテ明瞭ニ信ジ得ルト云フ、サウ云フ象徴ト云フ言葉ヲ用ヒタ方ガ宜イ、謂ハバ天皇ヲ仰ギ奉ル時ニ於テ、日本国ト云フモノガハツキリ何人ノ頭ノ中ニモ映リ来ルト云フ意味ニ於キマシテ、象徴ト云フ言葉ガ直截簡明ニシテ宜イノデハナイカ、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居ル次第デゴザイマス
 次ニ天皇ニ責任ガナイト云フ旨ノ規定ハナイケレドモ、恐ラクハ責任ガナイト考ヘテ居ルノデアラウト云フヤウナ御尋ネガアリシマタガ、全ク其ノ通リデアリマス、第一条ノ示スガ如ク、天皇ハ国ノ象徴デアリ、又国民統合ノ象徴デアツテ、謂ハバ無色透明ナ、最モ国ノ中心ヲ表ハサルル方デアリマシテ、之ニ対シテ政治的責任ヲ認ムベキ理由ハナイト考ヘテ居リマス、併シソレデハ積極的ニサウ云フ規定ヲ置イタラバドウカト言フ、余リニモソレハワザトラシイノデアリマシテ、書カナクトモ明瞭デアルト同時ニ、第三条等ニ於テ其ノ趣旨ガ反面カラシテ明カニナツテ居ルト考ヘマス
 第四ノ点ト致シマシテ、国務ト政治ト云フ言葉ヲ御用ヒニナリマシタ、第四条ニハ「天皇は、この憲法の定める國務のみを行ひ、政治に關する權能を有しない。」ト云フ表現ノ仕方ガ悪イト、斯ウ仰シヤイマシタ、ソレハ色々ナ考ヘ方ハ起リマセウガ、趣旨ハ是デ御諒解下サツテ居ルノデアリマスルカラシテ、是レ以上ノ抗弁ハ致シマセヌ、更ニ第二項、即チ「天皇は、法律の定めるところにより、その權能を委任することができる。」ト云フ規定ノ趣旨ヲ明カニセヨト云フ御話デアリマシタ、天皇ノ権能ハ此ノ憲法ニ於テ掲ゲテアルノデアリマスルガ、ソレハ何レモ極メテ重要ナルモノデアリマス、随テ是ガ委任ヲ行ハセラルルト云フコトハ、特ニ正確ナル憲法上ノ基礎ガ必要デアルノデアリマス、ソコデ第二項ヲ置キマシテ、天皇ハ此ノ権能ヲ御委任ニナルコトガ出来ル、併シソレニハ一ツノ規律ガ要ル、ソレハ国会ノ議決ヲ経タル法律デアル、斯ウ云フ趣旨デアリマス、場合ヲ予想スルコトハ遽カニ致シ難イノデアリマスルガ、従来人ノ申シテ居リマスル所ハ、例ヘバ国外ニ御旅行ニナルト云フ場合ニ、委任ノ制度ガ必要トナルト云フ風ニ説カレテ居リマス
 第五ニ、裁可ト認証ト云フ言葉ヲ御挙ゲニナリマシテ、此ノ憲法ノ中ニ認証ト書イテアルモノヲ、裁可ト直スノガ適当スルモノガアルノデハナイカト云フヤウナ風ノコトヲ仰セニナリマシタ、是ハ天皇ノ権能ヲドウ云フ風ニ規定スルカト云フ根本ノ考ヘ方ト表裏スルモノデアリマス、先程北君ガ仰セニナリマシタヤウニ、日本ノ各方面ノ御議論ヲ伺ツテ居リマシテモ、天皇ノ大権ガ広過ギルト云フ考ヘモアリマスルシ、狭過ギルト云フ考ヘモアリマス、私共ノ考ヘ方ハ、国ノ象徴デアリ、国民統合ノ象徴デアル、其ノ地位、密接不可分デアリ、謂ハバ其ノ地位カラ当然滲ミ出シテ来ナケレバナラヌヤウナ権能ガ天皇ニアルコトガ望マシイノデアル、詰