ムカルナス:回教建築の鍾乳石状装飾 English 高橋士郎
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ムカルナスの形態は、幾つかの水平基準面の積層で構成される。各水平層が作る等高線は、違いに交差することがないので、 どのように複雑なムカルナスでも一枚の天井伏図に表示することができる。 すなわち、ムカルナスが作る虚の空間は、金型の中のプディンをひっくり返して取り出す時のように、 引っ掛かることなく、垂直下方に抜き取ることができる このことは、ムカルナスの決定的な特徴であり、審美的、構造的、工法的に大きな意味を持っていると思われる。
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図版:イラクのシャット・アル・ニル遺跡 |
一般的に動物の巣は丸いが、人はなぜか四角い部屋に住む。煉瓦で建物の天井を作るためにはドーム構造を利用することとなるが、方形プランの建築に円形の煉瓦ドームをのせるためには、まず方形の壁構造の上四隅にスキンチアーチを建設して、8角形を導き、円形に近づける必要がある。 11世紀に建設されたイランのカラカン墓塔の壁面デザインは、装飾化したスキンチアーチのイメージをよく表している。壁面の上段には円形ドームが、下段には方形の室内が表現されているが、上段と下段の中間層には三葉アーチのイメージが連続している。 このように方形の部屋と円形のドームを連結させるスキンチアーチの水平層を、美的に整える過程で、ムカルナスが発生したものと思われる。 イスファハンのマスジト・イ・ジョメの中央ドーム内面が非ユークリッド的な球面幾何学に基ずいて装飾されているのとは対照的に、その下の水平層は平面幾何学に固執する。 煉瓦装飾の方法としてムカルナスが発生すると、ムカルナスの迫り出し機能が強調されて、ムカルナス自体がドーム化し、独自に発展することとなる。
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乾燥地帯のアーチ煉瓦建築は、意外にも1本の糸を治具にして施工される。煉瓦工は煉瓦をもつ手首に糸を結わえ付け、その糸の先をドームの中心点に固定しておけば、正確な曲線を積み上げる事ができる。中東独特の薄手の煉瓦は容易に斜面に張り付き、たちまちにして太陽熱で乾燥固定する。 多芯アーチの場合は、地球重力で崩落しやすい頂上部分を省略するために、糸を張り替えて、左右の円弧を頂点で抱き合わせ、地球重力と折り合いをつける 水平基準面にこだわり、多数の水平層を順次迫り出して寄り添うムカルナスの造形は、地球重力による崩壊の恐怖を和らげ、安定した視覚造形に成功している 水平層の原理は、極座標様式ムカルナスの場合にも堅持される。極座標様式のムカルナスは、建築構造の表面に取り付ける装飾パネルの集積で構成される。パネル部材は、地上の治具で正確に制作された後に、建築構造から突き出た取付リブを介して建築構造に固定される。その設計製作の工程においては、ユニットパネルと建築構造体との、取り合わせ寸法を一致させるためにも、正確な水平基準が不可欠となる。 ムカルナスの造形は、観念的な幾何学を追求しながらも、地球引力の現実感覚を越えることはない。
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