ムカルナス:回教建築の鍾乳石状装飾 English 高橋士郎
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TOLEDO, Santa Maria Catedral
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中世レコンキスタの記憶をとどめる、ヨーロッパの西端、イベリア半島のアルハンブラ宮殿の壁面モザイクには、キリスト教徒とイスラム教徒の紋章が共存している。 バルセロナ市の敬虔なカトリック教徒であるアントニオ・ガウディは1885年ビセンス邸の喫煙室天井に独特のムカルナスを創作した。 ヨーロッパの東端、バルカン半島のハンガリーのペーチ市には、ローマ時代の教会を改修したモスクがあるが、そのキブラの上にはイエス像が共存している。 中世キリスト軍とイスラム軍が対峙した、ヨーロッパ東端と西端において、近代的なムカルナス創作の試みがおこなわれ、独特のムカルナス芸術がみられる事は、興味のあることである。 しかしながら、現代に創作されたムカルナスの造形は、単純なXY座標であったり、ムカルナスの造形原理とは懸け離れた表現が多い。ムカルナス芸術は、近代化に伴い、西洋的な造形原理の影響を受けて、イスラム固有の伝統的な特徴が失われつつある。 1980年に新しく完成したボスニア・ヘルツェゴビナのヴィソコ市の木製ムカルナス(建築家Zlatko Ugljen)は、現代美術を思わせる端正な造形だが、現代美術のグローバル化により、ムカルナスの造形思想が変質していく顕著な例である。 ムカルナスの崩壊は、地震などの自然災害によるだけではなく、多くのムカルナスが戦乱に遭遇して、荒廃と復興を繰り返したにちがいない。ボスニア・ヘルツェゴビナの民族紛争や、現在のイラク戦争サマッラ市での爆破は、今日の問題である。
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以上に述べたムカルナスの三つの造形原理(対称性・内面性・水平性)に基づき、著者はムカルナスの創作を試みた。本稿のおわりに、その習作図面を三点しめす。
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