リ必要ニシテ而モ程度ヲ超エザル天皇ヲ考ヘルコトガ、天皇制ヲ護持スルニ最モ適スル所以デアルト考ヘタ訳デアリマス、ソコデ認証ト裁可ト云フモノハ謂ハバ同ジヤウデハナイカト云フ御気持モアリマセウ、又ソレモ尤モデアリマス、併シナガラ認証ト云フノハ事柄ノ存在ヲ判断スルノデアリマス、裁可ハ事ヲ或ル方向ニ決メルカドウカト云フコトデアリマシテ、其ノ言葉ノ内容ガ違ツテ居リマス、或ルコトノ存在ヲ認定スルコトト、或ル方針ヲ決定スルト云フコトハ違ツテ居リマシテ、此ノ違ツテ居ルコトハ、諸般ノ場合ニ色々ナ影響ヲ受ケ、遂ニ天皇ノ大権ニ名ヲ借リテ、憲法ノ秩序ヲ紛糾スル事態ガ将来起ラナイトハ、過去ノ歴史ニ顧ミテ断言シ切レナイノデアリマス、ソコデ認証ト云フ言葉デ適当ナル部分ハ其ノ言葉ヲ選ンダ訳デアリマス、詰リ妥当ナル所ニ限界ヲ求メタノデアリマス
 ソレカラ戦争抛棄ノコトニ付キマシテハ、総理大臣カラ御説明ニナリマシタカラ、私ハ申上ゲマセヌ
 次ニ、日本国民タルノ要件ハ法律ノ定ムル所ニ依ルト云フコトヲ憲法ニ書イタナラバ宜イデハナイカト云フ御趣旨デアリマシタ、或ハ又納税ノ義務ノ規定ヲ憲法ニ書イタナラバ宜イデハナイカト云フノデアリマシタガ、此ノ憲法ハ前ニモ申シマシタヤウニ、極ク実際上必要ニシテ適切ナル規定ノミヲ採入レルト云フ精神デアリマスルガ故ニ、省略シ得ル規定ハ多ク省略ヲ致シマシタ、国民タルノ要件ハ成程重要ナコトデハアリマスルケレドモ、併シ憲法ニハツキリ書切レルモノデモゴザイマセヌ、何レハ法律ヲ要スルノデアリマス、而モ従来ノ憲法卜違ヒマシテ、今度ノ憲法ハ大権事項ト云フコトニ幅ヲ認メテ居リマセヌノデ、主ナル事柄ハ総テ法律デ決メナケレバナリマセヌ、随テ憲法ニ規定ヲ置カナクテモ、国籍ヲ決メマスルノハ必ズヤ法律ヲ以テ決メナケレバナラナイ訳デアリマス、随テ之ヲ省イタ訳デアリマス、又納税義務ノ規定ハ、是モ挙ゲナクテモ今日ノ常識ニ於テ分ツテ居ルコトデアリマスルガ、寧ロ其ノ反面ノ規定、詰リ納税ト云フコトヲ前提ニ致シマシテ、其ノ租税制度ニ伴フ規定ヲハツキリ作レバ宜イデハナィカト云フ訳デ、後ノ方ニアリマスル第八条等ニ於キマシテハ、裏面カラ納税ノ義務ノ動カスベカラザル存在デアルコトヲ明カニシテ居リマス
 次ニ六月二十五日第八点ト致シマシテ、二十一条ノ学問ノ自由ノ中味ヲ述ベヨト云フ御話デアリマシタ、是ハ北君モ御挙ゲニナリマシタヤウニ、大学教授ノ自由ト云フヤウナ狭イ意味ニハ考ヘテ居リマセヌ、学問ノ自由ト云フ言葉ノ持ツテ居ル其ノ総テノ意味ニ於キマシテ、学問ノ自由ヲ憲法ガ保障シテ居ルト考ヘテ居リマス、随テ個人的ナ研究ノ範囲ニ於ケル学問ノ自由、大学ノ学園ニ於テ行ハレテ居ル所ノ学問研究ノ自由モ、共ニ包容シテ居ルト云フ趣旨ニ了解シテ居リマス
