絵画の方程式 1992 多摩美術大学 研究紀要7号 高橋士郎
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はじめに 「芸術的」の反対語として「機械的」という言葉が使われる。 コンピュータで絵画を描くというと、不愉快な気持ちがある反面、とても興味がわくことである。 機械によって描く絵画であるコンピュータグラフィックスは、論理的なアルゴリズムによって、形の構造(モデリング)と光の陰影(シェイディング)を自動的に計算して画像を生成する。アルゴリズムの理論は、混沌とした現実の諸相を、抽象化し大系化する。 反対に、創造的な画家は、自らの抽象的な思想を具体化し、キャバスに表現する。その具体化のプロセスは、画家の感覚的で情緒的なブラックボックスとして扱われ、正確な記述がなされることが少ない。 本稿は、現代の実験的CGアルゴリズムを参考としながら、歴史的な絵画作品のモデリングとシェイディングを考察する。 |
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抽象的な論理体系を目指すアルゴリズムと、具体的な絵画表現を目指す創作は、相反する方向である。しかしながら、混沌とした現実を観察して、大系を認識し、再び現実に表現するという、創造活動の循環において、両者は共通の場を回っているにすぎないのであろう。 機械の発明以前に、機械は人々の心の中に用意されていたとルイス・マンフォードは著書「技術と文明」1934年で指摘している。中世の僧院における、定刻によって進行する戒律生活は、その後の時計の発明を予定しているという訳である。 以上に述べたように、ダビンチの曖昧な拡散光、ファンアイクの質感描写、ゴッホの太陽と青空など、歴史的な絵画は現代のCGと共通するアルゴリズムを追求している。「芸術」も「機械」もどちらも人間性の一部であるに違いない。 考えてみれば、キャンバスの表層にイメージを定着する絵画作品も、半導体にプログラムを書き込むCGも、どちらもバーチャルリアリティを追求する、重力のおよばない仮想の世界のことである。 CGアルゴリズムは、あいまいな絵画理論に明快な方程式をあたえ、理論の上に理論を構築する。CGアルゴリズムによって明らかになった理論は、CGアルゴリズムによってまだ明らかになっていない未知の領分も明らかにする。キュービズムやアンフォルメルに相当するCGプログラムが試行され、フラクタクルに相当する絵画が試みられている。 東洋画
アルビン・レイ・スミス Alvy Rey Smith 1943- white.sands |