 次ニ第九ノ点ト致シマシテ、経済的民主主義ヲ採入レルナラバ、生活ノ色々ナ方面ヲ憲法ノ中ニ編込ムコトガ必要デハナイカト云フ御趣旨デアリマシタ、此ノ憲法ハ「ソ」連ノ憲法ナドノ如ク、経済的規定ニ付キマシテ種々具体化サレタ規定ハ含ンデ居リマセヌ、併シ経済的規定ニ付キマシテ目ヲ瞑ツテ居ル訳デハナイノデアリマス、今日日本ノ国民ノ大多数ガ恐ラクハ御納得ニナルデアラウト思フ程度ヲ押ヘマシテ、必要ナル規定ヲ設ケテ居リマス、其ノ顕著ナル一例ト致シマシテハ、第二十三条ガソレニ当ルノデアリマシテ、直接ニ国民ノ権利トハ申シマセヌケレドモ、総テノ生活部面ニ於テ社会ノ福祉、生活ノ保障及ビ公衆衛生ノ向上及ビ増進ノ為ニ、色々ノ法律ヲ立案シナケレバナラヌト云フ義務ヲ国家ニ負ハセテ居リマス、是ハ書キ方ハ違ツテ居リマスケレドモ、国民ノ生活保障ニ付テ相当留意シタ所ノ規定デアル訳デアリマス
 次ニ第十寃罪者ノ賠償ト、官公吏ノ不法行為ト云フコトニ付テ御尋ネニナリマシタ、此ノ答ヘハ後日デモ宜シイ、斯ウ云フ風ニ御許シニナツテ居リマスカラ、是ハ御言葉ニ甘ヘマシテ後日ニ譲ラシテ戴キマス
 第十一ニ、国会ハ最高機関デアルト書イテアルガ、ヲカシイヂヤナイカ、斯ウ云フ御質問デアリマシタ、是ハ此ノ憲法ノ中ニ於テ、一番意思決定ノ中心力ハ、前文ニモアリマスルヤウニ、国民デアリマス、ソレカラ又国家ノ象徴トシテハ天皇ガアルノデアリマス、天皇ト国民ハ我々ハ之ヲ国家ノ機関ト云フ言葉ヲ以テ言ヒ現ハサウトハシテ居リマセヌ、ソコデ普通ニ国家ノ機関トシテ言ヒ現ハサレテ居ル中ニ於キマシテハ、国会ガ最高ノ機関デアル、斯ウ云フ風ニ国会ノ特質ヲ一言以テ何人ニモ分リ易イヤウニ規定シタノデアリマス、併シ先程仰セニナリマシタヤウニ、最高裁判所ガ其ノ上ニアルノデハナイカト云フコトニナリマスガ、確カニサウデアリマス、併シソレハ憲法ニハツキリ其ノ規定ガアリマスカラ、所謂特別規定トナル意味ニ於キマシテ、之ヲ御諒解願ヒタイト思ツテ居リマスシ、恐ラク其ノ御趣旨デ御諒解下サルヤウナロ振リデアリマシタ
 第十二ト致シマシテ、参議院ノ構成ガ明カニナツテ居ナイト云フヤウナ御尋ネデアリマシタ、是ハ此ノ憲法ノ中ニハ参議院ノ構成ハ明カニナツテ居リマセヌ、併シナガラ参議院ノ特色ハ此ノ憲法ノ中ニ略々必要ナル規定ヲ備ヘテ居ルノデアリマス、詰リ衆議院ト対立抗争スルモノデハナクシテ、衆議院ト相伴ツテ国政ノ慎重ナル審議ヲ期スル所以ノモノデアル、斯ウ云フ趣旨ガ明カニサレテ居リマス、此ノ原理ヲ本ニ致シマシテ、適当ナル参議院ノ構成ヲ、其ノ内ニ法律ヲ以テ帝国議会ノ協賛ヲ仰イデ決スル訳デアリマシテ、其ノ中味ニ付キマシテハ現在腹案ヲ練ツテ居リマス、併シ尚ホ議会ニ於ケル各位ノ御意見等ヲモ伺ヒマシテ、最モ目的ニ副フヤウナ案ヲ設ケタイト考ヘテ居リマス
 次ニ第十三ノ御質問トシテ、選挙ノ有効無効ヲ議会デヤルコトハ却テ不公平デアル、斯ウ云フヤウナ御議論ガアリマシタ、ヤハリ是モ一ツノ考ヘ方デアリマスガ、私ハ、日本ノ民主政治ガ完全ナル発達ヲ致シマス為ニハ、各人ノ努力ニ依ルノデアル、今ノ侭デ本当ノ民主政治ガ出来ルトハ考ヘマセヌ、ダカラ斯ウシタラアアナルダラウ、斯ウ云フ欠点ガ出ルダラウト云フ点ノ心配ヲ余リシナイ、先ヅ大筋ノ民主政治ハ斯クアルベキモノデアルト云フ原理ヲ担イデ猪突シタイト思ツテ居リマス(拍手)議会ノ構成ノコトハ、議会自ラ最大ノ関与ヲセラレルノガ一番適切デハナイカ、若シソレニ弊害ガ起ルナラバ、其ノ弊害ヲ閉ザス方法ヲ第二ノ考ヘトシテ決メタ方ガ宜イデハナイカ、斯ウ云フヤウナ考ヘカラ斯ウ云フ案ヲ立テテ居リマス
 第十四ノ点ハ、第五十五条、法律案ノ審議ノ時ニ、国会ト参議院ニ縺レヲ生ズル、其ノ場合ニ此ノ憲法ニ書クヤウニシナイデ、両院協議会ヲ設ケタナラバ宜イデハナイカト云フ御意見デアリマシタ、私共モ左様ニ思ツテ居リマス、是ハ国会法トデモ云フベキ、此ノ国会ニ関スル法律ヲ設ケテ、其ノ中ニ於テ、法律案ニ付キマシテモ、現在ノ議会ニアリマスヤウニ、両院協議会ノ制度ヲ設ケルコトガ妥当デアル、謂ハバ此ノ憲法ニ書イテアル特殊ナ解決方法、両院協議会ニ依ル解決方法トノ二ツヲ設ケテ行ク方ガ宜イノデアル、何故是ニ書イテナクテ、条約其ノ他ニ書イテアルカト云ヘバ、条約ノ方ハ書カナケレバ規定ガ出来ナイノデアリマス、法律ノ方ハ書カナクテモ、一応ノ規定ハ出来マス、ソコデ是ハ国会法ニ譲ツタノデアリマシテ、実質ニ於テ、御趣旨ト喰ヒ違フコトハナイノデアリマス、尚ホ次ニ他ノ点ト致シマシテ、両院ノ間ノ連繋ノ期間、或ル場合ニハ六十日、或ル場合ニハ四十日、又或ル場合ニハ二十日ト云フヤウナ期間ガ長過ギルノデハナイカ、之ヲ三分ノ一位ニ縮メタナラバドウカト云フヤウナ御尋ネデアリマシタガ、是モ御意見トシテ尚ホ御教ヘヲ受ケタイ所デアリマスガ、一応ノ起案者ノ考ヘト致シマシテハ、民主政治ハ得心ノ政治デアル、相手方ニ無理押シニ押付ケルノデハナク、飽クマデモ懇談シタリ論争シテ、結局双方ノ納得スル所マデ押進メルヤウニシテ努力ヲシナケレバナラヌノデアル、随テ斯様ナ交渉ニ必要ナル期間ヲ短クスルコトハ好マシクナイト云フ積リデ、此ノ日時ヲ設ケマシタ、併シ日時自身ガ一分一厘モ延ビ縮ミヲ許サヌト云フ性質ノモノデハナイノデアリマシテ、其ノ点ヲ申上ゲル趣旨デハゴザイマセヌ
 次ニ第十六ノ点ト致シマシテ、六十条ノ裁判官ニ付テノ罷免ノ為ノ弾劾裁判所ノコトヲ仰セニナリマシテ、是ハ議会ニヤラセルヨリモ何カ特別ナモノヲ作ツタ方ガ宜イデハナイカト云フノデアリマシテ、是モ御尤モナ御意見デアリマス、併シ是ハ中々今一寸一言ニシテ申切レマセヌガ、図表ヲ一ツ書イテ、此ノ憲法ノ中ニ盛リ込ンデアリマス色々ナ国家機関ノ連絡関係ヲ御示シ致シマスナラバ、恐ラクハ御納得下サルコトト思ヒマスガ、此ノ憲法ハ相当権力分立ノ主義ヲ採入レテ居リマシテ、色々ナ国家機関ガオ互ヒニ自己ヲ主張スルト同時ニ、他ノモノカラ少シヅツ動カサレテ居リマス、其ノ関係デ無理ノ起ラナイヤウニ工夫シテアリマスノデ、其ノ現ハレデアリマシテ、裁判官ノ身分ヲ決メルニハ出来ルダケ公正ナルモノニ依ラナケレバナラヌ、ソコデ国会ノ議員ノ方ニ其ノ事務ヲ担任シテ戴イタナラバ宜イノデハナカラウカ、但シ弾劾裁判所ハ国会其ノモノデハアリマセヌノデ、国会議員デ組織スル弾劾裁判所ト云フ別ノモノデアリマス、是ハマダハツキリ之ニ関シマスル法律ガ決ツテ居リマセヌカラ、詳シクハ申シ切レマセヌガ、議会ノ会期トハ多分関係ナク考ヘラレルモノノヤウニ今ノ所デハ考ヘテ居リマス
 次ニ第十七ノ点ト致シマシテ、第六十二条「内閣は、行政權の行使について、園會に對し連帶して責任を負ふ。」ト云フ行政権ハ狭過ギルデハナイカ、国政トシタナラバ宜イデハナイカト云フ御尋ネデアリマシタ、是ハ恐ラク趣旨ニ於キマシテハ御尋ネノ趣旨ト違ハナイト思ツテ居リマス、内閣ノ所管スル総テノ国ノ政治ト考ヘテ居リマス、但シソレヲ行政ト云フ言葉ヲ以テ言現ハシタト解スルコトガ妥当デアリマス、是ハ言葉ノ問題ニ帰着致シマス
 次ニ第十八ノ点ト致シマシテ六十三条デ、是ハ二十日ヲ一週間トスルト云フコト、是ハ先ニ申シマシタ所ニ依ツテ分ルト思ヒマス
 次ニ第十九ノ点トシテ六十四条ノ国務大臣ヲ任用スル場合ニ於キマシテ、総理大臣以外ノ各大臣ハ一々国会ノ承認ヲ用ヒズシテ、総理大臣ガ自由ニ人選ヲスルヤウニシタナラバ宜イヂヤナイカ、詰リ一人々々ノ国務大臣ヲ任ズルニモ国会ノ同意ガ要ルト云フコトニナレバ煩瑣デアリ、敏活ナル内閣ノ働キヲ妨ゲルノデハナカラウカ、斯ウ云フ趣旨カラノ御尋ネデアリマシタ、ソレハ洵ニ御尤モナ御疑ヒデアルト思ヒマス、私共モ一応ハ其ノ考ヘヲ以テ頭ヲ練ツテ行キマシタケレドモ、併シ議院政治ト申シマスカ、国会ヲ中心トシテ内閣ハ之ヲ基礎トシテ働キヲシテ行クモノダト云フ原理ヲ採リマスル限リ、ドウモ一般ノ国務大臣ニ付キマシテモ、ヤハリ国会ガ同意ヲスルト云フコトニ依ツテ決メテ行クコトノ方ガ、連帯責任ノ実質ヲ挙ゲル上ニ好マシイト云フ気持ヲ以テ原案ガ出来タ訳デアリマス、
 第二十点ノ、七十四条ノ裁判官ノ弾劾ノ件、是ハ前ニ六十条デ御答ヘヲ致シマシタ点ト同ジデアリマス
 ソレカラ次ニ第二十一ト致シマシテ、第七十五条ノ最高裁判所ノ身分ニ付テ、国民投票ヲ行フコトハ行過ギデハナイカト云フ御質問ガアリマシタ、御承知ノ如ク、憲法ノ七十五条ニ於キマシテハ、最高裁判所ノ裁判官ハ任命匆々及ビ十年毎ニ国民投票ニ依ツテ身分ヲ決メル、国民投票デ以テ此ノ裁判官ハ罷メタラ宜イト云フ投票ガ沢山デアリマスルナラバ、ソレハ罷免ヲサルルト云フ規定ガ出来テ居リマス、此ノ点ハ北サンガ既ニ御疑ヒニナツタト同ジク、又別ノ理由ニ依リマシテ、他ノ方面カラモ御疑ヒヲ受ケテ居リマス、其ノ考ヘ方ハ、裁判官ハ本当ニ公正デナケレバナラナイ、凡ユル人カラ信用ヲ受ケル程度ニ公正デナケレバナラヌ、然ルニ人ノ顔色ヲ見テ裁判ヲスルト云フコトガアツテハナラヌノデアル、斯ウ云フヤウナ御考ヘガアリマシテ、ソコデドウシタラ宜イカト云フ時ニ、或ル方々ハ是ハ議会デ其ノ進退ヲ決シタラ宜イデハナイカ、斯ウ云フ意見ガアリマシタ、ソレカラ又此ノ原案ニアリマスヤウニ、国民投票ニスルト云フ意見、此ノ二ツヲ我々ハ聴イテ居リマス、併シ是ハ能クオ考ヘヲ願ハナケレバナリマセヌガ、憲法ノ草案ニ於キマシテハ、国会ト最高裁判所トハ動モスレバ徹底的ナ反目ヲ生ズル虞ガアル訳デアリマス、国会デ決メタ所ノ法律ガ、憲法違反ノ理由ニ依ツテ最高裁判所デ無効ニサレルト云フコトハ制度ノ認ムル所デアリマス、「アメリカ」ノ実情カラ云ヘバ、「パーセント」ハ大シタコトハアリマセヌケレドモ、数ハ相当多ク裁判所ニ依ツテ無効トサレテ居リマス、例ヘバ「ニュー・ディール」ノ場合ノ法律ハ、慥カ九ツノ中ノ六ツガ裁判所ニ依ツテ否認セラレテ居リマス、斯様ナ事態ハ好マシイコトデハアリマセヌケレドモ、此ノ憲法ノ建前トシテハ已ムヲ得ナイノデアリマシテ、之ヲ調節致シマス上ニハ、余程憲法上ノ工夫ガ要ルノデアリマス、議会ノ方ニ直チニ裁判官ヲ動カス力ヲ認メテ置キマスルト、裁判所ノ独立性ハ可ナリ脅カサレルコトニナリマス、ソコデ議会デモナイ、裁判所デモナイ、稍々離レタ所ノ国民投票ニ依ツテ之ヲ決メルト云フコトガ唯一ノ妥当ナル答トシテ残ツテ来ルモノト考ヘテ居リマス
 次ニ二十二ノ点トシテ、裁判所ヲ公開スルト云フ原則ガ行過ギデハナイカ、出版犯罪或ハ国民ノ権利義務ニ関スル犯罪ト云フモノニ付テ、一々公開裁判ニスルト云フコトハヤリニクイノデハナイカ、斯ウ云フ御考ヘデアリマス、是モ確カニ御尤ナ意見デアリ、私共モ此ノ条文ノ原案ヲ作成シマスル時ニハ、幾度カ文章ヲ書キ改メテ、御非難ノヤウナ趣旨ニ陥ラナイヤウニ努力ヲ致シマシタ、併シナガラ言論ノ自由トカ基本権ノ自由ト云フモノハ、人類ノ発展ノ為ニ欠クベカラザル根本ノ要素デアリマシテ、而モ時ノ勢ヒニ依ツテ著シク侵害セラル、虞ノアルモノデアリマス、詰リ人類生活ノ元モ子モ潰シテシマフヤウナ虞ノアルモノデアリマス、デアルカラ、是ハ国民批判ノ目ノ前ニアリアリト置イテ過チナキヲ期サナケレバナリマセヌ、煩瑣ナ部分ハアリマスケレドモ、色々考究ノ結果、公開ノ審理ノ事柄ト致シタ訳デアリマス、併シ是ハ尚ホ御説明ヲ申上ゲマスレバ、恐ラクハ御得心下サルトハ思ヒマスガ、実際ニハサウ何カラ何マデ公開ニナル訳デハゴザイマセヌ、是ニ掲ゲマシタ権利ガ其ノ裁判ノ主タル問題トナルト云フ時ニ限定セラレルト考ヘテ居リマス
 其ノ外尚ホ御質問ハアツタト思ヒマスルガ、少シ逃シタ点モアリマスカラ、此ノ辺デ私ノ御答ヘヲ終リマス(拍手)

  ○北れい吉君
 只今ノ総理大臣並ニ国務大臣ノ御答弁ニ付テハ了承致シタ点モアリマスシ、又了承シ兼ネル点モアリマス、答弁ノ趣意モ分ラナイ点モアリマスガ、詳シイコトハ委員会ニ譲リマシテ、質問ヲ打切リマス